【就活生のための有報の読み方 case01】note株式会社を読む
📢 はじめに
いつもご覧いただきありがとうございます。
今回から、これまでとは少し違う種類の記事を始めます。
組織の内側で起きる構造ではなく、企業が外に向けて出した文書を読む話です。
一回につき一社、その会社の有価証券報告書を最初から最後まで読み通します。
使うのは通期の有報二期分です。最新の一冊で今どうなっているかを見て、前の一冊と並べて、説明の仕方が変わったかどうかを見ます。
初回はnote株式会社です。
知らない会計用語が出てきても、そこで止まる必要はありません。今ならAIに聞けば、いくらでも自分の理解度に合わせて説明してもらえます。大切なのは、用語を知っていることより、「なぜこの数字なんだろう」と立ち止まることです。
なお本稿は、EDINETおよび同社が公開している資料に基づくものであり、特定企業の株式について投資判断を推奨するものではありません。
🖋序章:手が挙がらない質問
こんにちは、peng noteです。
今回から、大学の講座で実際に使っている読み方を、一社ずつ記事でもたどってみたいと思います。
講座では、いつも同じ質問から入ります。
「有価証券報告書を、実際に開いたことがある人はいますか」
手が挙がることは、ほとんどありません。
続けて、こう聞きます。
「では、志望している企業の採用サイトを読んだことがある人は」
今度は、ほぼ全員の手が挙がります。社員インタビューをすべて読んだ、企業理念を暗記した、という人もいます。その熱心さを否定するつもりはまったくありません。
この話をするようになって、もう二十年ほどになります。その間に、就職活動の景色はずいぶん変わりました。就職情報誌や会社案内を読み込み、企業の採用サイトを探していた頃から、口コミサイト、SNS、動画へと、学生が企業について得られる情報は比べものにならないほど増えました。学生の調べ方も、以前よりはるかに巧みになっています。
それでも、不思議なくらい変わらないことがあります。二十年ほど同じ質問をしてきて、この二つの手の挙がり方だけは、ほとんど動いていません。それを私は、少し面白いと思っています。
学生が企業研究をしていないのではありません。むしろ、とても熱心にしている。ただ、企業から差し出された情報のうち、「自分に向けて作られたもの」を中心に読んでいるのです。
🖋第一章:「嘘が書けない」ことと、「本音が書いてある」ことは、違う
採用サイトと有価証券報告書の違いを尋ねると、最初に出てくるのはたいてい、この答えです。
「採用サイトは宣伝だけど、有報には嘘が書けない」
半分は正しい。
有価証券報告書は金融商品取引法に基づく法定開示書類で、虚偽記載には刑事罰を含む制裁があります。企業の広報物とは、文書としての性質がまったく違います。ここまでは、そのとおりです。
ただ、この答えには続きがあります。嘘が書けないことと、本音が書かれていることは、同じではありません。
有報は、開示すべき事項が定められた枠組みの中で、企業が自ら文言を選んで作成する文書です。何を書くかは制度が求めますが、それをどこまで踏み込んで書くか、どの言葉を使うか、どこに重みを置くかには、企業の判断が入ります。
「事業等のリスク」という欄を例に取ります。ここには想定されうる事態が列挙されていますが、多くの企業で、この欄は経営陣が夜も眠れないほど心配していることの順に並んでいるわけではありません。開示しなかった場合に問題となりうる事項が、網羅的に置かれている。それが実態に近い。
もう一つよく出るのが、こういう答えです。
「有報は投資家向け、採用サイトは学生向け」
これも正しいのですが、もう一歩進められます。読み手が違うということは、その文書が誰に対して説明責任を負っているかが違う、ということです。
採用サイトにも景品表示法などの規律は及びますが、有価証券報告書のような法定開示書類として投資家に説明責任を負っているわけではありません。有報は、投資家に対してそれを負っています。したがって有報には、企業にとって都合の悪いことも書かれます。ただしそれは、正直だから書いているのではなく、書かなければ問題になるから書いている。この区別は、読むときの姿勢を変えます。
◉有報から読み取れるものは、二層ある
上の二つの答えは、どちらも「書かれている内容」に注目したものです。しかし、有報から読み取れるものは二層あります。
一つは、書かれている内容そのもの。売上、利益、従業員数、リスク、提携先。これは誰が読んでも同じように読み取れます。要約サイトを読んでも、ある程度は分かります。
もう一つは、どの単位で、どこまでを書くと決めたのかという、開示の設計そのものです。
たとえば、後で見る「事業等のリスク」の欄には、それぞれのリスクについて発生可能性や影響度を自ら評価して付している会社と、付していない会社があります。制度が一律に求めているものではありません。付せば、その会社が何を重く見ているかが読み手に伝わります。付さなければ、伝わりません。どちらも制度に反していませんが、読み手が受け取る輪郭は変わります。
企業研究として本当に役に立つのは、後者のほうです。その企業が自分たちの何を説明可能なものとして扱っているかが表れており、これは採用サイトのどこにも書かれていないからです。
「嘘が書けない文書だから読む」のではありません。「説明責任を負って書かれた文書だから、何をどう書いたかに意図が出る」。だから読む価値がある。
この違いを最初に押さえておくと、後の読み方が変わります。
🖋第二章:なぜ、初回の教材が note株式会社なのか
読み方の話を抽象的に続けても、あまり身につきません。一社を最後まで読み通すのが、結局のところ近道です。
初回の教材に note株式会社を選んだ理由は、二つあります。
一つは、この記事を読んでいる方の全員が、この会社のサービスの利用者だからです。自分が毎日触れているものの裏側を読むほうが、知らない企業の数字を追うより、手がかりがはるかに多い。
もう一つは、この会社が、一般利用者から見えている姿と、開示文書上の姿とで、輪郭がかなり違うからです。
多くの利用者にとって note は、個人が文章を書いて公開する場所です。ところが有報を読むと、法人から定額の利用料を継続的に受け取る事業が、収益の柱の一つとして明確に位置づけられている。この差は、どちらかが正しくてどちらかが嘘、という話ではありません。見ている面が違うだけです。
有報を読むというのは、この「見ている面を増やす」作業だと考えていただくとよいと思います。
あらかじめ断っておきますが、本稿は note株式会社という企業への評価を述べるものではありません。この会社の経営が優れているかどうかは、本稿の関心の外にあります。関心があるのは、この会社が自らをどう説明しているか、そしてその説明のどこを読めば何が分かるか、という一点です。
🖋第三章:この会社は、自分の事業をどこで切り分けているか
まず開くのは、「第一部【企業情報】第1【企業の概況】3【事業の内容】」です。
講座でも、最初に開くのはここです。財務諸表は後回しで構いません。数字が何を意味するかは、稼ぎ方の構造を知らなければ解釈できないからです。
note株式会社の場合、事業は二つに分かれています。
メディアプラットフォーム事業。CtoCプラットフォーム「note」の運営、法人向けの情報発信メディアSaaS「note pro」、企業協賛型のコンテストなどが、ここに含まれます。担っているのは、note株式会社本体と、連結子会社のnote AI creative株式会社です。
IP・コンテンツクリエーション事業。クリエイターの企画や作品のエージェント業務、コンテンツの制作・販売、外部企業からの受託などです。担っているのは、連結子会社のTales & Co.株式会社です。
有報には、この区分がセグメントと同一である旨も書かれています。
ここまでは、書かれている内容を読んだだけです。ここから、第一章で触れたもう一層に入ります。
◉規模を並べてみる
この二つの事業の大きさを比べてみてください。2025年11月期の連結売上高は4,141,280千円。その内訳は、メディアプラットフォーム事業が4,079,637千円、IP・コンテンツクリエーション事業が61,642千円です。
後者は全体の1.5パーセント程度。しかもセグメント損失13,944千円で、利益は出ていません。
もう一つ、従業員数を見てください。「従業員の状況」には、セグメント別の人数が載っています。
連結の従業員数は158名。うちメディアプラットフォーム事業が157名、IP・コンテンツクリエーション事業が1名です。
売上の1.5パーセント、従業員1名、赤字。それでもこの事業は、独立した報告セグメントとして開示されています。

◉なぜ分けたのかを、制度から考える
セグメントの区分は、企業が好きに決められるものではありません。有報にはこう書かれています。報告セグメントは、分離された財務情報が入手可能であり、取締役会が経営資源の配分の決定及び業績を評価するために定期的に検討を行う対象となっているものである、と。
この定義に照らせば、少なくとも次のことは言えます。この事業については、分離された財務情報が用意されており、経営資源の配分の決定や業績の評価のために、定期的な検討の対象になっている。
売上の1.5パーセント、従業員1名の事業について、そこまでの手当てがされている。なぜなのかは有報に書かれていません。ただ、採用サイトに「新規事業に力を入れています」と書くことと、開示制度の枠組みの中でこの扱いをしていることとでは、記録としての重みが違います。
◉変えたら、変えたと書く
もう一つ、見ておきたい記述があります。
有報のセグメント情報の注記には、当連結会計年度より、各セグメントの業績をより的確に管理することを目的に、従来メディアプラットフォーム事業に配分していた費用及び資産の一部を、報告セグメントに帰属しない全社費用及び全社資産として調整額に含める方法に変更した旨が書かれています。
そして、その直後にこう続きます。
「なお、前連結会計年度のセグメント情報については、変更後の区分及び算定方法により作成したものを記載しております」
読み流しやすい一文ですが、ここが重要です。
集計方法を変えると、去年の数字と今年の数字が比べられなくなります。そこでこの会社は、去年の分も新しい方法で作り直したうえで並べている。だから読み手は、方法が変わったにもかかわらず、前期と当期を比較できる。
企業は、事業の見せ方を変えることができます。ただし、変えたら変えたと書き、過去に遡って作り直したならそう書かなければならない。
採用サイトは、通常、過去の版が並べて保存されることを前提にした文書ではありません。書き換えられれば、前の版は表から消えます。有報は違います。年度ごとに提出され、過去の開示も残る。そして、書き方を変えたこと自体が、その年の冊子に記録されます。
◉志望企業で試してみる
この読み方は、note株式会社に限りません。志望企業の有報を開いて、二つのことを確かめてみてください。
一つは、事業がいくつに分かれているか。そして、それぞれの規模はどれくらいか。売上の大半を占める事業と、切り出されているけれど小さい事業。後者があれば、その会社がいま何を育てようとしているかの手がかりになります。
もう一つは、その区分が最近変わっていないか。変わっていれば、注記に理由が書かれています。事業の見え方が変わったのか、経営の見方が変わったのか。どちらであっても、そこには何かが起きています。
面接で「御社の事業について」と聞かれたとき、採用サイトに書かれた事業紹介をなぞる学生と、「セグメントを分けられた時期に何があったのか」を尋ねる学生とでは、話がまったく違う場所に着地します。
ここまでで、この会社が何をして対価を得ていると説明しているか、その説明がどこで切り分けられているかを見ました。次は、数字そのものに入ります。
🖋第四章:五年分の推移が、二年しか載っていない
開くのは「第一部【企業情報】第1【企業の概況】1【主要な経営指標等の推移】」です。ここには複数期分の売上高や利益が一覧で並んでおり、業績の流れを最初につかむ場所になります。
ところが、note株式会社の有報を開くと、少し困ったことが起きます。
連結経営指標等の表には第10期から第14期までの欄がありますが、第10期・第11期・第12期は、売上高も利益もすべて「-」です。注記に理由が書かれています。第13期より連結財務諸表を作成しているため、それ以前は記載していない、と。
つまり、連結の数字は二年分しかありません。
◉五年を見たいなら、もう一つの表を使う
この欄には表が二つあります。連結経営指標等と、提出会社の経営指標等です。後者には、五年分がすべて入っています。
提出会社(親会社単体)の経常利益の推移を並べると、こうなります。
第10期(2021年11月期) △433,474千円
第11期(2022年11月期) △742,479千円
第12期(2023年11月期) △413,388千円
第13期(2024年11月期) 82,613千円
第14期(2025年11月期) 279,061千円
三期続いた赤字と、そこからの転換。この流れは、提出会社の表を開かなければ見えません。

ここが、この欄の使いどころです。連結と単体、どちらか一方だけを見て済ませようとすると、見たいものが載っていないことがある。二つの表があるのは形式的な重複ではなく、それぞれ見える範囲が違うからです。
◉直近期の数字を並べる
連結の第14期は、こうなっています。
売上高 4,141,280千円(前期比25.0パーセント増)
経常利益 262,673千円
親会社株主に帰属する当期純利益 440,642千円
ここで、講座では必ず立ち止まります。
経常利益は262,673千円。ところが、当期純利益は440,642千円です。
通常、当期純利益は経常利益より小さくなります。そこから法人税等を引くからです。ところがこの会社は、逆に大きくなっている。
🖋第五章:利益の中身を、税金の欄で確かめる
有報の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」には、利益がどう積み上がったかの説明があります。当期純利益に至る部分を見ると、こう書かれています。
法人税、住民税及び事業税を3,081千円、法人税等調整額を△180,766千円計上した結果、440,642千円の親会社株主に帰属する当期純利益となった、と。
マイナスの調整額は、利益を押し上げる方向に働きます。
これは税効果会計という仕組みによるものです。この会社は、第10期から第12期まで赤字を出していました。日本の税制では、過去の赤字を、将来黒字が出たときの課税所得から差し引ける仕組みがあります。
ただし、繰越欠損金があれば、その全額が自動的に資産になるわけではありません。将来の課税所得と相殺して回収できると判断された範囲で、繰延税金資産として貸借対照表に計上されます。回収できる見込みがどれだけ立ったか、という判断がそこに入ります。
実際、この期には繰延税金資産が166,712千円増加したと説明されています。その認識の増加に対応する法人税等調整額が、当期の利益を押し上げる方向に働いています。

◉これをどう読むか
誤解のないように書いておきます。これは何かをごまかしている話ではありません。会計基準に従った処理です。
ただ、性質は理解しておく必要があります。
営業利益256,142千円は、この一年の事業活動の結果です。一方、当期純利益440,642千円には、法人税等調整額による押し上げが含まれています。つまり、純利益の増加率をそのまま本業の稼ぐ力の伸びとして読むことはできません。
そして、この効果は毎年同じだけ続くものではありません。繰越欠損金が解消し、税効果会計による押し上げが小さくなれば、売上や営業利益が伸びていても、当期純利益の伸び方はそれまでとは違って見える可能性があります。
「純利益が大幅増」という見出しは、嘘ではありません。ただ、その増加が何でできているかは、有報を開かなければ分かりません。
これが、第一章で述べた「書かれている内容」と「その内容がどう作られているか」の差です。
🖋第六章:会社が自分で選んだ物差し
有報には、あまり知られていない欄があります。「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」です。
ここには、その企業が自分の成績を何で測るつもりでいるかが書かれています。
note株式会社の記載はこうです。財務指標のうち売上高と調整後EBITDAを重要指標と設定し、最大化を目指している。事業上の重要KPIとしては、「note」については流通総額(GMV)を、「note pro」についてはARRを設定している。
◉なぜ営業利益ではないのか
ここで問いを一つ立てられます。なぜ、営業利益や当期純利益ではなく、調整後EBITDAなのでしょうか。
EBITDAは、大まかに言えば、利益に減価償却費などを足し戻した数字です。会計上の利益より、事業が生み出す現金創出力に近いものを見ようとする指標で、成長段階の企業がよく用います。
もう一点、見落とせないことがあります。EBITDAは会計基準で定義された指標ではありません。さらに「調整後」と付く場合、会社が定義した追加の調整項目が含まれます。つまり、この会社は自分を測る物差しを選んだだけでなく、その目盛りの一部も自分で決めていることになります。
ですから、この指標を見たら、定義も探してください。何をどう調整した数字なのかは、有報のどこかに書かれています。
ここから断定できることは、そう多くありません。この指標を掲げているからといって、会計上の利益を軽視していると決めつけることはできない。言えるのは、この会社が当期純利益だけでなく、減価償却などの影響を調整した収益力を重要な物差しとして見ている、ということです。
それでも、この欄を読む価値はあります。どの数字で自分を測ると宣言したかは、その会社が投資家に何を見てほしいかの表明だからです。
志望企業の有報で、この欄を探してみてください。売上高を掲げる会社、営業利益率を掲げる会社、ROEを掲げる会社、契約数のような非財務の指標を掲げる会社。それぞれ違います。その会社が自分で選んだ物差しを知っているかどうかは、志望動機の解像度を変えます。
🖋第七章:有報に書いていない数字を、自分で作る
ここまでは、有報に書かれている数字を読んできました。次は、書かれていない数字を作ります。
企業研究でよく使われるものに、従業員一人あたりの売上高があります。この数字は、有報のどこにも載っていません。売上高と従業員数を、自分で割って出します。
◉まず、従業員数の推移を見る
提出会社の従業員数を、五期分並べてみます。
第10期 151名(臨時雇用者31名)
第11期 183名(35名)
第12期 163名(25名)
第13期 148名(19名)
第14期 154名(14名)
売上高は、同じ期間に1,884,149千円から4,079,637千円へ、約2.2倍になっています。
一方、従業員数は増えていません。第11期の183名がピークで、そこから減り、直近でやや戻したという形です。臨時雇用者は31名から14名へ、一貫して減っています。

売上が2倍を超えるあいだ、人はむしろ減っていた。この事実は、直近二年だけを見ていると分かりません。第13期の148名と第14期の154名を比べれば、6名増えただけに見えます。五期並べて初めて、この会社が一度大きくなってから縮んだことが見えてきます。
◉給与の数字を、外の数字と並べてみる
同じ欄には、提出会社の平均年間給与が7,639千円と記載されています。賞与及び基準外賃金を含む金額です。
この数字だけを見ても、高いのか低いのかは判断できません。そこで、外の数字を一つ置いてみます。国税庁の民間給与実態統計調査(令和6年分)によれば、一年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円です。
ただし、この二つは同じものを測った数字ではありません。前者は一社の、しかも提出会社(親会社単体)の従業員を対象としたもの。後者は全国の給与所得者を対象としたもので、業種も企業規模も年齢構成もまったく違います。優劣を比べる数字ではありません。
それでも、置いてみる意味はあります。一社の数字を単独で眺めていても、それが大きいのか小さいのか、判断の足がかりがないからです。外の数字を一つ置けば、少なくとも考え始めることはできます。
そして、置いた瞬間に、もう一つやるべきことが生まれます。二つの数字が、それぞれ何を範囲として切ったものなのかを確かめることです。これは、次の節でやることとまったく同じ作業です。
◉単位をそろえる
一人あたり売上高を出すとき、分子と分母の範囲をそろえなければなりません。
提出会社の売上高を使うなら、分母は提出会社の従業員数です。連結の売上高を使うなら、分母は連結の従業員数です。連結の売上を単体の従業員数で割れば、子会社の従業員が分母から抜け落ち、実態より大きな数字が出ます。
もう一つ、臨時雇用者の扱いがあります。従業員の状況では、臨時雇用者数が括弧書きで外書きされています。含めるか含めないかで結果は変わります。
第14期の提出会社で計算すると、こうなります。
就業人員のみ 4,079,637千円 ÷ 154名 = 約26,490千円
臨時雇用者を含む 4,079,637千円 ÷ 168名 = 約24,280千円
どちらが正しいということはありませんが、他社と比べるときは、同じ扱いで統一する必要があります。
計算そのものは割り算です。難しいのは、何と何を割るかを決めるところです。
◉この数字で何が分かるか
一人あたり売上高は、単年で見てもあまり意味がありません。同業他社と比べるか、その会社の推移で見るかです。
推移で見ると、この会社の場合は上がり続けています。売上が伸びるあいだ人を増やさなかったからです。
どちらが良いという話ではありません。また、この数字だけから入社後の働き方が決まるわけでもありません。ただ、人を増やさずに売上を伸ばしている会社と、人を増やしている最中の会社とでは、採用の位置づけが同じとは限らない。入社後の環境を考えるときの材料の一つにはなります。
採用サイトには、この局面の違いは書かれていません。
🖋第八章:同じ会社の、同じ年の、三つの数字
近年の有報には、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女の賃金の差異が記載されています。女性活躍推進法などの規定に基づいて算出されたもので、学生の関心が最も高い箇所でもあります。
note株式会社の提出会社の数値は、こうなっています。
管理職に占める女性労働者の割合 30.5パーセント
男性労働者の育児休業取得率 60.0パーセント
労働者の男女の賃金の差異 全労働者74.5パーセント、正規雇用労働者85.0パーセント、パート・有期労働者31.7パーセント
◉まず、この数字の意味を確かめる
「男女の賃金の差異」は、男性の平均賃金を100としたときの、女性の平均賃金の割合です。100に近いほど差が小さく、数字が小さいほど差が大きい。
つまり85.0パーセントは、女性の平均賃金が男性の85パーセントということ。31.7パーセントなら、三分の一弱ということになります。
数字が大きいほど「良い」方向になるので、直感と逆になりやすい箇所です。ここを取り違えると、以下の話がすべて逆に読めてしまいます。
◉74.5と85.0と31.7
そのうえで、最後の行をもう一度見てください。
同じ会社の、同じ年の、男女の賃金差です。それが三つある。しかも、いちばん大きい数字といちばん小さい数字では、50ポイント以上ひらいています。
これは、どれかが正しくて他が間違っているのではありません。区分が違うだけです。全労働者で見るのか、正規雇用労働者に限るのか、パート・有期労働者に限るのか。
有報の注記には、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との差は職群及び等級別の人数構成が主な要因である、と説明が付されています。
ここで、第一章の話に戻ります。開示の設計とは、こういうことです。
一般論として考えてみてください。どこかの資料で「男女の賃金差は85パーセント」という数字だけを見かけたとします。その数字が間違っているとは限りません。正規雇用労働者の数字であれば、正確です。しかし、三つのうち最も差が小さく見える数字でもあります。
数字を一つだけ見たときは、それがどの区分で切られたものかを確かめる。三つとも並んでいる文書を読んだ人だけが、その確認ができます。
◉数値の振れ幅にも注意する
もう一点。従業員数が少ない企業では、これらの比率は年によって大きく振れます。
育児休業取得率は、その年に配偶者が出産した従業員が何人いたかで変わります。有報の注記にも、配偶者が出産した従業員が翌年度以降に育児休業を取得することがあるため、取得率が100パーセントを下回る場合や超える場合がある、と書かれています。
単年の数字だけで判断せず、複数年を並べる必要があります。
ここまでは、会社が自分の成績を語る場所を読んできました。ここからは、企業が自ら弱点と課題を書く場所に移ります。監査報告書のKAM、事業等のリスク、そして重要な契約等です。
🖋第九章:監査法人が「ここを一番見た」と書いている
有報の最後のほうに、独立監査人の監査報告書が綴じられています。会社ではなく、監査法人が書いた文書です。
その中に、監査上の主要な検討事項(KAM)という項目があります。監査人が、その年の監査でとくに重要だと判断した事項を、理由とともに書く欄です。会社が書いた文書の中に、第三者が「自分はここを重点的に見た」と記録する場所がある。有報の中でも、性格の違う一節です。
note株式会社のKAMは、こう題されています。
「メディアプラットフォーム事業『note』における情報システムに高度に依存した収益認識」
◉なぜここが選ばれたのか
監査報告書には、決定の理由が書かれています。
当連結会計年度の売上高4,141,280千円のうち、CtoCメディアプラットフォーム「note」の運営による売上高は3,304,309千円で、全体の79.7パーセントを占める中核的な収益である。この売上は、クリエイターが設定した価格に対し、読者の決済手段等に応じて異なる料率を掛けて算出される。日々多数の取引が行われる中で、サービス利用料は、利用規約に基づいてあらかじめシステムに設定された料率と計算式に即して、取引ごとに自動計算されている。売上計上の仕訳も、システム上の取引データと外部の決済代行事業者から取得する決済データを照合・集計した売上レポートを基礎としている。
そのうえで、こう結ばれています。売上計上に係る主要なプロセスが情報システムの処理に高度に依存しており、データ量も膨大であるため、記録・保持・集計の各処理が正確かつ網羅的に実施されない場合、取引データや売上レポートの正確性が損なわれるリスクがある、と。
◉監査人が実際にやったこと
KAMには、それに対して何をしたかも書かれています。ここが具体的です。
監査法人はIT専門家を監査チームに関与させ、アクセス権管理、運用管理、アプリケーション変更管理、データ直接修正管理といったIT全般統制の整備・運用状況を検討しています。
さらに、システム上の取引データを入手して再計算を実施し、そのデータの抽出処理を理解するために抽出プログラムなどの関連文書を閲覧したうえで、監査人自身が抽出プログラムを実行した結果と取引データを照合しています。売上レポートについても同様に、監査人が作成プログラムを実行した結果と、仕訳の基礎に使われた売上レポートを照合しています。加えて、決済代行事業者からの入金明細書を入手して照合し、期末に未入金のものは残高確認を実施しています。

◉ここから何が読めるか
KAMは、会社の弱点を暴く欄ではありません。監査人がどこにリスクを見たかの記録です。
ただ、そこから会社の性質が透けます。この会社の売上は、人が請求書を起こして積み上げたものではなく、システムが自動計算した結果です。だから監査人もプログラムを動かして確かめている。
「クリエイターのためのプラットフォーム」という表の顔と、「膨大な自動処理を一円の誤差なく積み上げる仕組み」という裏側は、矛盾しません。同じものを、別の面から見ているだけです。有報を読むというのは、この面を増やす作業だと、第二章で書きました。KAMは、その面が最もはっきり見える場所のひとつです。
なお、この有報には監査報告書が二通あります。連結財務諸表に対するものと、財務諸表(単体)に対するものです。単体側のKAMは、連結と同一内容であるため記載を省略する、と一行だけ書かれています。
同じことを二度書かない。これも、開示の設計です。
🖋第十章:リスクは、心配の順に並んでいない
「第2【事業の状況】3【事業等のリスク】」を開きます。
note株式会社の有報では、四つの区分の下に、合わせて二十一の項目が並んでいます。事業環境、事業、事業運営体制、法的規制。それぞれに、競合優位性、解約リスク、システム障害、情報の管理、知的財産権、訴訟といった見出しが付いています。
ここで、もう一冊を使います。
冒頭に書いたとおり、この連載では通期の有報を二期分用意します。理由は、この欄のような場所にあります。
数字の変化は、一冊の中の推移の表が教えてくれます。説明の変化は、二冊並べないと教えてくれません。
去年は書いてあったものが今年は消えている。去年「低」だった評価が今年は「中」になっている。そういう変化は、去年の冊子を持っていない人には気づけません。
そこで、二冊を並べたときに最初にすることは決まっています。項目が動いたかどうかを見る。動いていれば、その理由を探す。動いていなければ、この欄の性格を確かめたことになる。どちらに転んでも、読み方が決まります。
今回は、後者でした。
二十一項目の見出しは、前期と当期でまったく同じです。順番も同じです。
◉動かなかったことが、何を意味するか
第一章で、こう書きました。事業等のリスクの欄は、経営陣が夜も眠れないほど心配していることの順に並んでいるわけではなく、開示しなかった場合に問題となりうる事項が網羅的に置かれている、と。
その実例が、これです。一年のあいだに、この会社には資本業務提携が一件増え、売上は25パーセント伸び、赤字の解消が進みました。それでもリスクの項目は一つも増えず、一つも減っていません。
このことから、リスクの欄には価値がない、と結論するのは早すぎます。読み方が違うだけです。この欄は、この業種で書いておかなければならない事項が何かを知る場所です。同業他社の有報を三社ぶん開けば、共通して並ぶ項目が見えてきます。それが、その業界の構造的な弱点です。
そして、他社では動くことがあります。項目が増えていれば、その一年に何かが起きています。消えていれば、解決したのか、書き方を変えたのかを確かめる手がかりになります。今回のnote株式会社が動かなかったことは、次に読む会社が動いていたときに、その意味を測る基準になります。
◉ただし、この会社は自己評価を付けている
note株式会社の各リスクには、見出しのすぐ下に一行、こう付されています。
発生可能性:中、発生可能性のある時期:特定時期なし、影響度:中
これは全社に義務づけられた形式ではありません。付けている会社と付けていない会社があります。
そして、付けている場合、そこには判断が出ます。
たとえば「特定のカテゴリー収益について」は、発生可能性が中、影響度が中。本文には、売上構成比率において、競馬等の公営競技や、ビジネス・投資・IT等といったユーザーの経済的利益に直結しやすいカテゴリーの流通金額の比重が高い、と書かれています。対策として、トップページでの多様なコンテンツのピックアップや、note pro事業・法人向けサービス事業の収益拡大に取り組んでいることも記されています。
「特定人物への依存について」は、発生可能性が低、影響度が中。ここには代表取締役CEOの氏名が実名で記され、創業者であり、出版・コンテンツ業界に関する知識と経験と人脈を有し、経営方針や事業戦略の決定に極めて重要な役割を果たしている、と書かれています。会社が自分の文書に「この人がいなくなったら影響がある」と書いている。採用サイトには、まず出てこない種類の記述です。
◉第五章と、ここがつながる
もう一つ、見てほしい項目があります。「税務上の繰越欠損金について」です。自己評価はこうなっています。
発生可能性:高、発生可能性のある時期:数年以内、影響度:小
本文には、業績が事業計画に比して順調に推移することにより繰越欠損金が解消した場合には、通常の税率に基づく法人税等が計上されることとなり、経営成績及びキャッシュ・フローに影響を及ぼす可能性がある、と書かれています。
第五章で、当期純利益が経常利益を上回っていた理由を見ました。繰延税金資産の認識に対応する法人税等調整額が、利益を押し上げていたことによるものだと。
その論点と関係する記述が、ここにもあります。会社は、繰越欠損金が解消する可能性を「高」と評価し、その時期を「数年以内」としている。解消したときに何が起きるかも、本文に書いてあります。
有報は、こういう読み方ができます。数字の欄で気づいた疑問の答えが、別の章に置かれている。全部を通読する必要はありませんが、一つの疑問を持って開くと、思わぬ場所で拾えます。
🖋第十一章:設備を持たない会社
「第3【設備の状況】」は、就活生がまず読まない欄です。工場や店舗を持つ企業なら重要ですが、そうでなければ通り過ぎてしまう。
ところが、通り過ぎる前に一度だけ数字を見ると、その会社がどういう会社かが分かります。
note株式会社の主要な設備は、本社一か所です。帳簿価額は、建物及び構築物が555千円、工具・器具及び備品が2,913千円、合計3,468千円。
三百五十万円弱です。上場企業の主要な設備として見ると、かなり小さい数字です。
前期は合計10,311千円でしたから、一年で三分の一になっています。当連結会計年度の設備投資はありません、とも書かれています。
一方、注記にはこうあります。本社はシェアオフィスを利用しており、その年間の利用料は87,000千円である、と。
◉並べてみる
設備の帳簿価額は3,468千円。オフィスの年間利用料は87,000千円。後者が前者の二十五倍です。
少なくとも本社オフィスについては、自ら保有するのではなく、シェアオフィスを利用しています。そして当期は設備投資がありません。有形固定資産を大きく持たない事業構造だ、ということは言えます。
これは良い悪いの話ではなく、事業の性質です。第九章で見たとおり、この会社の収益はシステムが生んでいます。そして、この会社の競争力を支えるシステムやソフトウェアの価値が、そのまま「主要な設備」の欄の有形固定資産額に現れるわけではありません。
もし志望企業が製造業なら、この欄には工場の一覧が並び、帳簿価額は桁が変わります。設備の欄を見比べるだけで、その会社が何にお金を寝かせているかが分かる。数分で済む確認です。
🖋第十二章:誰が株主になったかを、値段と一緒に読む
最後に開くのは「第2【事業の状況】5【重要な契約等】」です。
ここには、その会社の輪郭を変えるような契約が、淡々と書かれています。
note株式会社の当期の記載は、三件です。
◉Google社との資本業務提携
契約締結日は2025年1月14日。2025年1月29日に第三者割当増資により、Google International LLCに普通株式984,200株を割り当てた。発行価額は1株につき508円、払込金額の総額は499,973,600円。
業務提携の内容として、noteプラットフォーム上でのAI機能開発に関する連携、クリエイティブ領域での生成AIに関する開発、が挙げられています。
◉NAVER社との資本業務提携
契約締結日は2025年11月5日。2025年12月1日に第三者割当増資により、NAVER Corporationに普通株式1,429,500株を割り当てた。発行価額は1株につき1,399円、払込金額の総額は1,999,870,500円。
協業の内容として、生成AI技術領域での連携、両社プラットフォーム間の連携(コンテンツやIPの相互利用、クロス配信、グローバル展開の機会の協議・検討)、グローバル市場を視野に入れた漫画、アニメ、実写ドラマ、Webtoon等のIP及びコンテンツの共同開発・展開、戦略的投資の機会の共同模索が記載されています。
◉二つの数字を並べる
ここで、講座では必ず立ち止まります。
508円と、1,399円。
同じ会社の同じ普通株式が、約十か月のあいだに、二・七倍以上の価格で引き受けられています。
第四章で触れた提出会社の経営指標等の表には、株主総利回りという欄があり、第14期は269.8パーセントと記載されています。比較指標の東証グロース市場250指数は97.6パーセントです。
第三者割当の発行価額と株主総利回りは、算定の基礎も意味も違う数字ですから、直接対応させることはできません。ただ、同じ期間に株価の水準が大きく動いていたことを、有報の別々の欄が別々の形で記録している。これも、通読ではなく突き合わせで読む例です。
◉前の期と比べる
ここでも、二冊目を使います。
前の期の有報の同じ欄には、Google社との資本業務提携が一件だけ、しかも締結が期末後だったため、後発事象を参照する形で短く記載されているだけでした。
一年で、この欄は一件から三件になりました。リスクの欄が一項目も動かなかったのと、対照的です。同じ二冊を並べても、動かない欄と、大きく動く欄があります。どちらが動いたかを見ることが、その会社に何が起きた一年だったかを知る近道になります。
◉三件目にも触れておく
三件目は、財務上の特約が付された金銭消費貸借契約です。相手方の属性は銀行、期末債務残高682,500千円、弁済期限2030年8月30日、担保は投資有価証券、と記されています。
地味な記載ですが、ここで第四章の表とつながります。当期の連結キャッシュ・フローのうち、財務活動によるものは大きなプラスでした。その額は1,244,811千円で、内訳は長期借入れによる収入700,000千円、株式の発行による収入497,323千円、新株予約権の行使による収入144,988千円でした。
黒字化した会社が、それでも借入と増資で資金を厚くしている。そのお金の出どころが、契約の欄に相手方の属性まで含めて書かれています。
◉志望企業で試してみる
この欄は、その会社が誰と組み、誰を株主に迎えたかの記録です。
株主構成は「大株主の状況」でも確認できますが、そこには結果しか載っていません。なぜその相手なのか、何をしようとしているのかは、契約の欄に書かれています。
面接で「今後の事業展開について」と聞かれたとき、採用サイトのビジョンをなぞる学生と、契約の欄に書かれた協業内容を踏まえて話す学生とでは、話の足場が違います。
🖋終章:読む順序
ここまで見てきた読み方を、順序として並べておきます。項目の一覧ではなく、順序です。この順に開くと、後から見る数字の意味が分かるようになっています。
まず、通期の有報を二期分そろえます。金融庁が運営するEDINETで、会社名を入れて検索すれば、無料で読めます。
過去に提出された書類も同じ画面から取れるので、前の期の一冊もここでそろいます。
最新の一冊を通しで読み、そのあとで前の一冊を開いて、変わった欄と変わらなかった欄を確かめる。この順序です。
一、事業の内容。この会社は何をして対価を得ていると説明しているのか。事業はいくつに分かれ、それぞれの規模と従業員数はどうか。
二、主要な経営指標等の推移。連結と提出会社の両方を開き、何年分が載っているかを確かめる。載っている年数だけ、流れを見る。
三、経営者による分析。直近期の利益が、どう積み上がってできているか。営業利益と当期純利益のあいだで何が起きているか。
四、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等。この会社は、自分を何で測ると宣言しているか。
五、従業員の状況。人数の推移。売上と割り算して、一人あたりの数字を作る。分子と分母の範囲をそろえる。
六、人的資本の数値。三つに分かれている数字は、三つとも見る。
七、事業等のリスク。同業他社と共通して並ぶ項目が、その業界の構造。自己評価が付いていれば、どれが「高」かを見る。
八、設備の状況。この会社は何にお金を寝かせているか。
九、重要な契約等。誰と組み、誰を株主に迎えたか。
十、監査報告書のKAM。第三者が、どこを重点的に見たか。
そのうえで、前の期の冊子を開きます。事業の区分は変わっていないか。リスクの項目は増えたか減ったか。自己評価が動いていないか。契約の欄に何が加わったか。「対処すべき課題」に挙げていたものが消えていないか。
第十章でも書いたことを、もう一度置いておきます。数字の変化は、一冊の中の推移の表が教えてくれます。説明の変化は、二冊並べないと教えてくれません。そして、去年と今年で何を言い続け、何を言わなくなったかには、その会社の判断が出ます。
一社ぶんで、慣れれば一時間ほどです。
採用サイトは、あなたに向けて書かれています。読みやすいのは当然で、そう作られているからです。
有価証券報告書は、就活生であるあなたに向けて作られた文書ではありません。法律に基づき、投資家をはじめとする市場の参加者に向けて開示されるものです。だから採用サイトより読みにくい。その代わり、採用広報とは違う角度から、同じ会社を見ることができます。
どちらが誠実かという話ではありません。誰に向けて書かれたかが違う文書を、二つとも読む。それだけのことです。
二十年、同じ話をしてきました。教室でこの話をしたあと、実際に有報を開く学生が何人いるかは、私には分かりません。それでも、開いたことがある人とない人では、企業を見る目の解像度が違ってくるはずだと思っています。
次回は、別の一社を読みます。
🖋この記事で使った言葉
本文の登場順に並べています。有報の中でその言葉がどう使われているか、という説明です。一般的な定義とは少しずれる場合があります。
◉有価証券報告書(有報)
上場企業などが金融商品取引法に基づいて年に一度提出する、事業年度ごとの報告書。事業の内容、業績、リスク、役員、株主、財務諸表などが定型の順序で並んでいます。提出は事業年度終了後三か月以内が原則です。
◉法定開示
法律で提出と公開が義務づけられている情報開示のこと。有報はその代表です。企業が任意で出す採用サイトやプレスリリースとは、文書としての性格が違います。
◉EDINET
金融庁が運営する開示書類の閲覧システム。有報を含む提出書類を、会社名で検索して無料で読めます。過去に提出された書類も同じ画面から取れるので、この連載で使う二期分もここでそろえられます。
◉連結と単体(提出会社)
連結は、親会社と子会社をまとめて一つの企業集団として見た数字。単体(有報では「提出会社」と表記されます)は、親会社だけの数字です。有報には両方が載っており、欄によってどちらが書かれているかが違います。売上高と従業員数を割り算するときなど、二つの数字を組み合わせる場面では、必ず範囲をそろえる必要があります。
◉連結子会社
親会社が支配していて、連結の対象に含まれる子会社。連結の売上高には子会社の売上も含まれますが、提出会社の売上高には含まれません。
◉報告セグメント
企業が事業を区分して業績を開示する単位。区分は企業が自由に決められるものではなく、分離された財務情報が入手可能で、取締役会が経営資源の配分や業績評価のために定期的に検討している単位に従うのが原則です。
◉営業利益・経常利益・当期純利益
売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を引いたものが営業利益。そこに、受取利息や支払利息のような本業以外の損益を加減したものが経常利益。さらに特別な損益と法人税等を加減した最終的な残りが当期純利益です。三つは別の段階の数字なので、どの利益が伸びているのかを確かめる必要があります。
◉繰越欠損金
過去に出した税務上の赤字のうち、将来黒字が出たときの課税所得から差し引ける部分。差し引ける期間には制限があります。
◉繰延税金資産・法人税等調整額
税効果会計という仕組みで使われる項目です。将来の税負担が軽くなると見込まれる部分を、貸借対照表に資産として計上したものが繰延税金資産。その増減を損益計算書に反映させるのが法人税等調整額で、マイナスで計上されると利益を押し上げる方向に働きます。繰越欠損金があっても自動的に資産になるわけではなく、回収できると判断された範囲で計上されます。
◉GMV(流通総額)
プラットフォーム上で取引された金額の総額。プラットフォーム企業の売上高は、このうちの手数料部分なので、GMVと売上高は別の数字です。
◉ARR(Annual Recurring Revenue)
年間経常収益。サブスクリプション型のサービスなどで、継続的に得られる収益を年換算した指標です。算定方法は会社によって異なるため、有報では注記で定義が示されることがあります。note株式会社の場合は、各四半期末月の月次経常収益(MRR)を十二倍したものと定義され、MRRにはnote proの基本料金に加え一部のオプション料金も含む、と注記されています。
◉監査法人
企業の財務諸表が会計基準に従って適正に作成されているかを、第三者の立場から検証する組織。公認会計士が所属します。有報の最後には、監査法人が作成した監査報告書が綴じられています。
◉KAM(監査上の主要な検討事項)
監査人が、その年の監査でとくに重要だと判断した事項。何を重点的に見たか、なぜそれを選んだか、実際にどのような手続を行ったかが書かれます。会社が書いた文書の中に、第三者の判断が記録される欄です。
◉内部統制
業務が適正に行われるように企業内部に設けられた仕組み。IT全般統制は、そのうちシステムに関する部分で、アクセス権の管理やプログラム変更の管理などが含まれます。
◉有形固定資産・無形固定資産
長期にわたって使う資産のうち、建物や機械のように形のあるものが有形固定資産、ソフトウェアや特許権のように形のないものが無形固定資産です。本稿で見たnote株式会社の「主要な設備の状況」には、主として建物や器具備品などの有形固定資産が示されていました。そのため、システムやソフトウェアを強みとする企業では、この欄だけを見ても事業の実力全体は分かりません。
◉第三者割当増資
特定の相手を指定して新しい株式を発行し、資金を受け取ること。誰に、何株を、一株いくらで割り当てたかが開示されます。
◉資本業務提携
出資を伴う業務提携。単なる業務提携と違い、相手が株主になります。有報の「重要な契約等」に、相手先、締結日、目的、内容が記載されます。
主な参照資料
本稿の数値および引用は、note株式会社の有価証券報告書に基づいています。いずれもEDINETで閲覧できます。
・note株式会社 有価証券報告書 第14期(自 2024年12月1日 至 2025年11月30日)2026年2月25日提出
・note株式会社 有価証券報告書 第13期(自 2023年12月1日 至 2024年11月30日)2025年2月25日提出
◉補完として参照した資料
・国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」(第七章で参照)
◉本稿について
記載内容には細心の注意を払っていますが、誤りが含まれる可能性があります。本稿もまた、原典に当たって確かめるべき二次的な文書です。数値や引用は有価証券報告書でご確認ください。
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