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フランス映画『La Bonne Épouse 良き妻』をみて震える

wikipediaに日本語の項目がないということは、日本未公開ということであろう。2020年のフランス映画、『La Bonne Épouse』をみました。直訳すると『良き妻』ですね。怖い。

ざっくりあらすじは、


1968年の「五月革命」前夜、アルザスで女子教育の寄宿学校を経営する夫のロベールをサポートするポーレットは、夫に従順な「良き妻」を育てるために日々生徒を指導していた。しかし夫が急逝し、死んだ夫のせいで学校経営が窮地に陥り、生徒たちも「良き妻」になることへの疑問や反抗的態度をあらわしはじめる。あらゆる方面でにっちもさっちもいかなくなったポーレットは、ついに自身も「良き妻」になることが本当によいことなのか悩み始めるのであった…


という感じ。ポーレットを演じるのがジュリエット・ビノシュ。ロベールの妹で学校の台所まわりを担当するジルベルトを演じるのが、俺たちのヨランド・モロー。この時点で大丈夫な予感がします。

あ、まずは時代背景が必要ですね。五月革命以前のフランスの女性の状況については前にもちらっと書いたのですが、かなりガチガチの家父長制で、女性は父または夫に従属している状態でした。たとえば、既婚女性が夫の許可なしで仕事につき、自分の銀行口座を開設できるようになったのは1966年のことだそうです。その時点で女性の三分の一ぐらいが働いていたにもかかわらず、です(参考)。ひっでえ。というような時代の話ということを念頭に置いてどうぞ。

冒頭は、教室で女子学生たちを前にしたポーレットが「良き妻の心得十ヶ条!」みたいなことを叩き込もうとするところから始まります。これがまたようするに、夫と家族に尽くして、自分のためには金を遣わず、余計な自己主張をしないで料理とか掃除とかアイロンとか裁縫スキルを上げ、しかし身なりには気を遣い、一番先に起きて一番最後に寝ろ、みたいな感じの話なのであります。

という本当にあった怖い話なのですが、ちょうど20世紀の終わりに中学生だった私の通っていた女子校では、当時まだマジで「良き母を育てる」とか言っていたので、日本においては20世紀末においてもまだ本当にあった怖い話。やたら細かい礼儀作法の本とかありましたね。バナナの食べ方とかトイレの使い方とか書いてあった気がする。糞食らえ(バナナとトイレだけに)

劇中では、ポーレットのジェットコースターのような私生活と学校経営に、五月革命のはじまりがオーバーラップしてきて、女子たちもそれまでの価値観を疑いまくりはじめます。夫のサポート役なんてまっぴらごめんになったポーレットが再婚を拒否してブチ切れるシーンとか、恋にやぶれたジルベルトの決意ってもしや…と心配したらまさかの「新しい私」爆誕とか、笑えて泣けるシーン満載。

最後は、本当の「良き妻」ってのはそんなんじゃねえんだよ!と女子全員が啖呵切って終わる、みたいなハッピーエンドです。

ハッピーエンド…?

いや、現代においても「良き妻」って全然いるよな…子どものために自分のいろいろを犠牲にしてるママンとかいるよな…日本にはフランスよりも全然いるよな…カップル時代は恋人もしくは夫とまあまあ対等だったのに、子どもが生まれたら全員の「お母さん」になってしまっていつも自分のことを後回しにしてる人とかいるよな…

というわけで、力強く晴れやかなラストシーンをみながら、五月革命から60年近く経っているにもかかわらず「良き妻」の呪いが全然終わってないことに気づいて震えました。もちろん、映画を作った人もそういう意図で作っているに決まっている。

俺たちのヨランド・モローと一緒に、革命を続けなくてはならん。

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