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🎹ピアノと身体|呼吸が長くなった

若いときにはなかったけど、歳を重ねたからこそ手に入ったものがある。その一つが「呼吸」です。

自分の頭の巡りがゆっくり、ゆったりとしてきたのと同じように、呼吸もゆっくり長くなってきた。

あるピアニストが、子供の前で演奏するときは必ずモーツァルトのトルコ行進曲を入れる、と話していた。あの曲には、子供たちがよく耳を傾けるという。あの躍動感が、子供の呼吸や鼓動と合っているからだと。

若い時の呼吸が、そうしたテンポの曲に親和性があるのだとしたら、歳をとって呼吸がゆっくり長くなってくると、ソナタで言えば緩徐楽章のような、ゆったりとした曲に親和性が発揮されるのだろうか。

最近では、ソナタの緩徐楽章のようなゆったりとした曲が、ずっと弾きやすく、聴きやすくなった。そして、以前より間延びしにくくなったような気がする。これも、今だからこそできることなのだと思う。

好きな曲、弾きたい曲というのも、そうしたことで変わってくる。以前なら途中で飽きてしまっていたはずの曲を、しみじみいいなと思うことも増えた。

特に、以前とは向き合い方が変わったと感じるのがシューベルトだ。
例えば、即興曲 Op.90-3(D.899-3)。長ーい呼吸で、頭のザワザワを無くして……「無」みたいなところから、曲が出発する。人生の年月を経た人の演奏で聴きたいと思うのも、この呼吸が関係しているのかもしれない。

――あー、でも、シューベルトはこの曲を30歳で書いたのね。うーむ、すごい。

有名なホロヴィッツの演奏。あれほど技巧派だった彼が、こんな境地の演奏に行き着いていることに、畏れを感じる。



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