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0文字で正解!? 『君のクイズ』を読んで、クイズは「知識のかるた」だと思った

テレビのクイズ番組を観ていて、こんな疑問を持ったことはないでしょうか。

「なぜ、問題文をほとんど聞いていないのに答えられるのだろう?」

まだ数文字しか読まれていないのに、解答者はボタンを押し、正解する。まるで問題の続きを知っているように見えます。

最近、授業で数時間かるたをしました。
声に集中し、札の位置を思い出し、「ここだ」と感じた瞬間に手を伸ばす。その中で、ふと思い出した本がありました。

小川哲さんの小説『君のクイズ』です。
早押しクイズとかるたは、驚くほどよく似ています。

※この記事では物語の設定と、謎を解く方向性に触れています。


一文字も読まれずに正解する

『君のクイズ』は、優勝賞金1000万円を懸けたクイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝戦から始まります。

主人公の三島玲央と、対戦相手の本庄絆。
勝敗を決める最後の問題で、司会者が「問題――」と言った瞬間、本庄がボタンを押します。

問題文は、まだ一文字も読まれていません。静まり返るスタジオで、本庄が口にした解答はあまりにも具体的なものでした。

「ママ、クリーニング小野寺よ」

これが正解となり、本庄の優勝が決定します。この「不可能犯罪」にも等しい謎に納得のいかない三島は、自身のクイズ人生の尊厳を懸けて、決勝戦の全問題を一問ずつ検証し、文字正答の謎を追い始めます。

この設定だけで、続きが気になります。

私も三島と一緒になって、「そんなことが本当にできるのか」と考えながら読み進めました。


答えが分かる前に押す


この本を読んで驚いたのは、早押しクイズでは、必ずしも答えを完全に思い出してからボタンを押すわけではないということです。

問題文を聞きながら答えの候補を絞り、
「この先は、きっとあの答えになる」
と感じた瞬間に押す。ボタンを押してから、残された短い時間の中で答えを完成させることもあります。

つまり、必要なのは知識だけではありません。
どこまで聞けば答えが決まるのか。
今、押して大丈夫なのか。
間違えるかもしれなくても、指を動かせるのか。

早押しクイズは、知識と判断力、そして勇気を競う競技なのです。


クイズの確定ポイントと、かるたの決まり字


ここで私は、かるたの「決まり字」を思い出しました。決まり字とは、どこまで聞けば取るべき札が一枚に決まるかを示す音のことです。(※4)

これは、クイズの「確定ポイント」とよく似ています。

クイズでは、問題文のある部分まで聞くと、答えが一つに絞られます。
かるたでは、読み手の声のある部分まで聞くと、取る札が決まります。
どちらも、最後まで聞いてから動く競技ではありません。

答えが決まる、ぎりぎりの瞬間を見つける競技です。

早く押せば、誤答するかもしれない。
早く札に触れれば、お手つきをするかもしれない。

それでも、相手より先に動かなければ勝てません。


「ここしかない」で動けるか


かるたをしていると、「分かっていたのに取れなかった」ということがあります。

札の場所も覚えている。読みも聞こえている。それでも、
「違ったらどうしよう」
と迷った一瞬で、相手に取られてしまいます。

クイズも同じなのでしょう。

確実に答えが分かるまで待っていたら、相手に先を越されます。しかし、早く押しすぎれば間違えます。

勝負を分けるのは、知識の量だけではありません。
自分の知識を信じて、「ここしかない」という瞬間に動けるか。

かるたが「畳の上の格闘技」と呼ばれるように、早押しクイズもまた、知識を使った格闘技なのだと思いました。


知識には、その人の人生が残っている


『君のクイズ』は、早押しの技術だけを描いた物語ではありません。

三島は問題を振り返りながら、自分がなぜその答えを知っていたのかも思い出していきます。
誰かとの会話。
昔読んだ本。
偶然聞いたラジオ。

そのときは気にも留めなかった出来事が、クイズの答えにつながっていきます。同じ答えを知っていても、そこへたどり着いた道は人によって違います。学校で習った人もいれば、漫画や旅行、家族との会話で覚えた人もいるでしょう。

知識とは、ただ暗記した情報ではありません。

自分が何を見て、何を感じ、どう生きてきたか。その記憶に挟まれた栞のようなものなのだと思います。

問題を聞いた瞬間、その栞が反応し、記憶がよみがえる。だからクイズには、答える人の人生が表れるのです。


なぜ、そこまでクイズに夢中になるのか


『君のクイズ』を読み終えたとき、0文字正答の謎だけでなく、なぜ登場人物たちがそこまでクイズに夢中になるのかも分かった気がしました。

知らないことを知るのは楽しい。
別々だった知識がつながるのも楽しい。
自分の中に積み重なっていたものが、
一つの問いによって呼び起こされ、「正解」になる。

その瞬間に鳴る「ピンポン」は、自分が見てきたものや覚えてきたものを、
「それで合っている」
と肯定してくれる音なのかもしれません。


かるたもクイズも、奥が深い


競技かるたの経験がなければ、私は二つの競技がここまで似ているとは気づかなかったかもしれません。

クイズの確定ポイント。
かるたの決まり字。
誤答とお手つき。
そして、相手より早く動くための勇気。

どちらも、知っているだけでは勝てません。
音を聞き、答えを絞り、自分を信じて手を動かす。

『君のクイズ』は、0文字正答の謎を追うミステリーです。
それと同時に、「知っているとは、どういうことなのか」を考えさせる物語でもありました。

かるたもクイズも、本当に奥が深いです。

最後までお読みいただきありがとうございました😊


参照元リンク一覧

※1 朝日新聞出版『君のクイズ』書籍情報

※2 日本推理作家協会「2023年 第76回 日本推理作家協会賞」

※3 本屋大賞「2023年 第20回」結果

※4 全日本かるた協会「はじめての競技かるた」

※5 小川哲+田村正資 スペシャル対談「クイズというエンタメの『再発見』」

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