小さな訪問日記⑮ 見守りカメラの話
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— 母に送った小さな日記 —
ある日の夜、母に電話をかけた。
いつものように、ほんの短い電話のつもりだった。
でも、かけるとだいたい長くなる。
しかし、その日は電話に出なかった。
まあ、よくあることだ。
買い物に行っているのかもしれないし、庭に出ているのかもしれない。
少し時間を置いて、もう一度かけてみる。
出ない。
もう一度。
やっぱり出ない。
普段ならそこまで気にしないのだが、その日は何となく胸騒ぎがした。
ニュースでは、一人暮らしの高齢者が巻き込まれる事件の話もよく目にする。
母は高齢だ。
何かあったのではないか、という考えが頭をよぎる。
もう一度電話をかけてみる。
やっぱり出ない。

しばらくスマートフォンを見つめたまま、どうするか悩んだ。
大げさかもしれない。
でも、もし本当に何かあったら。
何度も迷って、それでも不安が消えず、僕は110番通報をした。
正直、こんなことで通報していいのか、
断られるかもしれないとも思っていた。
でも、電話口の人はとても落ち着いた声で、
状況をひとつひとつ丁寧に聞いてくれた。
そして、すぐに様子を見に行ってくれるという。
正直、そこまでしてもらえるとは思っていなかったので、少し驚いた。
同時に、胸の奥にあった不安が、少しだけ軽くなった気がした。
電話を切ってから、なんとも落ち着かない時間が続いた。
数十分後、実家に到着した婦人警官の方から電話がかかってきた。
「お母さん、無事でしたよ」
落ち着いた声で、そう教えてくれた。
玄関先で声をかけて、様子も確認してくれたらしい。
その一言で、肩の力がすっと抜けた。
「今、お母さんと電話を替わりますね」
受話器の向こうで、少し慌てたような母の声が聞こえた。
「もしもし?」
「ああ、よかった……。何かあったのかと思ったよ」
僕がそう言うと、母は少し申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、心配させて。ちょっと寝てたみたい」
どうやら、母は玄関を叩く音で目を覚ましたらしい。
電話を切ったあと、ようやく落ち着いた。
そのあと、もう一度婦人警官の方に電話を替わってもらい、あらためてお礼を伝えた。
うまく言葉にはできなかったが、ただ「ありがとうございました」と何度も繰り返した。
大げさだったかもしれない。
でも、あのとき電話をしてよかったと思った。
こうして安心できたのは、
様子を見に行ってくれた人がいたからだと思う。
あのときのことを思い返すと、
今でも静かに、ありがたい気持ちが込み上げてくる。

その数日後、僕は実家に行った。
「ねえ、家の様子が見られる小さなカメラを置いてもいいかな?」
そう聞くと、母は少し考えたあと、頷いた。
「うん、今後、心配させないなら良いかも」
僕は母の同意を得てから、小さなネットワークカメラを取り付けた。
スマートフォンから家の様子を見ることができるカメラだ。
「これがそうなの?」
母は不思議そうに設置する様子を見ていた。
「家の様子を見るカメラだよ」
「誰が見るの?」
「僕」
母は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「そう……なら、安心ね」
スマートフォンの画面を見せると、母は少しほっとした様子で画面を眺めていた。
それからというもの、僕は普段カメラを見ることはほとんどない。
ただ、母が電話に出ないときだけ、そっと画面を開く。
するとたいていは、リビングでテレビを見ていたり、くつろいでいる様子が映る。
そんな様子が映ると、それだけで、とても安心する。

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