(書評)第161回「ウォーク・イン・クローゼット」(綿矢りさ 著)☆恋愛服至上主義の女性のささやかな成長物語。女同士の友情を描く☆
2015年発刊。単行本252ページ(『いなか、の、すとーかー』並録)。恋愛服至上主義の女性が、女友だちの窮地を救って、ささやかな成長を遂げる物語です。女同士の友情や、男と女の微妙な友情関係などを描く、コミカルでせつない魅力全開の作品です。「対男用」のモテ服好みのOL・早希と、豪華な衣裳部屋をもつ人気タレントのだりあは、幼稚園以来の幼なじみ。秘密を抱えてマスコミに追われるだりあを、早希は守れるのか? 思い通りにならない愛しい日々を描く、恋と人生の物語です。

「時間は有限だ。でも素敵な服は無限にある」という印象的なフレーズから物語は始まります。主人公は28歳で彼氏なしのOL・早希です。早希はデートをする男性には事欠きませんが、本気で付き合っている男性はいません。早希は素敵な服で「武装」して、欲しい男性を手に入れることに血道をあげています。早希は、純粋に「好き」を一番にして選んでいた頃とは違い、現在のワードローブは「対男用」の洋服しか並んでいないのでした。輸入雑貨屋で買ったイギリス製のクローゼットはアンティークで1930年代の品、6万円もしました。天井にくっつきそうなほど背が高く横幅も広く、古めかしく重厚感があります。早希は「どの服も夢見ている。めくるめく魅惑のデートを、運命の男性を見つける瞬間を」と思います。いっぽうで不安もあるのでした。もしかしたら私が欲しがっている未来なんて、本当はどこにも存在しなくて、もし見つけても手に入れたとたん砂になって指の間からこぼれ落ちてゆく、儚い幻想のきれいごとなんじゃないだろうか、とも感じます。
いっぽう、幼稚園以来の幼なじみの「末次だりあ」のマンションのクローゼットは、早希のクローゼットが丸ごとすっぽり入るくらい広く、小部屋1つ分まるまるクローゼットで、まるで夢のような衣裳部屋でした。だりあは、売り出し中のタレントで、撮影で着て買い取った、センスの良い素敵な服を、たくさん持っているのでした。だりあは「働いて手に入れた服に囲まれてると、いままでの頑張った時間がマボロシじゃなかったんだって思って、ほっとする。この部屋でドアを閉めて考えごとしてると、まだやりたい仕事がいっぱいあるって、むくむく野心がわいてくる。私にとっては、きれいな服は戦闘服なのかも」と言います。早希は「私の服と一緒だ。私たちは服で武装して、欲しいものを掴みとろうとしている」と思います。
早希は、唯一の男友だちのユーヤと、代官山のカフェで待ち合わせします。早希はユーヤに告白して2回フラれていて、その後は仲の良い友だちづきあいをしています。ユーヤは早希より年下(22歳)で、バイトばかりで一度も正社員になったことがありません。カジュアルブランドのカリスマ店員をしていて、オシャレでモテそうでした。ユーヤはバックパッカーが趣味で、1~2年ほど働いて、貯めたお金でアジアに半年ほど滞在する生活を送っていました。早希はユーヤから、人気バンドである「ginback」のライブに誘われます。ユーヤは「澄ちゃん」という片想いの相手がいます。いっぽう早希は、同時に複数の男性とデートしています。パネェ、隆史くん、紀伊さんなどでした。早希は紀伊さんに湯河原に一泊旅行に誘われます。それを聞いたユーヤは、早希のケータイで紀伊さんに探りを入れます。予想に反して、返事はすぐに返って来ました。「結婚している。湯河原は良ところだよ」と書いてありました。早希は「次の恋人ができたら行ってみます。二度と連絡してこないでね」と返します。
早希はユーヤと行った渋谷の大型家電量販店のテレビコーナーで、大写しになっただりあの顔を見かけます。幼い頃のだりあは、大人びて強気でいじわるで、早希も泣かされたことがありました。早希は最悪の出会いだっただりあと、どうしていつも一緒に遊ぶほどに仲良くなれたのか、思い出せません。だりあが小学校に着てくる服装は、まるでコスプレみたいで、母親の金銭感覚が崩壊しているのか、無一文のときもあれば、一万円札を持っているときもありました。ダリアは早希の家にたびたび長居します。ダリアの家は、いつも部屋が荒れていました
早希が深夜にテレビをつけると、だりあが出演していました。だりあは目立っていて、きわどい発言も臆さないのでした。早希はだりあに「久しぶりにご飯でもいっしょに行かない? 私の友達もまじえて」とメールします。だりあからは、あっさり「いいよ」と返事がきます。3人で「ginback」のライブに行くことになります。ライブ会場でユーヤと待っていると、早希よりも8センチ背の高いだりあがメガネをかけてやってきます。だりあはバンドのボーカルの吉田恒輝と知り合いで、楽屋に誘われていると言います。3人は開場前に楽屋を訪れます。ライブの後、早希とだりあは、少女の頃の思い出話をしながら夜道を帰ります。途中、怪しい車に尾行されますが、無事に帰路に就きます。
会社が休みの日、早希は唯一の趣味である、ホームクリーニング(家で自分の手による手洗い)に没頭するのでした。全部仕上げるころには、すっかり夜も更けていました。ある日、早希は隆史くんとデートします。隆史くんもカッコいいのでした。2人は映画を観た後、居酒屋に異動します。帰りがけに早希は隆史くんから家に誘われます。しかし早希はやんわりと断ります。
金曜の夜12時に、だりあが部屋着のまま、ほぼ手ぶらで早希の家にやってきます。だりあは早希に、自分が妊娠していて7か月であることを伝えます。相手の男はだりあの妊娠を喜んでいない様子でした。早希は言いようのない怒りがこみあげてきますが、だりあは淡々としていて、シンブルマザーになる覚悟が出来ている様子でした。だりあはその晩、早希の部屋に泊まります。
早希は代官山のカフェでユーヤと待ち合わせします。しかしユーヤはかなり落ち込んでいました。ユーヤは澄ちゃんにフラれたと言います。しかし早希が詳しく話を訊くと、まだフラれていない様子でした。ユーヤは的外れな、一貫性のない就職活動をしていました。そんなユーヤに早希は「ユーヤはぜったいに接客業!」とアドバイスします。
ある日隆史くんから、デートの誘いのメールが来ます。早希はオーケーします。2人は渋谷のファッションビルにあるジェラートショップでデートします。その後2人は焼き肉を食べに行きます。夜9時を回り、早希は隆史の部屋に行きます。早希は隆史にキスされます。下着に手を突っ込んでくる隆史に、早希は拒否の態度を取ります。早希は「どうして私ってこうなんだろう!私のことを本当に好きじゃない人ばかりと付き合おうとする」と後悔します。その夜、だりあから「週刊誌にすっぱ抜かれた。いま、また引っ越ししてる」とメールがきます。
だりあが移ったマンションは麻布十番にありました。早希はだりあのマンションを訪れます。だりあはほとんど身ひとつで引っ越してきていたのでした。早希がだりあの代わりにドラッグストアに買い出しに行った帰り、マンションの玄関で待ち伏せしていた記者につかまります。2人は事務所に頼ることもできずに、窮地に陥ります。その時、早希はだりあと入れ替わることを思いつきます。早希は六本木のグランドハイアットでだりあと待ち合わせることにして、先にマンションを出ます。早希はすばやくタクシーに乗り込みます。しかし追いかけてきた記者にだりあでないことがバレてしまいます。いっぽうだりあは無事にハイアットに着きます。しかしだりあは陣痛が始まっているのでした。早希が急いで駆けつけると、だりあはソファの隅にうずくまっていました。2人は上階のトイレに入ります。だりあは呻いています。そのときようやくマネージャーから連絡がきて、病院に向かいます。
だりあは無事に女の子を出産します。2週間経った日曜日の午前に、だりあからたくさんの荷物が届きます。数々の段ボールに入っていたのは、だりあのクローゼットに並んでいた服たちでした。
早希はいつもの代官山のカフェで、ユーヤと会います。ユーヤはアパレル系の会社で内定をもらったのでした。

後半からラストに向けての、ドタバタの救出劇はハラハラしてスリリングでした。とてもスピード感があって、飽きさせませんでした。早希がだりあの出産を助ける場面は、とにかくカッコ良かったです。ジェットコースターみたいな、手に汗握る展開で、爽快感がありました。マスコミから狙われるのも、ストーカーから狙われるのと同様に、神経が削られる体験であることがよく分かりました。可愛い素敵な数々の洋服の描写と、早希が洗濯が好きで、洋服を浴槽に詰めて洗っている描写は秀逸で、ある意味、心の浄化(リセット)の意味もあるのかなと思いました。
読んでいて、3人の絆の深さが羨ましかったです。早希とユーヤの関係も素敵で、早希とだりあの関係も素敵でした。綿矢作品は、女子の心理描写がとにかくリアルで、読みやすいです。感じの良い読了感でした。とても素敵な話で、改めて女友だちっていいな、と思いました☆

