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ドラマ『Tシャツが乾くまで』考察──生方美久さんが描く「見えないもの」と、人はなぜ思い込みに生きるのか

 
生方美久作品を観るたびに思うことがあります。

この人は、事件を書いているのではない。

人間の「心の動き」を書いている。

『silent』では「聞こえない声」を描き、『海のはじまり』では「親になるとは何か」という答えのない問いを描きました。

そして『Tシャツが乾くまで』で描こうとしているのは、おそらく「人は本当に相手を理解できるのか」という、人間関係の根源的なテーマではないでしょうか。

第1話だけを見ると、不倫ミステリーのように見えます。
しかし、
生方美久という脚本家は、そんな単純な物語を描く人ではありません(偏見?)

すでに私の中では過去の生方作品への期待からバイアスまみれになってしまっています笑〜

生方美久作品に共通する「答えを急がない物語」


『silent』では、多くの視聴者が「誰が正しいのか」を考えました。

しかし最後まで見ると、誰も悪くありません。

聞こえなくなった想
伝えられなかった紬
支えようとした湊斗

それぞれが、それぞれの人生を精いっぱい生きていただけでした。

『海のはじまり』も同じです。
「父親とは何か」という問いに、一つの答えを出そうとはしませんでした。

親子とは血なのか
時間なのか
愛情なのか

視聴者自身に問いを返す作品でした。

『Tシャツが乾くまで』も同じなのでは、、、

第1話では「不倫」という強い言葉が提示されます。

しかし、それは答えではありません。

視聴者の価値観を揺さぶるための入口だと感じました。

いい意味で裏切ってくれると私は信じたい。

蒼井優という存在──『ガス人間』に続く、新たな代表作への期待


『Tシャツが乾くまで』を観て、まず心を奪われたのは蒼井優さんの存在感でした。

激しく泣き叫ぶわけでもない。

大きなセリフで感情をぶつけるわけでもない。

それでも、表情のわずかな揺らぎや視線の動きだけで、咲子という人物の心の変化が伝わってきます。

蒼井優さんの演技は、「演じている」というより、「そこに生きている」と感じさせる力があります。

『ガス人間』で見せた演技も光っていましたね。

非現実的な世界観の中であっても、人間の孤独や愛情を繊細に表現し、観客を物語へ引き込む姿は圧巻でした。

そして『Tシャツが乾くまで』では、その繊細さが日常へと持ち込まれています。

何気ない朝の会話
夫を見送る後ろ姿
事故の知らせを受けても現実を受け止めきれない表情、、、

「信じたい」という気持ちだけで立っている一人の女性を、過剰な演出をすることなく表現しています。

だからこそ、視聴者も咲子と同じ「好きな人フィルター」を通して充を見てしまう。

蒼井優さんの自然な演技そのものが、物語最大の仕掛けになっているのです。

生方美久作品は、俳優の繊細な表現力があって初めて成立する作品でもあります。

『silent』の川口春奈さんや目黒蓮さん、『海のはじまり』の有村架純さんや目黒蓮さんがそうであったように、言葉にならない感情を映し出せる俳優だからこそ、生方作品の余白は生きてきました。

その意味で、蒼井優さんはこの作品に最もふさわしい主演だと感じます。

第1話はまだ始まりに過ぎません。

物語が進むにつれ、咲子は愛する夫の知らなかった一面と向き合い、自分自身の思い込みとも向き合うことになるでしょう。

その複雑な心の変化を、蒼井優さんがどのように演じていくのか。

『ガス人間』で新たな境地を見せた彼女が、今度は『Tシャツが乾くまで』で、映像作品における新たな代表作を生み出すのではないか。

そんな期待を抱かせる、第1話だったように思います。

「好きな人フィルター」は認知の歪みである


ラストの名台詞。

「好きな人フィルターですっけ。掃除した方がいいっすよ」

これは咲子だけへの言葉ではありません。

私たち視聴者にも向けられています。

人は現実を見ているようで、自分が見たい現実しか見ていません。

心理学ではこれを認知バイアスと呼びます。
アドラー心理学では、「人は客観的世界ではなく、自分が意味づけした世界を生きている」
と考えます。

つまり心理学やアドラーの言葉を使ってまわりくどい言い方をしましたが、いいたかったことは、、、
世界は一つではない、ということ。

咲子の世界
樹生の世界
充の世界
あずさの世界
すべて違います。

だから誰か一人だけが真実を知っているわけではないのです。

また、
同じ出来事でも、心が違えば世界は変わります。
見る人、見る視点によって現実は違って見えるものです。

咲子は愛しているから愛されている世界を見ています。
樹生は疑っているから裏切られた世界を見ています。

あなたの見ている世界は絶対的な世界ではない。

あなたのメガネで見えてる一つの世界に過ぎないってことを暗に示しているにだと思います。

洗濯とは「浄化」の象徴


タイトルにもなっているTシャツ。洗濯物という名前。
これについてもわたしの妄想が膨らみます。

洗濯
乾燥
コインランドリー

これらは偶然並んでいるわけではありません。

洗濯は汚れを落とします。

しかし、一度洗っただけでは着られません。
乾く時間が必要になります。

人の心も同じです。
悲しみも怒りも疑いも、
すぐには消えない。

時間だけが心を乾かしてくれる。
だからタイトルは「洗ったあと」の話なのです。

人生で起きる出来事よりも、
その出来事をどう受け止め直すか。
その時間こそが、この作品の主題なのでは?と感じました。
ちがうかなー🧐


「理解すること」は愛なのか


生方美久作品には一貫しているテーマがあります。

それは、
「理解したい」
という願いです。

『silent』では、
聞こえない世界を理解したい。

『海のはじまり』では、
父親になるという感覚を理解したい。

そして今回は、
愛する人の本当の姿を理解したい。
しかし、
人は最後まで他人を完全には理解できません。

だからこそ苦しみます。
だからこそ愛します。

理解できないからこそ、
理解しようと歩み寄る。

そこに人間らしさがあります。

フィルターを掃除するとは、自分を見つめ直すこと


樹生は「好きな人フィルターを掃除しろ」と言いました。
しかし、
本当に掃除すべきなのは咲子だけでしょうか。

疑いのフィルター
正しさのフィルター
夫婦とはこうあるべきというフィルター
不倫は絶対悪というフィルター

誰もが、自分だけのフィルターを持っています。

この作品は、視聴者自身のフィルターを問い直す物語だと思いました。

私たちに突きつけるものは? 乾くまで待てる人になれるかという問いである


濡れたTシャツは、すぐには乾きません。
無理に着れば、不快です。

心も同じです。

悲しみの中で出した結論
怒りの中で発した言葉
疑いの中で下した判断

それらは本当に正しいのでしょうか。

乾くまで待つ。

それは単に時間に任せるということではありません。

自分の心を見つめ、思い込みというフィルターを洗い直す時間を持つということ。

生方美久は今回も、事件の真相よりも、その出来事によって揺れ動く人間の心を描こうとしているのでは
ないでしょうか。

だから私は、不倫の真実よりも、その先で登場人物たちがどのように自分自身と向き合うのかを見届けたいと思っています。

『Tシャツが乾くまで』🟰人の心が、もう一度誰かを信じられるようになるまでの時間、なのかなと想像しています。

さて、これからの展開が楽しみすぎて、夜しか眠れません。越川慎司さん風の表現をしちゃいました笑😆

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