しあわせの形は人それぞれ
先日、学生時代の同級生と久しぶりに会った。
彼女とは看護学校で三年間、一緒に学んだ仲だ。
勉強熱心で成績も優秀。
看護師という仕事が好きで、患者さん一人ひとりに真剣に向き合う姿が印象的だった。
看護師の資格を取るまで、どれだけ努力を重ねてきたか、私はよく知っている。
だからこそ、ずっと不思議に思っていた。
「せっかく資格があるのだから、看護師として働けばいいのに」
ある日、思い切って聞いてみた。
「どうして掃除の仕事を選んだの?」
すると友人は、穏やかに笑って答えた。
「掃除の仕事は、人間関係で悩むことが少ないの。自分のペースで仕事ができるし、誰かに急かされることもあまりない」
そして、少し考えてから続けた。
「看護師の頃は、ミスをしないようにいつも緊張していた。ヒヤリハットを書くたびに気持ちも落ち込んでいたの。でも今は、それがないだけで気持ちがすごく楽。
一階から四階まで、自分のペースで掃除をしていればいい。『今日はここまで頑張ろう』って、自分で考えながら仕事ができるのが楽しいの」
そう話す友人の表情は、本当に穏やかだった。
私は思わず聞いた。
「でも、看護師のほうが時給もいいでしょう?」
すると友人は笑って言った。
「お金じゃないよ」
その一言が胸に残った。
友人にとって大切なのは、お給料の高さではなく、心穏やかに働ける毎日だった。
その話を聞きながら、私自身のことも考えていた。
私も、お金のためだけに働いているわけではない。
もちろん生活するためにはお金は必要だ。
でも、それ以上に私は人と向き合う仕事が好きだ。
患者さんと話をしたり、小さな変化に気づいたり、「ありがとう」の一言をいただいたり。
そんな何気ない瞬間に、この仕事のやりがいを感じている。
そして、私はスタッフとチームで働くことも好きだ。
一人で黙々と仕事をするより、お互いに声を掛け合い、助け合いながら働くほうが自分には合っている。
もちろん、人と関わる仕事だから嫌な思いをすることもある。
意見がぶつかることもあれば、落ち込む日もある。
それでも、一人では味わえない達成感や喜びがある。
患者さんだけでなく、一緒に働く仲間との関わりも、私にとっては仕事の楽しさの一つなのだ。
元気に働けること。
必要としてもらえること。
それは当たり前のようで、実はとてもありがたいことだと思う。
友人には友人の幸せがあり、私には私の幸せがある。
だからこそ、お金だけでは測れない「働く幸せ」があるのだと感じた。
私は、「資格を生かすことが幸せ」だと思い込んでいた。
でも、それは私自身の価値観だったのかもしれない。
数日後、今度は以前一緒に働いていた人とランチをした。
久しぶりの再会で近況を話していると、その人が少し照れくさそうに言った。
「今、お付き合いしている人がいて、いずれ結婚するつもりなの」
その人は六十代後半。
ずっと独身だったこともあり、私はもちろん、周りもどこかで「この人は結婚しない人なんだ」と思い込んでいた。
だから、その言葉を聞いた時は本当に驚いた。
でも、それ以上に印象に残ったのは、その人の幸せそうな笑顔だった。
穏やかな笑顔を見ていると、年齢は関係ないのだと思えた。
いくつになっても、好きだと思える人がいて、その人と未来を語れることは、本当に幸せなことなんだと思った。
友人は、資格や収入よりも心穏やかに働ける毎日を選んだ。
私は、人と向き合い、患者さんや仲間と支え合いながら働くことに喜びを感じている。
そして、その人は年齢にとらわれることなく、新しい人生を歩み始めた。
三人とも歩いている道は違う。
でも、共通していることが一つある。
それは、誰かの価値観ではなく、自分の気持ちを大切にしていること。
人はつい、
「資格があるのにもったいない」
「もうこの年齢だから」
そんなふうに、自分や誰かの人生を決めつけてしまうことがある。
でも、本当の幸せは、人それぞれ。
誰かにとっての幸せが、自分にとっての幸せとは限らない。
肩書きや収入、年齢だけで、人の幸せは決められない。
誰かの価値観に合わせて生きるより、自分の心が「これでいい」と思える毎日を選びたい。
友人との再会も、もう一人の人との再会も、そんな当たり前だけれど忘れがちなことを、改めて教えてくれた。
幸せの形は、人それぞれ。
人と比べる必要もない。
自分が笑顔でいられる場所で、自分らしく生きること。
それが、一番の幸せなのかもしれない。

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