我がパンくずリスト|夢のスーパーカー
20代そこらの頃は、F1グランプリをよく夜中に観ていた。
唸りをあげるマシン、まるで音速で駆け抜けていくような名前のドライバー達、鬼気迫るその状況をこと細かに伝える実況アナウンサー。
若かりし血の気の多い時期のわたしのハートを鷲掴みにしていた。
いまや血の気は持病によって欠乏し、胸のドキドキは少し動いた時の動悸だけとなってしまった。
といったわたしも、先日のニュースで久々にF1の状況を知ることとなる。
なんと優勝ドライバーが、
『19歳』
ということだった。
とても驚いた。
そんな歳の頃はテレビゲームやアーケードゲームの世界でしか、あの興奮を体験していない。
ましてや、免許証を持っていない。
19、恐ろしい…
いや待て、わたしにも情熱だけは負けていないドライバーであり、メカニックの頃があったではないか。
あれは小学校4、5年生の頃だったであろう。
当時の小学生は大抵はコロコロを愛読書としていた。
そんなコロコロに目をやると、『新連載!』の文字がデカデカと書いてあった。
『ダッシュ!四駆郎』
当時のわたしは、すぐにそのページをみた。
自分で作成してメンテナンスしたマシンを走らせてライバルと駆け巡る姿に、
『これだ!』
と、モーレツに興奮をしてしまった。
しかも、このマシンがあのタミヤから発売されるという広告をみては、買うしかないと少年の購買意欲をくすぐられにくすぐられて、親を困らせるのであった。
わたしは早速、ミニ四駆を購入し見よう見まねでマシンの改造に取り掛かる。
ボディを軽くするため、なるべく削れるところは削った。
ヤスリなんかを駆使して、ズリズリ、シュッシュッシュッ。
モーターをセットせず、電池を付けて、カラ回転。
キュウィ〜ん。
学校の授業でも見せたことがない集中力をこの時に全て注ぎ込んだ。
完成した。
そのマシンは軽く、とてもモーターが強く、そして驚異的な速さへと変身した。
少し走らせるとすぐに遠くへ行くほどだった。
『これは、コースで走らせたい!』
もう負けしらずの気持ちは抑えきれない状態だった。
すると、近所のおもちゃ屋にコースがセットされたと聞いた。
そこは、個人経営のおもちゃ屋さんで、店主のおじさん。
見た目はマイク眞木のような風貌でカッコいいのだが、とてもひょうきんだった。
ある時は、鼻メガネをつけて店番したり、ある時は、店の天井から蜘蛛のオモチャを出してイタズラしたり、マジックのおもちゃで鼻から花を咲かせたり。
いつも子供達を飽きさせない、というか自分を飽きさせない仕事をしていた。
そんなおもちゃ屋に店主が気合を入れてコースを設置したのである。
タミヤ公式なのか、とてもしっかりとしたコースが置いてあった。
わたしは意気揚々とあのマシンを持って、コースの前に立った。
どこからか風が吹く。
決戦をはじめる。
フラッグは今まさに振り落とされようとしている。
固唾を飲み、マシンにスイッチを入れる。
唸るモーター、激しく回転するスポンジタイヤ。
コースにセットし、その手を離した。
すごい勢いでマシンは走り出した。
直線を瞬く間に走っていく。
まるでイナズマのようだ。
さぁ、第一コーナー曲がるコース。
マシンは勢いよくコーナーの壁に当たる。
バキん!
「えっ!?」
ローラーがついているフロントバンパーが速さと重い軽量によって、折れてマシンは吹っ飛んだ。
__わたしの心も折れて吹っ飛んだ
店主が
「あーやっちゃった。また買ってねん♡」
と可愛く声を掛けた。
わたしは肩を落として帰った。
一瞬にして、名ドライバー、名メカニックの夢は消えてしまった。
19歳のあのF1ドライバーもこれから様々な事を乗り越えて名ドライバーになっていくのかもしれない。
音速の夢は、いつでも成功と失敗を繰り返した先に、栄光のフラッグが振り落とされるのだろう。
