セルビアの古い修道院を訪ねて
久々に旅行記の投稿です。
一昨年の冬、セルビアの首都ベオグラードから、セルビア東部の修道院に日帰りで行ってきました。
セルビアの修道院は、私にとって、長い間、いつか訪れてみたかった場所でした。
今回の記事では、関心を持った経緯と、実際に参加した現地の観光会社によるツアーの様子、そしてラヴァニツァ修道院の歴史と実際に行ったときのことを取り上げます。

◻︎修道院には、ベオグラードからヴォイヴォディナ地方に移動した、こちらの記事の日の前日に行きました
◻︎このときの旅行の記事をまとめたマガジン
修道院に関心を持つまで
高校生のときにバルカン半島の歴史と文化に関心を持った。
念願かなって遂に現地に行くことになったのは、大学3年生の夏休み。約1ヶ月滞在し、セルビアの大学で外国人向けに開講されているサマースクールに参加した。
現地では、日本に留学生として来ていた友人のご実家に泊まらせていただいた後、3週間サマースクールの間は学生寮、終了後は格安のドミトリーに泊まった。

ユーゴスラヴィア時代っぽい・・・のか。独特なデザイン
滞在中、学生寮で謎の虫に噛まれてルームメイトのロシア人の女の子と二人して全身に謎の赤い発疹が出たり、クラスメイトのイタリア人女子が授業中分からないことがあると即座に「why why why〜」と叫んで授業をぶった切るのに度肝を抜かれたりと、短い期間にずいぶん色々なことがあった。
さして話したことのない学生から一方的に嫌われて目の前でヒソヒソ言われたり、みたいなアメリカのティーン向けドラマのようなこともあったけど(苦笑)、全体的に見れば楽しい思い出が多い滞在だった。
なにせ初めてのヨーロッパ! 新鮮な驚きに満ち溢れていたのだ。

写真は現地で私がびっくりしたものの一つ。大きなスイカ🍉
一方で、当時は英語力が貧弱だったこともあり(もちろんセルビア語も話せない)、滞在場所の周辺以外に出かけることはほぼなかった。サマースクール中の遠足でローマ時代の遺跡や川沿いのビーチに行ったぐらい。
そんな訳で、セルビアといえば...の古い修道院などを訪れることはなく、その滞在を終えたのだった。
さて、「セルビアといえば修道院」と書いたけれど、セルビアと修道院が結びつく人はどれぐらいいるのだろう。世界遺産ストゥデニツァ修道院の名は、聞いたことがある方もいるだろうか。
何を隠そう私自身、大学生の頃は全然知らなかった。当時、バルカン半島の歴史や文化に興味を持っていたとはいえ、その対象は19世紀以降。セルビアの黄金時代とも言われる中世の王朝時代について、当時はほとんど知らなかったし、宗教建築への関心も薄く、その価値を十分に理解できていなかったのだ。
しかし、帰ってきてから、セルビア出身の友人が書いた古い修道院建築の魅力についての文章を読む機会があった。
歴史を重ねた石造の修道院の重厚さ、静謐さ。彼女が綴るそれらは、私が実際に行って抱いたセルビアのイメージ、混沌としたカオティックなイメージとはかけ離れていた。
彼女の文章を読んで、私は、自分が知らない"もうひとつのセルビア”をいつか見てみたいな...と思うようになった。
2度目のセルビア、修道院に行ってみたい!しかし・・・
そんな訳で、「次にセルビアへ行くなら修道院を訪ねたい」と思いながら、時は流れた。20代はあっという間に過ぎ、初回訪問から気付けば十数年経が経った一昨年、とうとう私は2度目のセルビア旅行に出ることにしたのだった。
ざっくりした日程だけ先に決めて、修道院訪問について調べてみると、中世セルビア王国時代に建てられた修道院の多くは、街から離れた山あいにあることが分かった。
どの修道院も、公共交通機関だけで訪れるのは容易ではない様子。
私の方で、どこの修道院に行きたい、というこだわりは特になく、「ベオグラードから日帰りで行ける+レンタカーや長時間のタクシーチャーターをしないで行ける」という条件をクリアしていればよかった。
(行き先として、強いて言えば世界遺産に認定されたストゥデニツァ修道院は気になったが、ベオグラードからの日帰りは無理そうなので今回の候補からは外した)
――どこに行こうか? そして、どう行こうか?
調べると、先に書いた条件を満たす選択肢は、「旅行会社が催行するツアーに参加」のみのようだった。
そこでツアーを探してみたところ、オフシーズンの12月、開催されるツアーはまるで見当たらない。通年開催されていると謳っているツアーも12月は×マーク...
でも何とか行きたいなぁ、と粘って遂に見つけたのが、現地のとあるツアー会社が催行するツアーだった。
ラヴァニツァ修道院やマナシヤ修道院、それから洞窟など、セルビア東部のスポットを巡る日帰りツアー。
行き先は全て初耳だった。でも、検索してみるとどれもセルビア国内では有名な観光地らしい。参加費も普通(特に高くもなく安くもなく)だったので、特に迷うこともなく、このツアーに参加することを決めた。
なお、フレンドリーアドバイスとして実際の訪問記より先に書くが、セルビアの修道院も、自然系観光スポットも、あとローマ時代の遺跡も、それが見たくて現地に行く!という人がいたら、春〜秋の時期をお勧めしたい。
前述のツアーの数もそうだし、あとはやっぱり緑がある方が見映えがするだろうな、と実際行って思った。



上に貼ったのは、今回行ったときの写真。やや物寂しい感じが伝わるだろうか。
また、観光地周囲の飲食店も冬は基本閉じているようだ(ツアーで寄ったお店は奇跡的に開いていたとガイドさんが言っていた)。
とはいえ観光客が少ない(今回行ったときは、どのスポットでもほとんど出会わなかった)ので、静かに集中して見られるメリットはあり、教会内部や洞窟の中をじっくり見たい方、研究目的の方にはよい時期かもしれない。
修道院へ~カオスだったツアー編~
修道院の話の前に、ツアーがとてもカオスだったので、まずその話を書きたいと思う。(修道院について読みたい方はスキップしてください)
そんな訳で、日本を出発し、セルビアの首都ベオグラードへ。
当日、指定されたベオグラード市内の集合場所でツアー会社の車を待つ。が、指定の時間を過ぎてもそれらしい車が来ない。
場所間違えた?と不安を覚えてメールを確認するも、大丈夫そう。となるとこれは、ツアー会社側の遅刻か、置いて行かれた(他の集合場所だけに寄って出発してしまった)かだな、とまた別の不安が浮かぶ。念のためツアー会社にメールを送った。
10分後、ツアー会社のロゴが入ったワゴン車が到着。こちらの心配もよそに何事もなかったように登場するガイド(兼ドライバー)さん。
背の高いがっしりした体格の30代くらいの彼は、遅れについてはノーコメントで、朗らかに自己紹介。
こちらも軽く自己紹介しながら、ああ細かいことは気にしちゃダメなやつね、、と思う。
正直私はこういうのが苦手だ。一回一回はスルーできても、ストレスが蓄積する感じがきつい。
実は、セルビアではそれまでも、時間や約束にルーズな人に遭遇することが割とあった。もちろん、これらをしっかり守る人もいる。しかし、大学や宿泊施設などで、事前に手続きしていた内容を何の断りもなく反故にされるということもあり、かつ、それに対して何か言っても、へらへら笑いながら流されることが大半で(謝るような人は、そもそもこちらからクレームを入れる前に詫びを入れてくれる)。
初めは「大らかだな」「外国だからそういうものかな」とポジティブに受け止めようとしていたけど、続くと結構キツいし、セルビア出身の友人知人から、その「いい加減さ」に対する批判を聞くこともあった。
そこで生まれ育った人ですらモヤモヤするレベルだとしたら、外国人の自分にとって一層堪えるのは普通のことだろうとも思う。とはいえ、相手がどんな反応をするのかも分からないので、抗議したりチクッと言うのも怖い。なので、いい加減なことをされても、心を無にしてスルーするのが自分のデフォルト対応だった。
このときも、そうしつつ・・・ある程度は慣れたけど、でもやっぱり慣れないなぁと思いつつ、遅刻してきた車に乗っていくつかのピックアップスポットへ。他の参加者を迎えに行くのだ。

今回のツアーの参加者は、ドイツから来た大学院生、インドから来た夫婦と5歳ぐらいの女の子、ノルウェーから来た40代くらいの女性、そして私の6人+ガイドさん。
参加者のうち、大学院生とノルウェーの女性は落ち着いた方だったのだが、インドのお父さんと娘さん、そしてガイドさんが、なかなか癖者だった。
ガイドさんは本業が別にあり、ダブルワークでツアーガイドをしているとのことだった。
ということで「経済的にきつい」「ダブルワークは大変なんだよ」と初っ端から話しながら、スマホもいじりつつ、運転。
恐ろしいことに、この「ながら運転」は高速道路に乗ってからも続いた。facebookをスクロールしながら、「今日友達が誕生日なんだけど、何てメッセージ書こうか考えてるんだ〜」とあっけらかんと言い放つ。
普通に怖いので「スマホ見ながら運転しないで」と言いたかったが、自分の英語力にも自信がなく(スマートな表現が分からない)機嫌を損ねたり空気を悪くするかもと思い、そのときは言えなかった。
今思うと、“Does your google map look like FB?”(あなたのGoogleマップ、FBに似てるね!)ぐらい言えばよかったかなと思う。
・・・そんなんじゃ伝わらない? 安全が何より大事なんだから、別にダイレクトに言ったってよかったか。
そんな訳で、序盤から「もう帰りたい...」と思っていると、何だかシートベルトが落ち着かない。ズッズッ...ズーと動くのである。
最初は原因がわからなかったのだが、程なくして後ろに座る女の子が、後ろから私のベルトを伸ばしては手を離し、を繰り返しているのに気づいた。ついでに書くと席も蹴られている。敵意があるとかじゃなくて、暇だから退屈でやっている感じ...
彼女の隣に座る親は目に入っているはずだけど、スルー。
辛い。

席を蹴りシートベルトを動かす女の子も、やがて飽きたのだろうか、やや静かになってきた頃、唸り声と裏声が混じった謎の音楽が聞こえてきた。
...振り向けば、インド人父さんが歌っている。それも結構な大音量で。
本来の歌詞なのか適当にむにゃむにゃ言っているだけなのかも判然としない謎の歌。陽気というより怪奇寄りなその歌は、もしかしたら彼のオリジナルソングなのかもしれなかった。
このおじさん作曲家? 我々は新たな名曲の誕生に立ち合っているのか...?
隣に座るお母さんも苦笑い。いや、止めてくれよ。
ツアーを通して、女の子は落ち着きがない(親も注意しない)し、お父さんも恐ろしいボリュームでいびきをかくわ、盛大な貧乏ゆすりをするわで、なかなか癖強めな家族だった。。
もはやツアー中の描写については簡単にまとめて終わりにしたいが、そんな訳で、前方(運転席)ではセルビア的ゆるさが漂い、後方(後ろの席)では南アジアの風が吹きまくっていた車内。
そして、行き先に着いてもカオスは続くのである・・・

立ち寄り先に着くと、初めにガイドさんが簡単な説明をし、その後はフリートーク・・・という流れだったのだが、彼はある時点から大学院生をあからさまに口説こうとしていた。
彼女からは相手にされていなかったが...Youは何しにラヴァニツァへ?
そして帰りの運転中は居眠りしかけており・・・
本当に、無事に帰ってこられてよかったけど、心臓に悪いツアーだった。
ラヴァニツァ修道院
もはやこの記事の本題であるセルビアの修道院の話が薄れていないか懸念しつつ、ここからは話をラヴァニツァ修道院へ移したい。
ツアー前半。高速道路を降りてほどなく、車は山の中へ入っていく。
人里からも離れ、ほどなくして修道院に到着。
車から降りると、空気がずいぶんひんやりしていた。ベオグラードとはだいぶ気温差があるようだ。
そして、少し離れたところから、犬が吠えているのが聞こえてきた。見れば、修道院の敷地であろう芝生の空間の向こうに、見たこともないほど大きな犬がいる。

奥に主聖堂(主の昇天教会)が見える

芝生のあるところは、暖かい時期なら牛や山羊を放していそうにも見えた。とすると、この大きな犬は牧羊犬なのかもしれない。
そして、鶏の鳴き声も聞こえてくる...山奥に住む修道士たちは、チーズなどの乳製品や蜂蜜を作りながら自足自給の暮らしをしていると聞いていたが、その片鱗に接していたのかもしれない。
犬を横目に、ツアー一行でずらずらと歩いて門をくぐると、職員の方(修道士っぽい格好ではなかったが、修道士の方なのかもしれない)が大きな箒で落ち葉を掃いていた。
冬の澄んだ空気の中、修道院には静かな時間が流れていた。


ラヴァニツァ修道院は、14世紀後半にラザル公(Prince Lazar)が自らの墓所として建立した修道院だ。
中世セルビアは、豊かな経済力を背景に文化が大きく発展した時代。
修道院は祈りの場であるだけでなく、教会建築、美術、文芸、写本制作などの中心地でもあった。
1389年、ラザル公はコソヴォの戦いで戦死し、その後セルビア正教会によって列聖される。遺体はラヴァニツァへ移され、修道院は巡礼地として大切にされるようになった。
その後、オスマン帝国との戦いの中で何度も破壊されながらも、ラヴァニツァ修道院はそのたびに再建されてきた。
一方、ラヴァニツァの修道士たちは写本の制作や教育にも携わり、この修道院は中世セルビア文化を支えた重要な場所でもあったのだという。


修道院の主聖堂の教会に入ると、内部は思っていた以上に大きかった。
高い天井までフレスコ画で埋め尽くされ、壁という壁に聖人や聖書の場面が描かれている。空間は薄暗く、全てはっきり見える訳ではないが、その壁画は圧倒的だった。
眺めていると、ガイドさんが、創建者であるラザル公、ミリツァ公妃、そして息子たちの姿も描かれていると教えてくれる。

教会には、地域の方と思われる家族連れも訪れていた。
小さな子どもを抱きながら礼拝する、背の高いお父さん。普段着で来ているその姿から、日常の暮らしの中にある信仰を垣間見せてもらった気がした。
聖堂を見た後は、修道院の売店へ。お店にはイコンや宗教関係の書籍のほか、修道院で作られたジャムや蜂蜜、乳製品、お茶や薬などが並んでいて、とっても興味深かった。
終わりに
前述のように、少々カオス気味なツアーだったのですが、ツアーに参加したからこそ、一日でラヴァニツァ修道院、そしてマナシヤ修道院を見学することができました。
長年気になっていた「知らなかったセルビア」を自分の目で見ることができ、とても貴重な機会となりました。

右下に写っているのは修道院の売店の看板で、「お土産物、ろうそく、自家製蜂蜜」と書いてあります。
日本では一般的な旅行先としてあまり知られていないセルビアですが、独特な雰囲気のある修道院は、中世セルビアや東方正教会の美術に興味のある方にとってはもちろん、建築に興味のある方にとっても、旅の行き先として魅力的だと思います。
私自身、またセルビアに行くときは、ぜひ修道院を訪れてみたいです。
そして、中世セルビアの教会建築を訪ねて、いつかマケドニアやコソヴォにも行ってみたいと思っています。
長く書いてしまいましたが、セルビアの修道院訪問に関する日本語の情報はあまりないと思うので、少しでもどなたかのご参考になれば幸いです。
参考文献・サイト
柴宜弘・山崎信一編著『セルビアを知るための60章』明石書店、2015年
Starodubvec, Tatjana, "O portretima u Ravanici", Zbornik radova Vizantološkog instituta XLIX(2012), pp.333-354
https://doiserbia.nb.rs/img/doi/0584-9888/2012/0584-98881249333S.pdf
ラヴァニツァ修道院の公式サイト(英語)
https://en.ravanica.rs/about-monastery/history/
