チープ・トリックat武道館2025/10/01感想
渋谷陽一が見てたらどんなレビューを書いたんだろうか。
そんなことをふと思う武道館ライブだった。チープトリックのファーストアルバムのライナーノーツを書いてたのは確か渋谷陽一だったはず。プロフィールにはリック・ニールセンのことをリック・ネルソンだかニルセンだかという表記がされてたような記憶があるが僕にチープトリックの素晴らしさを教えてくれたのは渋谷陽一だった。サウンドストリートで彼がかけた「ホットラブ」を聞いた時に受けた衝撃をなんと説明すればいいのか。これほどシンプルでこれほどかっこいいハードポップロックがあるんだと感動した。長すぎるソロも出てこないのもいいし、ビートルズのようなエンディングのコードのまとめ方もよかったし、わずか2分30秒に魅力が凝縮されていた。当時ラジオを聞いてた僕と妹はすぐチープ・トリックのファンになった。
高校の時は「ドリームポリス」とか「ヴォイセズ」などチープ・トリックをカバーするバンドを同級生とやってたし、プロを目指しオリジナルばかりやってた大学時代を過ごした後、社会人バンドでまた趣味で音楽を始めた頃に最初に選んだのもやはりチープ・トリックだった。渋谷陽一によってその後一生つきあうバンドと出会えた人はあのころ全国に何万人いたのだろうか。
彼らを有名にしたのが78年の武道館ライブであることはもう有名すぎる話。だからこそ節目で来日しては武道館でライブやったり、コンプリート盤を出してみたり、セットリスト再現ライブやったりとかするのも彼らにとっても「at武道館」は特別なものだからだろう。あれから47年、いよいよフェアウェルコンサートだというので、最近コンサートにめっきり行かなくなった僕も重い腰を上げて見に行くことにした。だって武道館だしね。実は前回中止になったライブもチケットを買ってたのだが、その結果ハコがむしろ武道館になってよかったと思ってる。そりゃ楽しまないと!
九段下から武道館まで、わかりやすいあの印象的なタイプ文字のロゴの黒T軍団がゾロゾロ練り歩く。たとえ道を知らなくてもこの人たちについて行けば間違いなく武道館に連れてってくれるだろうというほどの群衆だった。それにしても年齢層が高いこと高いこと。17年前の30周年武道館ライブのレビューをロッキンオンで読みかえすとそこでもすでに「観客の年齢層が高い」ことに言及されてたが、それから更に年を重ねているわけで、白髪ロン毛のおじさん(おじいさん?)とか、かつてのロック少女がアリーナを埋め尽くしてた。
1曲目は当然のごとく「ハロー・ゼア」から始まり、その後もヒット曲のオンパレード。最近のチープ・トリックをまるでフォローしてない僕でも9割方知ってる曲をやってくれてた。それでも声だして歌うのはなんだかなと思ってたら隣に座ってた友達が大声で歌ってた。ええいままよとつられて僕もコールアンドレスポンスしたのだよ。かつての「at武道館」の女子たちを見習って「甘い罠」ではきちんとクラインクラインの大合唱。ああなんて幸せな瞬間。
しかし。リックは本当に老けた。ロビンやトムがイケオジになってるのと比べ、完全におじいちゃん化してた。若い時のあの道化のような軽快なパフォーマンスと比べるとステージでの移動もゆっくり歩きながらだし、昔のように曲ごとにギターを替えるのだけど、どのギターでもリフはともかくソロになるともう何を弾いているのかよくわからないアバンギャルドなものになってしまってた。たとえば「The Flame」のような伴奏がアコギでしっとりした曲で本来叙情的なソロを弾くべきところも、なんか指がつっかかったようなぎこちないソロだった。「Hotdog」を弾く時のジミー・ペイジみたいだ。体調本当によくないんだな。そういう意味ではフェアウェルという言葉の意味も現実味を増す。外タレには「もう来ない来ない詐欺」みたいな人もいて、これが最後のツアーだとかいってしれっと2年後くらいに来る人もいるけど、あの演奏や立ち居振る舞いを見てるといやリックはちょっと難しいかもなと正直感じさせられた。彼ももう76歳だしな。無理は言えない。
ライブ自体も映像や照明などで特に大きなギミックを使うわけでもなく、淡々と進んでた。「ドリームポリス」のところでパトカーのサイレンや背景が強調されたぐらいで、あとは基本的にはロゴ中心のシンプルな背景。MCもそんなに引っ張るほどでもなくリックが何度もTOKIO!と繰り返すたびに皆イエーイと反応するぐらい。新曲も入れてあといろいろヒット曲をやってアンコールやって最後は「グッドナイト」。これが出たらもう終わり。というのは観客もわかってるので皆さん粘らずそそくさと退場。予定調和だけどそれが彼らのライブなのだ。
じゃあ不満だったのかというとそんなことはない。中高生の頃に聞いてた大好きなバンドを目の前で聞ける幸せなんてなかなかない。今回チケットをとってくれてライブに誘ってくれたかつてのバンド仲間に武道館を出て最初にかけた声は「またバンドやりたいすね」だった。この日の夜、そんなことを居酒屋でぶちあげてた人は数十人はいるな。
78年ライブで黄色い声をあげていた女性ファンたちはいまいくつくらいなんだろう。当時ティーンエイジャーだとしても今や還暦を超えているわけだ。会場にそんなお姉様がいっぱいいたし、立ち上がって手を振ってた。クイーンもチープ・トリックだって世界で人気が出る前に日本のこうした女子がまず支えたんだぜ。そう思うとアラ還の皆さまの勇姿がなんだか誇らしくも見える。
さて。もし渋谷陽一が今も元気だったら、肉体的には衰えた彼らのライブを見てシニカルで辛口のレビューをしただろうか。それともノスタルジックなレビューをしただろうか。なぜかそんなことに思いを馳せながら九段下へと向かった夜でした。
