托鉢で積んだものは?
2007年 ラオス
朝の五時すぎ。ゲストハウスのロビーでは、従業員の人たちが熟睡している。
彼らの安眠を妨げぬよう、忍び足でこっそり抜け出そうとしたのだけど、あいにく門にはしっかりと鍵がかかっていた。結局、お兄さんを起こすハメになり、鍵を開けてもらう。なんだか悪いことをしたなあ。
なぜこんなに早起きをしたのかといえば、ここルアンパバーン名物の「托鉢」とやらを見るためだ。
修行僧たちが鉢を抱えて町を練り歩き、人々からご飯を恵んでもらうという。ラオスでは、徳を積むことを「ヘッブン」と呼び、来世だかあの世だかに幸せになれると信じられているそうな。日本の仏教とは、またちょっと違うみたい。
外はまだ夜明け前で真っ暗。通りへ出てみたものの、なんの情報も持たない行き当たりばったりの僕ら夫婦は、一体どこへ行けばその托鉢が見られるのかサッパリ分からない。
途方に暮れて突っ立っていると、どこからともなく、かごを抱えたおばちゃんがヌーっと現れた。どうやら托鉢用のお供え物を売っているらしい。
「いやいや、僕らはちょっと見学したいだけだから」と丁寧にお断りしたのだけど、次から次へと、似たようなおばちゃんたちがワラワラと集まってきてしまった。暗闇の中、商売根性丸出しのおばちゃんらに囲まれる。
このままではラチがあかない。「ひとつ買えば開放してくれるだろう」と、仕方なく1セットを購入することにした。それは、もち米と、ピンク色のなんだか分からない物体だった。
おばちゃんたちに「托鉢がどこで行われるか」聞くと、みんな大きなリアクションで教えてくれた。何とか理解できたことには、6時ごろに大きめの通りを僧侶たちが歩いてくる、とのことだった。
ベンチに腰掛けて待つことにした。
ふと見ると、人々がぞろぞろと同じ方向へ歩いていく。どうやらあっちがメイン会場らしいぞと察した僕らは、さっそくその流れについて行くことにした。
しばらく歩くと、道端に数人のおばあちゃんたちが座り込んでいた。
すると、突然、角の向こうから十人ほどの僧侶たちがズラリと姿を現したではないか。ペタペタ足音を立てて近づいてくる。
僕らは慌てておばあちゃんたちの隣に膝立ちし、見よう見まねで、例の得体の知れないものをちぎっては僧侶の鉢へ入れていった。
おばあちゃんたちは一切笑わず、僕らのことなど見もしないで、ただ黙々と手を動かしている。
その横顔があまりにも真剣だったので、とてもじゃないけどカメラを向ける気なんて起きなかった。
托鉢はあっと言う間に終わった。
これでヘッブンしたことになるのか?

なんとなく居心地の悪さを感じた僕らは、そそくさとその場を離れた。
だんだんと空が明るくなってくる。
しばらく歩くと大勢の人が群がっている開けた場所に出た。
そこは、僧侶の数も多かったけど、それ以上に観光客の数が凄まじかった。大型バスが三台も横づけされており、もはや立派な「托鉢観光ツアー」だ。
真面目に食べ物を捧げている地元の人に混ざって、僕らのような観光客がお米をあげたり、パシャパシャと容赦なくフラッシュをたいている。
少し心が痛んだが、「ここなら、いいか」と僕らもパシャパシャ。
なんだかなぁ。


よく観察してみると、僧侶たちは一切笑っていないし、ご飯をあげる人々も至って真剣そのもの。周りでキャッキャと騒いでいるのは僕ら観光客だけだった。
ヘッブンどころか、お坊さんのイライラを積ませてしまった気がする。
「もう、明日はゆっくり寝とこ」
僕が言うと、妻も「そうだね」と同意してくれた。









