ブリリアント・セイントという「善意の猛獣」
はじめに
「あの人は本当にすごい。めちゃくちゃ仕事ができて、かっこいいし、おまけにいい人」
「…でも、私には絶対に真似できない」
誰もが憧れ、誰もが慕う人。
でも、誰もがなれそうにない人。なりたくない人。
優秀すぎるがために苦しみを生んでしまう人。

今日はそんな人の功罪について書いてみます。
1. JTCにブリリアント・ジャークはいない
「ブリリアント・ジャーク」という言葉があります。「優秀だけど、協調性がなくて嫌な奴」…そんな意味です。
1.2. ブリリアント・ジャークとは?

ブリリアント・ジャーク(Brilliant Jerk):圧倒的な成果を出す「優秀(Brilliant)」な一方で、協調性がなく周囲に悪影響を与える「嫌な奴(Jerk)」のこと。短期的には高いパフォーマンスを発揮するが、組織の心理的安全性を低下させ、長期的にチームを崩壊させるリスクがあるため、Netflixなど多くの企業で容認しない姿勢が示されている。
アメリカのテック業界から広まった概念で、組織の健全性と成果のバランスを崩すため、人事上の重要テーマとして認識されています。
1.2. JTCにブリリアント・ジャークは生息できない

ですが、JTCにはブリリアント・ジャークはいません。私はJTCで20年以上働いていますが、見たことがありません。正確には、「ジャーク(嫌な奴)は干されるからブリリアントでいられない」のです。
JTCでは協調性は必須です。どんなに個人として優秀でも、そういう人間はすぐに干されます。活躍する場所がないので、窓際族になるか、専任のようになるか、転職するしかありません。いずれにしても社内でブリリアントではいられないのです。
2. ブリリアント・セイントという「善意の猛獣」

代わりにいるのは、「ブリリアント・セイント」です。
2.1. ブリリアント・セイントとは?

「ブリリアント・セイント」は私の造語です。以下のような意味です。
ブリリアント・セイント(Brilliant Saint):圧倒的な成果を出す「優秀(Brilliant)」で、かつ「聖人(Saint)」のこと。「ブリリアント・ジャーク」と違って、人間的にも優れる。パフォーマンスも高く、人望も高いため、多大なる成果を上げるが、皮肉にも、周囲の凡人にとっては苦しみを生み出す存在となり得る。
2.2. 誰よりも働き、誰の頼みも断らない。だからこそ誰も止められない

どんなに重たい課題も、どんな無理難題も、快く引き受けては、才能と努力でいずれ解決してしまいます。どんなインプットにも必ず期待に応え、ひたすら成果を上げ続けるマシーンのようになります。
マシーンと言っても、冷徹ではありません。人間的にも魅力的です。人々から憧れられ、信頼も厚いです。
だからこそ、誰も止められず、延々と走り続けます。
2.3. 上層部の信頼は厚く、音速で昇進していく

当然、上層部の評価は高く、飛ぶ鳥を落とす勢いで昇進していきます。
3. 超人が去った後の「焼畑農業」
2章で語ったように、非常に優秀だし、人間的にも優れている完璧人間なのですが、そうでない普通の人にとっては少し厳しい影響があります。
3.1. 現場に残される「昨対比+10%」の幽霊

ブリリアント・セイントが超人的な才能と努力で達成した成果は、翌年にはプラス10%されて目標値となります。JTCでは、その年の状況や戦略で目標値は決まりません。必ず前年度の業績プラス10%で決まります。現場から目標値のヒアリングは入りますが、これは無視されます。
3.2. 昇進という名の退場

そして、その前年度成果の立役者であるブリリアント・セイントは昇進して現場からはいなくなるのです。現場は彼ら彼女らなしでプラス10%の目標を達成しなければなりません。
3.3. 「スタハノフ運動」の現代版

さらに、このブリリアント・セイントのパフォーマンスは目指すべき組織の標準になります。上司になった彼ら彼女らも、自身と同じ働きを期待します。現代版「スタハノフ運動」の始まりです。
スタハノフ運動:1935年にソ連で始まった、炭鉱労働者アレクセイ・スタハノフにちなむ大衆的な労働生産性向上運動。技術改善によって通常ノルマの14倍という驚異的な採炭記録を出したことを発端に、共産党主導で生産目標の超過達成と労働者の競争を促した。
4. 「普通」を取り戻すために

3章で示した状態では、組織のパフォーマンスは上がりますが、継続性はありません。全社員をブリリアント・セイントで固めるならいいですが、それは現実的には不可能です。
4.1. ハードワークを「美談」から「特殊技能」へと定義し直す

ブリリアント・セイントたちのハードワークを評価すること自体は否定しませんが、これを一般的な評価軸にしないことです。彼らのそれは「特殊技能」です。普通の人にできることではありません。
4.2. 「ブリリアント」の定義を、馬力から「仕組み化」へシフトする

言うは易しですが、輝かしい成果を上げるそのパフォーマンスは、他の人でもできる仕組みに昇華することを考えるのがいいでしょう。ブリリアント・セイントと同じレベルは無理でも、普通の人のパフォーマンスを上げられる仕組みづくりは検討すべきです。
4.3. 評価の仕組みを多様化する

4.1.で、ハードワークは「特殊技能」ととらえるべきと書きましたが、それを評価する仕組みを作りたいものです。単一的な評価軸だけだと、そういう人がどんどん昇格して、スーパーソルジャー組織が出来上がります。「特殊技能」は「特殊技能」として評価できる仕組みが必要です。
👇「スーパーソルジャー組織」の参考記事👇
5. おわりに
ブリリアント・セイントの才能、努力、人間性、すべてが尊いものです。しかし、組織の大半は「彼らではない人々」によって支えられています。ピーターの法則然り、現場で優秀な人を昇格させたら、パフォーマンスが落ちることも考えられます。優秀な人を活かすとともに、その人たちがパフォーマンスを発揮できる組織づくりを目指すべきだと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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