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第12話:おもとの黙示録

何が悪かったのかわからない夏

茹だった芋の概念を表現しているようです

第12話 おもとの黙示録もくしろく

去年の8月。

会社から帰ってきて、夜のベランダに出るのが少し怖くなっていました。

春には、あんなに楽しみだったベランダ。
毎晩、新芽を見るために外へ出て、昨日より少し伸びたかな、葉が開いてきたかな、と確認するのが日々の楽しみでした。

それなのに、夏の盛りを迎えたころから、ベランダは少しずつ違う場所になっていきました。

成長を見る場所ではなく、
被害状況を確認する場所…

夜になっても、ベランダの空気は重く蒸し暑い
うなるエアコンの室外機、
まだ熱をもった万年青鉢…
日中はどれほど暑かっただろうか…


水をあげたから悪かったのか。
水を控えたから悪かったのか。

今思えば、乾く間もなく、鉢の中が蒸れてしまったのかもしれません。
蒸れちゃったかな、と極端きょくたんに乾かしたのもいけなかったのかもしれません。

真夏のベランダ。
熱を持った鉢。
湿った用土。
逃げ場のない熱気。

万年青にとって、かなり厳しい環境だったのだと思います。

けれど、そのときの私は、何が正解なのかよくわかっていませんでした。

水をあげたから、根が傷んだのか。
水を控えたから、葉が枯れたのか。

暑かったからなのか。
蒸れたからなのか。
乾かしすぎたからなのか。

根腐ねぐされなのか。
芋腐いもぐされなのか。
それとも、ただ古い葉が落ちているだけなのか。

水をあげても不安。
水をあげなくても不安。

ベランダに出るたびに、言いようのないプレッシャーと不快な暑さで酸欠状態、そんなひと夏を過ごしました。


外葉そとばが落ちる、ということ

万年青は、中心から新しい葉が出て、外側の古い葉が役目を終えて落ちていくことがあります。

これを「外葉そとばが落ちる」と言います。

新しい葉が出る。
古い葉が落ちる。

そう聞けば、とても自然なことのように思えます。

春と秋に2セット出てくることも
去年弱らせた株
新芽は出たが外葉は落ち始める
(2026/7/9撮影)

理屈ではわかります

植物なのだから、古い葉が落ちることもある。
新芽が出るなら、入れ替わりもある。
それは自然なこと。

でも、買ったばかりのおもとを前にして、
「これは生理現象です」
と言われても、気持ちが追いつきませんでした。

新芽が2枚出て、外葉そとばが2枚落ちたら、
いつ?いつ大きくなるんですか!?
葉っぱの枚数は永遠に増えないの???

三歩進んで二歩下がる…
脳内では昭和の名曲が流れます。


外葉どころではなかった

外葉そとばが落ちる。

その程度なら、まだ落ち着いて受け止められたかもしれません。

新芽以外の葉が、どんどん傷んでいく。
茶色くなる。
なんなら新芽もひょろひょろしてる…。

気づけば、新芽だけを残して、ほとんどの葉が枯れたように見える株もありました。

初夏の姿(鶴麒麟)
盛夏の姿(葉っぱ2枚になった)

枯れ死まではしていない。

中心の新芽は残っている。
芋も、たぶんまだ生きている。
完全に終わったわけではない。

毎日育てている植物が、少しずつ寂しい姿になっていく。
それは、思っていた以上につらいことでした。


作落さくおちの現実

あとから知った言葉で言えば、これは作落さくおち」だったのだと思います。

作落さくおち。

前年や入手したときより、姿が悪くなること。
葉数が減ったり、勢いが落ちたり、見た目が寂しくなったりすること。

枯れたわけではない。
でも、状態は落ちている。

この言葉を知ったとき、少しだけ腑に落ちました。

植物は、元気に育つか、枯れるかだけではありません。

枯れてはいないけれど、元気ではない。
育ってはいるけれど、きれいではない。

Instagramには、美しい万年青が流れてくる

そんなとき、Instagramを開くと、美しい万年青の写真がたくさん流れてきます。

つやつやした葉。
整った姿。
立派な鉢。

どの万年青も、ちゃんと育ててもらっているように見えました。

きれいに育った万年青を見るのは楽しいし、
こんなふうに育てられるようになりたい、という憧れにもなります。

でも、去年の夏の私は、少し落ち込みながら見ていました。

みんな、こんなにきれいに育てている。
みんな、上手に夏を越している。
枯らしているのは、私だけなのかもしれない。

SNSには、きれいな瞬間が流れてきます。

伸びた新芽。
整った姿。
うまくいった成果。

うまくいっていないのは、自分だけなのではないか。

新芽の頃はあんなに毎晩ストーリーに可愛い可愛いと写真をアップしていたのに、夏の私はSNSのその先にいらっしゃるおもと屋さんに申し訳ない気持ちがいっぱいで、おもとの姿をアップすることができませんでした。

載せてないだけで倒れてますよ

そんなとき、Instagramライブで春光園さんに愚痴ぐちったことがありました。

Instagramにはきれいな写真ばかりが流れてくるので、
みんな枯らしたりしないのかな、
自分だけが失敗しているのかな、
そんなふうに思っていたのです。

すると、春光園さんがさらっと言いました。

「いや、載せてないだけでたおれてますよ」

この場合の「たおれる」は、枯れてしまったりすること。

その一言で、私はかなり救われました。
インスタライブの後、DMで、「うちも倒れましたよ」とコメントをくださったフォロワーさんもいらっしゃいました。

誰かの万年青がたおれることを喜んだわけではありません。

ただ、きれいに育てている人たちにも、載せていない鉢があるのかもしれない。

夏に調子を崩した株があるのかもしれない。
失敗も、作落ちも、表に出ていないだけなのかもしれない。

そう思えたことで、少しだけ息がしやすくなりました。
Instagramに流れてくる美しい万年青は、本物です。
でも、写真に写っていないところで、
みんなも悩んでいるのかもしれない。

みんなも、夏は苦しいのかもしれない。
声をかけてくださったフォロワーさんたちに救われました。

シンビジウムもだいぶすっぽ抜けしました…

つぎは、夏を越え…られたのか!


毎週月曜日更新です!


TIPS:今年はどうよ?

去年の春は、可愛い可愛いと愛でて水をあげるばかりで、夏越しのための計画的な体力づくりをしてあげなかったのも一因だと思っています。
今年は春から施肥と殺菌・殺虫を思いつきのタイミングでやるのではなく、きちんと日数管理をしてやってみました。
あとは、採光についても、ベランダ園芸なので日照時間が短く徒長気味だったのもあり、LED照明を補助光として設置しました。
このあたりはまた、別のnote+で書くと思います。


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