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ChatGPTがMacの操作を記録できるようになった。そのメモリは、暗号化されていない

二十六冊目のスコアブック

人の動きを書き留める仕事では、何を書くかより先に、何を書かないかが決まっている。河川敷の草野球チームで二十何年、スコアを付けている柏木さんを見ていると、そう思う。
柏木さんは五十代の女の人で、選手でもなければ、誰かの家族でもない。チームができた年に、ルールにいちばん詳しいからという理由で頼まれて、以来ずっとベンチの三塁側の端に座っている。書くのはプレーだけだ。ため息は書かない。ベンチの口喧嘩も、差し入れの西瓜も書かない。頼まれた試合だけ付けて、頼まれない練習試合では帳面を開きもしない。試合のあいだは下書きで、家で清書をして、下書きは捨てる。帳面は今年で二十六冊目になる。
僕は選手というほどのものではないけれど、知人のつてで、人数の足りない日に呼ばれる。たいてい夏場で、年に二、三度。守るのは右翼、打順は八番と決まっている。借り物のグラブは、雨上がりの土のように重たい匂いがした。フライが上がると、柏木さんの鉛筆がすっと立つのが、右翼からでも分かる。
日曜もそれで呼ばれた。試合は朝の八時に始まり、右翼の草はまだ露に濡れていた。ベンチで隣に座る九番の彼は、ふだんは設計の仕事をしている男で、攻撃の回になると仕事の話をする。
「ChatGPTが、パソコンの手つきを覚えるようになったんですよ。会社のMacでオンにするかどうか、いま揉めてます」
彼の説明と、あとで読んだ記事を合わせると、こうだ。OpenAIがMac版のChatGPTに「Computer History」という機能を入れた。オンにした人の、クリックと、キー入力と、アプリの切り替えを記録して、AIが文脈として使う。画面の写真は撮らない。声も拾わない。見せるアプリは選べる。記録の元は四十八時間で消えて、残るのは要約されたメモリで、それは手元のMacの中に置かれる。
五回に、僕の前へ高いフライがひとつ来た。落とさなかった。ベンチへ戻ると、柏木さんの帳面に、それはもう書き込まれていた。

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