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短編小説 『ホイルハンバーグ』

コーヒーを飲みながら外を眺めていた。

今日は天気がいい。
空には濃い青が広がっている。

午前の仕事の目処がつき腹も減ってきた。
そろそろ昼だ。

何かなかったか。冷蔵庫を開けてみる。

何も無い。

冷凍庫はどうだろう。
凍った挽き肉、それだけだ。

挽き肉を焼いて食うか……。それもいいが少し物足りない感じもする。

……何かほしい。庭に出てみた。

キノコだ。キノコが生えている。

 なぜだろうと手に取り家に持ち帰った。しばらく眺めたあと、傘の部分を撫でてみた。

ザラザラだ。猫の舌みたいにザラザラしている。

小さく刻んでみた。 シイタケのような、エリンギのような、そんな香りがする。

もう一度庭に出て辺りを見回す。 

さきほどとは色が違うキノコが生えていた。赤い色だ。 血のように赤い。

手に取り匂いを嗅いでみた。

……イチゴだ。イチゴの匂いがする。

妙だなと首をかしげながら自宅に戻った。

また刻んでみた。イチゴの匂いが一段と濃くなった。

外に視線を向けると濃い青の中にうっすらと赤が混じっている。

冷凍庫の挽き肉を取り出し解凍する。

刻んだ2つのキノコと挽き肉を混ぜ、捏ね上げる。

ハンバーグ……ハンバーグじゃないか。

キノコハンバーグ。

しばらくそれを眺めてみる。いい形だ。

焼くか、蒸すか。 しばらく悩んだあとオーブンでホイル焼きにすることにした。

しまった。バターが無い。 ホイル焼きにはバターがないといけない。

再び庭に飛び出しバターを探した。 

あった、木の枝にぶら下がっている。 

引きちぎろうとしても枝が揺れるだけで取れそうにない。

ノコギリを持ってきて枝を切った。暑い。

台所に戻り溶けやすいようにバターを刻む。

……またイチゴだ。イチゴのニオイがする。

不思議に思いしばらく眺める。

 なぜだろう。なぜさっきからイチゴのニオイがするのだろう。

考えても答えが出ないので、さきほどのハンバーグにバターを乗せ、ホイルに包みオーブンへ入れる。

ジリジリと音を立てるオーブンを眺めながら歌を歌ってみた。

 『海の幽霊』だ。歌い出しから難しい。

気合を入れ立ち上がる。 青筋をたて口を大きく開け声を出す。

ビブラート、ビブラートがうまくできない。

あまりに下手な自分に嫌気が差し歌うのをやめ、オーブンに目を移す。 

相変わらずジリジリと音を立てて焼けていた。

ふと視線をずらすとそこに指があった。 

「うおっ!?」

思わずぎょっとして声が出る。

指をたどると自分の身体につながっていることに気づき、指を鳴らしてみることにした。

かす。かす。かす。

乾燥しているからなのかパチンと音が響かない。

 台所を見渡すとバターの残りがある。 ちょうど良かったと指に塗ってみる。

イチゴのニオイが漂った。

再び指を鳴らすがヌルヌルして余計に鳴らない。

ペロリと舐めてみた。 カカオ、かすかにカカオの味がする。 

目をつぶり余韻を感じてみる。ジワジワとイチゴのニオイが広がった。

オーブンを見た。バターの弾ける音がしている。

いい頃合いだろう。

オーブンを開けハンバーグを取り出す。 

肉の香りとキノコの香り、ほのかにイチゴのニオイも感じる。

細かく切り分けてみた。サイコロステーキのようだ。

どれを食べるか迷う。 焦げ目が多い端のほうがおいしそうに見えてそれを選んだ。

いざ食べようとしてふと思った。

これは食べてもいいのだろうか。 イチゴのニオイがする赤いキノコ。毒でも入っているかもしれない。

目の前の肉の塊が急に怖くなって思わず大声を上げた。

「わあぁっ!!うああぁ〜!はあぁあぁあぁ〜!!」

……ビブラート、ビブラートが出た。

すぐに立ち上がり声を張り上げ『海の幽霊』を歌う。 

いい感じだ。こんなに歌えたのは初めてだ。

最後まで歌い上げ満足して再びハンバーグを見つめる。

恐怖はもう消えていた。

しばらく眺めてはたと気づいた。 

指に付けたイチゴのニオイがするバターは大丈夫だった。 赤いキノコも大丈夫に違いない。

さっきまで怖かった肉の塊はすでにおいしそうなハンバーグに見える。

フォークで刺し口に運んだ。

うまい。実にうまい。 

こんなにうまいハンバーグを食べたのは初めてだ。

肉と濃厚なバターの味。そこにイチゴのフルーティなニオイがまじり、遅れてカカオの味がやってくる。

思わず涙がこぼれそうになって上を向く。

その瞬間、頭でパチンッ、と音がした。

 同時に身体は宙に浮かび、下を見下ろす。

そこには上を向いたまま動かない自分がいた。

もう一度ホイルハンバーグを食べたくて下に降りようとしたが、どうやら戻れないようだった。

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