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『あしながおじさん』レビュー?

『あしながおじさん』 J・ウェブスター作/坪井郁美訳

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十一月三十日

あしながおじさん

きょう、わたしは「図書喫茶(カフェ)カンタカ」という、なんとも胸がときめく名前の喫茶店に立ち寄りました。おじさん、想像してみてくださいまし。森の中を思わせる広く静かな店内には本の匂いがふわっと漂っていて、コーヒーの香りと混ざりあい、それだけで心がふくらんでしまうような場所なのです。

きょうはそこで、篠原ウミハル先生の『図書館の主』という漫画を“拝見”しておりました。まあ、拝見、ですって! なんて気取った言い方でしょう。でも一度くらいは、ハイソサエティのご婦人のように気取ってみたくなるものですわ。ここからはわたしも、ハイソな気分でお手紙をかかせていただきますわね。覚悟はよろしくって?
そうそう、『図書館の主』のお話でしたね、拝見と言ってもただ拝んで見ただけではなく、ちゃんとページをめくって読んだのですからご安心くださいまし。とても面白うございますのよ。おじさまも、難しい経済の本ばかりでなく漫画の本もたまには “拝見”なさってくださいませね。

『図書館の主』には、毎回いろいろな本が出てまいりますの。悩みを抱えた人が私立の児童文学館にやってきて、司書の方にそっと渡された(というのはいくぶんか文学的な表現かもしれません。つまり、そうでない事のほうがいくぶんか多いというわけです。)本を手がかりに問題を解決していく——そんな素敵なお話でございます。

その中に、なんと『あしながおじさん』が登場いたしましたの!
おじさま、ご存じでいらっしゃいますでしょう? もちろん、ご存じですよね?

福音館文庫カバー

実は、きょうのお手紙はこの『あしながおじさん』という本をご紹介するためのものなのです。えっ、『図書館の主』はどうしたのかって? まあ、あれはきっかけにすぎませんわ。作中で紹介される本がどれもこれも魅力的で、そのたびに寄り道をして読みふけってしまうのですもの。読書とは、こういう寄り道の楽しさも大切だと、わたし思うのです。

さて、『あしながおじさん』(Daddy-Long-Legs)はアメリカの女性作家ジーン・ウェブスターが1912年に発表した児童文学です。孤児院育ちのジュディ——本名はジルーシャ・アボットというのですけれど——が、匿名の慈善家から援助を受けて女学校に通えるようになり、その代わりに毎月手紙を書くことになる、というお話でございます。

彼女は名前も分からない相手のことを、自分だけの呼び名として『あしながおじさん』と呼び、手紙を送るのです。この作品、冒頭をのぞけばすべてが彼女の手紙だけで構成されているのですよ。こういうのを“書簡体小説”と申しますの。難しい言葉ですけれど、わたし、将来大作家になる予定でおりますから、日々勉強しているのですわ。

それにしても、あのジュディの手紙ったら、本当におもしろいのですのよ!
読んでおりますと、まるで彼女が目の前でおしゃべりしているかのようで——ひとつひとつの文章に、あの子自身の魅力がたっぷりと、あふれだすように詰まっているのですわ。生き生きとしていて、少し生意気で、でもとても愛らしくて……おじさま、きっとお気に召しますわよ。

それに、ジュディが手紙の中で語る学生生活というものが、20世紀はじめのアメリカの女子大学生がどんな暮らしをしていたのか、まるで小さな資料集のように読めてしまうのです。お勉強のことや、寮のこと、お友だちとの出来事なんかが、いちいち面白く描かれていて、思わずページをめくる手が止まらなくなってしまいますの。

そして、おじさま……これがなにより素敵なのですけれど、あのお話は立派なシンデレラストーリーでもあるのですのよ。彼女が掴んだ幸運、そして努力が、すてきな成功と愛になってちゃんと実をむすぶのですもの。読み終わったあとは胸がぽうっとあたたかくなって、幸せのおすそわけをいただいたような気持ちになるのです。

ですから、おじさま、まだお読みになっていらっしゃらないようでしたら、ぜひぜひお読みになってくださいましね。
わたし、心からお勧めいたしますの。

ところで、おじさま。ここでひとつだけ、細かいことを申し上げてもよろしいでしょうか?
わたし先ほど、20世紀はじめのアメリカの女子大学生の暮らしがよくわかる、なんてえらそうに申し上げましたけれど……実は、読みながら一つだけ気になることが出てきたのですの。

坪井郁美訳・福音館文庫版の P.171 に「電車」という単語が出てまいりますのよ。ジュディが「電車」に乗るシーンなのですが……。
“まあ、ジュディの大学近くって、その頃もう電化されていたのかしら?”
なんて、ついつい、いつものごとく好奇心がむくむくと頭をもたげましたの。

なぜって、このページ以外の手紙には「汽車」は何度か書かれているのですけれど、「電車」と書かれているのはこのページだけでしたものですから、なにか特別な意味があるのかしらと思いまして。

それで、少し調べてみましたら——
なんと、『あしながおじさん』の舞台になった学校のモデルは、作者ジーン・ウェブスターの母校 ヴァッサー・カレッジ (Vassar College) なのだそうですわ。
(おじさま、これ、インターネットの百科事典で確認したのですよ。なんだか近代的なお勉強だと思いません?)

ヴァッサーはアメリカ東海岸——つまりわりと文明が早く入ってきそうな地域にございますわよね。
けれど『あしながおじさん』が出版された1912年ごろ、鉄道がはたして電気で動いていたものかどうか……と、またしても気になってしまったのです。

そこで、わたしはとうとう“Google 先生の AI”という、なんとも物知りなお方に質問してしまいましたの。
(おじさま、聞いてくださいませ。わたし、最近こういう近代文明の力をフル活用しておりますのよ!)

するとお返事はこんな具合でしたの——

・1907年、ニューヨークとスタンフォードのあいだで電化が始まる
・1914年にはニューヘイブンまで延長

……とのこと。

まあ、なんとも絶妙な時期ではございませんこと?

さらに
“それでしたら、ヴァッサー・カレッジのあるポキプシーはどうなの?”
とたずねてみましたら、

「このあたりはそのころ、電化されていませんでした」

と、きっぱり言われてしまいましたの。

あらまあ!
どうやら、あの地域はだいぶ後の時代まで蒸気機関車やディーゼル機関車が主役だったみたいなのですわ。

……でも、おじさま。
もともと『あしながおじさん』の舞台は架空の場所なのですもの。
細かく目くじら立てて調べたところで、なんの役にも立たないのですわ。
(もっとも、調べるのってとても楽しいのですけれど!)

それから、該当の英文を原文で読みましたのよ。

“I tried to pay the car fare… I had to get out and take the next car…”

原書 Letter44 より

https://en.wikisource.org/wiki/Daddy-Long-Legs_(Webster)/Letter_44
https://en.wikisource.org/wiki/Page%3ADaddy-Long-Legs.djvu/215

ほら、おじさま。“car” としか書いていないのですわ。
“電車” なのか “汽車” なのか、はたまた 馬車? 自動車? 乗り合いバス? いったいどんな “car” なのでしょう?
なんとも曖昧で、判断がつきませんの。

でも——
ひとつだけ確かなことがございますのよ。
ジュディったら、なんておっちょこちょいなのでしょう!
お財布を別のコートのポケットに入れっぱなしにして、「愉快なサザエさん」してしまったのですから。
それもまた彼女らしい魅力で、わたし思わず笑ってしまいましたの。
(これは某国民的テレビ番組の主題歌からの引用ですわ。おじさまならきっとお分かりになりますね?)

ジュディが “car” に乗った日に何が起こったのかは、ぜひぜひ、本物の『あしながおじさん』をお読みになってくださいませね。

おじさま、わたしのおしゃべりで少しでも興味を持ってくださったでしょうか?
もし “ふむふむ” と読んでいてくださったのなら、わたし、とっても嬉しいのですわ。

長くなってしまいましたけれど、もうひとつ(わたしったらもう何回も「もう一つ」って書いていますね!)ほんとうにもうひとつだけ付け加えたいことがございますの。

なんと、作者ジーン・ウェブスターのお母さまは、あの有名な——世界中の男の子を木登りとイタズラ好きにしてしまった—— マーク・トウェインの姪 にあたるのだそうですのよ!

おじさま、思わず “まあ!” とおっしゃいません? いえ、男の方はこのような驚きかたはきっとされませんわね?
でも、文豪の血筋だなんて、ちょっと出来すぎているようなお話でしょう?
わたしなど、思わず背筋をのばしてしまいましたの。

もちろん、おじさまが権威主義、つまり “有名な人だから偉いに違いない!” なんて思う方だったり、血統主義、“どんな家に生まれたか、どんな血を引いているかで価値が決まる“……だなんて思う方だとは寸分たりとも思っておりませんけれど、

こういう “へえ、そんなつながりが?” という驚きも、読書のおもしろさのひとつではないかしら、とわたし思うのです。

だって、ひとつの本が別の本を思い出させて、そこからまた別の作家や歴史や土地へ広がっていく……。
読書って、なんて自由で、なんて際限なく伸びていくのでしょう。

そう思いながら、わたしはいま、何度目かの『トム・ソーヤーの冒険』をそっと開いておりますの。
ミシシッピー川の匂いがしてくるようなあのページをめくりながら、
“なるほど、ジーン・ウェブスターにもこんな血が流れていたのね”
なんて、ちょっぴり感慨にふけったりしていますのよ。

それでは、おじさま。
今日のお手紙はここまでにいたしますわね。

親愛なるおじさまへ愛を込めて
ジュディのふりをした らせん+AI より


追伸
突然いつもと違ったレビュー文でびっくりされたかもしれません、もうお分かりの通り、『あしながおじさん』のジュディの真似……いえいえ、リスペクトとして紹介させていただきました。
彼女のお手紙って、楽しい毎日のごちゃごちゃした出来事に、いろいろな本の紹介やちょっとした突っ込みや、思いつきのおしゃべりがぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、とてもにぎやかでしょう?
わたし、そんなところが大好きなのです。
ですので、そんなところも含めて真似……じゃなかったオマージュさせていただきました。おかげでとても長くなってしまいましたけれど(これもまた彼女のお手紙みたい!)少しでも楽しんでいただけましたら幸いでございます。

こんどこそかしこ



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