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謝罪で潰れる会社と謝罪でファンを増やす会社の決定的な違い

知られていないのは、存在しないのと同じ。
だから「伝える」を学ぼう。

 サービス業の顧客調査で繰り返し確認されている「回復パラドックス」という現象がある。

 トラブルに見舞われたものの、その対応に満足した顧客は、そもそも何のトラブルもなかった顧客より、忠誠心が高くなることがあるというのだ。
 直感に反するが、理屈は分かる。
 平常時のサービスは「約束通り」を証明するだけだが、トラブル対応は「約束を守るためなら、この会社はここまでやる」という物語を目撃させる。ピンチは、ブランドにとって最上級の証明の機会でもあるのである。

 とはいえ、これは綱渡りの上の話だ。
 同じピンチで、会社を潰す経営者もいる。
 SNS時代、炎上はもはや大企業だけの災難ではない。一枚の写真、一件の口コミ、一人の従業員の投稿から、町の会社が全国の批評にさらされる。だからこそ「悪い知らせの伝え方」は、「伝える」を学ぶ実践編の締めくくりにふさわしい必修科目なのだ。

 運命の分かれ目はズバリ、順番である。

 危機に直面した人間の脳は、知りたいことが決まっている。
「何が起きたのか」
「自分に影響はあるのか」
「で、あなたはどうするのか」
 ところが追い詰められた経営者の口から最初に出てくるのは、たいてい弁明だ。
「そういう意図ではなかった」
「一部の従業員が」
「法的には問題ない」
 聞き手の質問に何ひとつ答えないまま、自分を守る言葉から始めてしまう。世間が謝罪会見に厳しいのは、内容ではなく、この順番の狂いを「不誠実の信号」として瞬時に嗅ぎ取るからである。

 正しい順番は何だろう。

 まず、心配や迷惑という「相手に生じた事実」への謝罪。
 次に、判明している事実。
 次に、調査中のことは調査中だと正直に。
 最後に、再発を防ぐ対策。
 弁明と背景説明は、聞かれてから話せばいい。なお最初の謝罪は「ご心配をおかけしたこと」への謝罪であって、確定していない責任まで丸呑みする必要はない。誠実と無防備は別物である。

 そしてもうひとつ、順番には時間軸の意味もある。

 悪い知らせは、自分から先に言う。

 同じ事実でも、自ら公表すれば「過ちを認めた誠実な会社」の物語になり、他人に暴かれれば「隠していた会社」の物語になる。
 事実は同一、物語は正反対。連載で学んできた通り、人々の記憶に残るのは事実ではなく物語のほうだ。しかも現代は、従業員も顧客も全員が発信装置を持つ「発覚の時代」である。隠し通せる確率は年々下がり続けており、隠蔽は道徳的に悪い以前に、期待値の計算として割に合わない。
 不祥事そのもので潰れる会社は案外少ないが、隠蔽と後手で潰れる会社は枚挙にいとまがない、というのが危機管理の定説である。

 実務の要点は三つで足りる。
 第一にスピード。完璧な報告より「事実を確認しています」という一報の早さが誠実さの信号になる。
 第二に窓口の一本化。社内で言うことがバラバラなのは、それ自体が第二の火種だ。
 第三に、嘘だけは絶対につかない。小さな嘘は必ず発覚し、発覚した瞬間、本題と無関係の全発言が信用を失う。

 気づいただろうか。
 危機対応とは、結局この連載でやってきたことの応用にすぎない。
 相手の知りたい順に話す。物語の主導権を手放さない。社内に同じ原稿を配る。そして日頃の発信で積み立てた信頼の残高が、雨の日の引き出し限度額を決める。ブランドは晴れの日に作られ、雨の日に証明されるのだ。

 さて、次回のテーマは、多くの経営者がいま最も頭を抱えている「値上げの伝え方」にしよう。
 悪い知らせの応用問題にして、ブランドの総合試験。値上げして客が離れる会社と、値上げして感謝される会社の違い――総仕上げに、これほど適した題材はない。

(加々本裕樹)

過去の投稿はこちら➡ #伝えるから始める経営

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