【50歳、辞表を書く日】第1話「平和」
親会社の成長とともに設立された子会社。
川西健二(50歳)は、新規事業の立ち上げメンバーとして転籍した。仕事は私立中学・高校への営業。学校案内やホームページなど広報物の企画・制作をメインとした。社員は10名ほど。小さな会社だったが、活気にあふれていた。
社長の徳永(57歳)は、人を叱って動かすタイプではない。
失敗した社員がいれば、「何が原因だった?」と一緒に考え、成功すれば自分のことのように喜ぶ。社員一人ひとりに裁量を与え、「まずはやってみよう」が口癖だった。
営業兼ディレクターの福岡美咲(28歳)も、その環境で大きく成長していた。
この日も学校案内リニューアルの大型案件を受注して帰社すると、オフィスには自然と拍手が起こる。
「よく頑張ったな。」
徳永の一言に、美咲は照れくさそうに笑った。
川西も負けてはいなかった。
私立学校の情報を一元管理できるデータベースを企画し、外部開発会社とともにシステム化。学校関係者からも高い評価を受け、会社の新たな収益源へと成長していく。
業績は右肩上がり。
会社には笑顔があり、挑戦があり、仲間がいた。
川西は心から思っていた。
「この会社なら、定年まで働ける」
この時はまだ、誰も知らなかった。
穏やかな日々が、突然終わりを迎えることを。
