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家族のさざれ(15)母の巣

就職して一人暮らしを始めた3年目、
話があると父に呼び出された。

末っ子の妹はその年大学生になり、
姉は前の年に結婚して地方に転居していた。

私は姉より半年先に、家を出ていた。

父は私の一人暮らしに大反対で、
『娘が家を出るのは、結婚した時だ』
と言った。

収入と支出をグラフにして
父を説得したが、
『安い給料で、やれるものならやってみろ』
とだけ父は答えた。

そして私はその週末に
小さな部屋を借り、
東京での一人暮らしを強行した。

浜松町駅で待ち合わせ、
一緒に実家へ向かった。

電車の中で父は、
母の更年期症状が重く、鬱気味で
独りにするのは危険だと
医師に指摘されたと言った。

『空の巣症候群』だった。

『お前、仕事を辞めて
お母さんと家に一緒にいてくれないか』

まるで私の答えを知っているかのように、
ふいに父は言った。


『…そういう事は夫婦でしてください。
症状が治って私が仕事に就いたら、
また同じことになると思う…』

私はやっとの思いで答えた。

その刹那。

思い描いていた答えを返さない
薄情な娘を見る父の、
驚いた表情をまだ覚えている。


私はその時やっと
父の望む従順な娘を手放したが、
父から本当に卒業できたのは
私自身が親になってからだった。


#家族のさざれ

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