見出し画像

ノーベル賞学者の光と影...動物行動学の父、ニコ・ティンバーゲンの波乱万丈な生涯

今日は、ノーベル生理学・医学賞を取った本を紹介しようと思います。

動物の行動を自然のなかで観察する「動物行動学」という新しい学問を作った人です。

ニコ・ティンバーゲンという人で、その生涯を書いた本。だから本人じゃなくて弟子が書きました。

『ニコ・ティンバーゲン――動物行動学を築いたナチュラリスト』というタイル。

この本では、彼の輝かしい大発見だけでなく、戦争でのつらい経験、親友との対立、そして心の病といった人間らしい「光と影」が書かれています。

是非読んでみてほしいので、詳しく紹介しますね!


波乱万丈な人生

1907年にオランダで生まれたティンバーゲンは、子どもの頃から自然が大好き。

大学に進学しても、実験室にこもって顕微鏡をのぞくような従来の生物学にはなじめず、授業をサボっては砂丘や海岸で野鳥観察に没頭していました。

彼が大切にしたのは、生き物のありのままの姿を、自然の中で観察することです。

1932年には妻と一緒に極寒のグリーンランドへ赴き、1年以上にわたってホッキョクギツネやユキホオジロなどの野生動物を観察しました。

彼の人生に大きな影を落としたのが第二次世界大戦です。

オランダがナチス・ドイツに占領されると、ティンバーゲンは大学での不当な扱いに抗議し、1942年から約2年間も人質として収容所に入れられてしまいます。

連行される日、庭で薪を割っていた父の姿を、当時4歳だった娘のカトリーナさんは鮮明に覚えているそうです。

そんな過酷な状況でも、彼は離れ離れになった家族を喜ばせるために、毎週許可された1通の手紙に、カモメのヒナの成長を描いた絵物語を書いて送りました。

この物語は、足環をつけた主人公のカモメが、外敵から身を守り、パートナーを見つけて成長していく姿を描いたもので、のちに本当の児童書として出版され、広く愛されることになります。

一方で、共に動物行動学を立ち上げた無二の親友、コンラート・ローレンツがナチスに協力していたことを知り、戦後に深く苦悩し、友情の修復に長い時間をかけたエピソードも、この本では描かれています。

動物の本能のスイッチを発見

ティンバーゲンは、動物がなぜその行動をしてしまうのかという本能の仕組みを、とてもシンプルな実験で確かめました。

たとえば、イトヨという魚のオスは、繁殖期になるとお腹が赤くなり、縄張りに近づく他のオスを激しく攻撃します。

ティンバーゲンは、本物にそっくりだけれどお腹が赤くない模型と、ただの丸い石のようだけれど下半分を赤く塗った模型を水槽に入れました。

するとイトヨは、不格好な石であっても赤いというサインさえあれば、自動的に激しく攻撃してしまったのです。

さらにヒョウモンチョウの実験では、本物のメスの4倍の大きさで、黄色と黒の模様が猛スピードでチカチカと明滅する「自然界には絶対に存在しない異常な模型」を見せると、オスは本物のメスを無視して、その異常な模型に夢中になってしまいました。

ティンバーゲンはこれを超正常刺激と名付け、動物が特定のサインに盲目的に反応してしまう仕組みを証明しました。

今も使われる最強の分析ツール

彼の最も偉大な功績は、動物の行動には、次元の異なる4つの『なぜ』があることを見つけたこと!

小鳥のさえずりを例にすると、次のように分けられます。

  1. 仕組み(メカニズム)

    • 脳やのどの筋肉がどう動いて鳴いているのか?

  2. 成長(発達)

    • ヒナから大人になる過程で、どうやって鳴き方を学習するのか?

  3. 役割(機能・適応)

    • 上手に鳴けることで、メスを惹きつけたり縄張りを守ったりするのにどんな得があるのか?

  4. 歴史(進化)

    • 鳥の祖先から、どうやって「さえずる」という行動が進化したのか?

生まれつきか、学習か、みたいな単純な議論ではなく、この4つすべてを調べることで初めて生き物を理解できると示しました。

この考え方は、現在でも生物学の基本ルールとして使われているだけでなく、「なぜこの商品が売れるのか?」といったビジネスの分析などにも応用されるほど大発見だったんです!

ノーベル賞の栄光と、晩年の失敗

オックスフォード大学に移った彼は、『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンスや、『裸のサル』のデズモンド・モリスなど、のちの科学界をリードする世界的スター学者たち(ハードコア・グループと呼ばれました)を次々と育て上げました。

そして1973年、動物行動学を作った功績でノーベル生理学・医学賞を受賞します。

なんだけど、彼はキャリアの絶頂期にあっても重いうつ病に苦しんでいました。

さらに晩年には、人間の自閉症の治療にのめり込み、自閉症は母親との愛情不足が原因だから、子どもが嫌がって泣き叫んでも無理やり抱きしめれば治るという抱っこ療法を強く推奨してしまいました。

現在では、自閉症は生まれつきの脳の発達の違いであり、親の育て方が原因ではないと医学的に証明されています。

抱っこ療法は効果がないどころか、子どもを危険にさらす虐待的な行為だとして専門機関から固く禁じられています。

ノーベル賞学者が自分の専門外の分野で自信過剰になり、誤った非科学的な主張をしてしまう現象はノーベル病とも呼ばれ、彼の晩年は強い批判を浴びることになりました。

著者のクルークは彼の教え子ですが、恩師を神様のように持ち上げるのではなく、こうした人間的な弱さや、科学者としての致命的な失敗も隠さずに正直に書いています。

泥だらけになって動物を追いかけ、戦争を生き抜き、うつ病と闘いながらも後進を育てた、一人の魅力的な人間のドラマ。

ぜひ、読んでみてほしい!


【編集後記】

マガジンで、今まで紹介した本をジャンル分けして整理してみました。本屋とか図書館で本を選んでるみたいで楽しいので、ぜひ見てみてください!


いいなと思ったら応援しよう!

おすすめの本を紹介しまくる人 これからも毎日、本を紹介したいのですが、このnote、ずっと赤字状態です。もし本好きの方がいらしたら、チップを送っていただけると嬉しいです。

この記事が参加している募集