【継承社長へ②】変えたくても変えられない新社長が、最初に握るべき「誰の城でもない場所」
変えたくても、変えられない。
継いだばかりの新社長には、そんな時間があります。
継いだ会社で、何かを変えようとして、最初の壁にぶつかったのは、いつでしたか。
営業のやり方を変えようとすれば、
「先代の頃から、これでやってきました」
と言われる。
製造の段取りに口を出せば、ベテランが、目だけでこちらを見る。
間違ったことは言っていないはずなのに、なぜか空気が重くなる。
そして、こう思う。
この会社は、まだ自分のものになっていない。
ひとつ、先に言っておきます。
それは、あなたの力量の問題ではありません。
継いだばかりの社長が、現場の古参と正面からぶつかって、すんなり通る会社のほうがめずらしい。
これは、構造の問題です。
そして、構造の問題には、構造から入る“順番”があります。
ここから先は、その“順番”の、いちばん最初の一手の話です。
新社長は、まず“小さく”変えろ
承継の世界には、昔からよく言われる知恵があります。
新しく社長になったら、まず、目に見える小さな変化を一つ打て、と。
トイレをきれいにする。
事務所のレイアウトを変える。
給食弁当の業者を見直す。
古くなったユニフォームを新しくする。
名刺や会社案内を整える。
場合によっては、会社のロゴを見直す。
ばかばかしく聞こえるかもしれません。
でも、これには意味があります。
人は、言葉では「代が変わった」を信じません。
“事実”を目で見て、はじめて信じる。
社長が代わっても、昨日と同じ景色なら、古参の頭の中では、まだ先代が社長のままです。
だから、小さくていい。
「何かが変わった」と、目に見える形で示す。
それが、新しい代の、最初の合図になります。
でも、それは“入口”にすぎない
ただ、トイレと机だけでは、会社は強くなりません。
可視の変化は、空気を変える。
けれど、それだけでは利益は変わらない。
そして、ここからが本当の壁です。
本丸である営業、製造、品質に手を入れようとすると、さっきの「先代の頃から」が必ず立ちはだかる。
その領域には、古参の三十年があります。
あなたが正しくても、経験で押し返される。
新社長が、いちばん主導権を握りにくいのが、実はこの“会社の本業ど真ん中”なんです。
では、どうするか。
古参の“聖域”になりにくい場所がある
一つだけ、例外があります。
新社長が比較的入りやすく、しかも会社の利益に直結する場所。
それが、調達です。
仕入れ。
原価。
取引先との条件交渉。
なぜ、ここは入りやすいのか。
理由は、はっきりしています。
調達は、多くの中小製造業で、誰か一人の“聖域”になりにくいからです。
営業には、古参の流儀がある。
製造には、職人の理屈がある。
品質には、長年積み上げてきた判断基準がある。
そこに正面から踏み込めば、当然、経験で押し返される。
でも、調達は少し違います。
「昔からこの仕入先だから」
「長い付き合いだから」
「この単価でずっと来ているから」
そう言われながらも、その根拠が整理されていないことが多い。
誰かが明確に設計したというより、長年の流れの中で、そのまま続いてきた領域になっている。
だから、新社長が、
「ここは、私が見る」
と宣言したとき、そこは誰かの城を奪う場所ではなく、会社の利益構造を見直す場所になります。
ここが、最初に握るべき場所です。
これは、トイレや机と同じように、“新しい代が始まった”ことを示す可視の変化です。
ただし、トイレと決定的に違うことが一つあります。
そこは、実際に“利益が出る”場所だ
トイレをきれいにしても、利益は一円も増えません。
机を動かしても、原価は下がりません。
でも、調達は違います。
ここは、手を入れれば、本当に利益が出る場所です。
利は、元にあり。
利益は、売る瞬間に生まれるのではありません。
仕入れた瞬間に、もう半分は決まっている。
「長い付き合いだから」で見直されてこなかった単価。
誰も根拠を聞かなかった、毎年の値上げ。
比較されないまま、固定されてきた取引先。
ここに構造の目を入れるだけで、営業が汗をかいて取ってくる利益と肩を並べるくらいのものが、現場を一人も疲れさせずに出てくることがあります。
たとえば、先ほど例に挙げた給食弁当。
会社から補助が出ている場合もあります。
長年、同じ業者にお願いしている会社も多いでしょう。
では、その業者選定は、いつ見直しましたか。
価格だけでなく、メニュー、満足度、支払条件、配送の安定性、従業員の声。
そうしたものを一度整理し、相見積もりを取り、比較してみる。
うまくいけば、社員の満足度が上がる。
同時に、会社の支出も抑えられる。
これは、単なる弁当の話ではありません。
調達を見直すとは、こういうことです。
会社の外へお金が出ていく場所に、根拠を持たせる。
なんとなく続いてきた支出を、会社の意思で選び直す。
そこに、新社長の意思が出ます。
つまり、調達という一手は、“新社長の合図”でありながら、“会社の利益”でもある。
ハッタリではありません。
実利のある一手。
それが、調達です。
だから、最初に握るべき城は、ここだ
整理します。
新社長は、小さく、目に見える変化を打つべきです。
それは正しい。
でも、その一手を、トイレや机で終わらせない。
同じ“可視の変化”を、調達に置く。
「営業も頑張る。
でも、私はまず、仕入れに力を入れる」
そう宣言する。
それは、古参と真正面からぶつかることではありません。
誰かの経験を否定することでもありません。
会社の外へお金が出ていく場所を、新社長自身が見に行くということです。
そして、結果が出る。
利は元にあるからです。
抵抗を受けにくく、主導権を握りやすく、しかも利益が出る。
継いだ会社で、新社長がいちばん最初に手をつける場所として、これ以上の急所はありません。
会社を強くするのは、“売り方”を変えることからだけではない。
“買い方”を、自分の手に取り戻すことからでも始めれます。
ここで書いたのは、“調達を握る”という、入口です。
では、握ったあと、何を見るのか。
「いくらで買えるか」ではなく、「いくらでつくれるか」。
理論原価という一つの物差しで、利益を、売る前に設計する。
その全体像を、一冊にまとめています。
『会社はもっと強くなる。』
中小製造業を、“売り方”ではなく”買い方”から強くする一冊です。
――次回、③へ続きます。
