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知らない曲を、知らないままにしておきたい

プライベートではあまり音楽を聴かない。

そもそもプライベートとは?という感じではあるが、仕事ではもちろん毎日のように聴いている。資料として渡されたものを聴いたり、参考曲を探したり、自分や誰かのミックスチェックをしたりしているので、時間だけでいえばかなりの量を聴いているはずなのだけど、それは自分の中では「音楽鑑賞」には入らない。そして作曲中は、自分の曲を「鑑賞」しているほどの余裕はない。

どうしても、ここの構造がどうなっているのかとか、この和音は何だろうとか、ピッチが正しいか、フェードアウトが何秒か、ノイズが入っていないかとか。演奏者に知り合いがいれば、その人の演奏ばかり追ってしまったり。そういう不自由な聴き方になってしまう。

仕事が終わってから、さて音楽でも聴こう、ということはほとんどない。音から離れたい。たまにドビュッシーを聴く。現実的に時間がないというのもあるが、家でBGMを流す習慣もないし、そこそこ高品質な自宅スタジオ環境はあるのに、そういえばうちにはCDプレイヤーがない。いかがなものかと思うけど・・・捨てちゃったのだ。

最近、そんな僕がわりと普通に音楽を聴いているのは、車の中だったりする。

車ではだいたいJ-WAVEを流している。当然知らない曲が流れてくるし、誰なのかも曲名もわからないまま聴いていることが多い。サブスクのようにパーソナライズもされていない。運転中なのでいちいち調べるわけにもいかず、あ、この曲いいな、と思いながらそのまま目的地に着いて、結局なんだったのかわからないまま終わったりする。

昔は、ラジオから流れてきた曲が気になっても、今みたいにその場で検索する手段がなかったので、どうしても知りたければ局に電話して「さっき何時頃に流れていた曲は?」と聞いたりした。

テレビCMの音楽なんかはもっと大変で、商品名を頼りにメーカーへ問い合わせて、使われている曲について教えてもらったこともある。日産のCMで流れていた、マイケルナイマンのピアノレッスンとか。一生忘れないよ、そういう曲は。

今はスマホですぐに調べられるし、そこから掘れば、数分後にはさっきまで名前すら知らなかった誰かについて結構詳しくなっていたりする。便利だから昔に戻りたいとも思わないのだけれど、最近は、一旦わからないままにしておいた時間も何かを醸成していたのだろうな、とも思う。

誰の曲なのかわからないまま、なんかよかったな、という感覚だけが残る。あとで思い出しても調べようがなく、何日か経つとメロディもうろ覚えになる。それでも変に長く覚えているものがあったりして、わからない時間だけが、なんとなく過ぎていく。

今は、何かを見たり聴いたりして心が動いた直後に、それが何なのか、誰が作ったのか、どう評価されているのかまで一気に知ることができて、なんて便利なんだろう。そして、最初にあった「なんかよかった」という感覚が、いつの間にかたくさんの情報と照らし合わせられて、整理される。

・・・いや・・・そこは整理しなくてええねん。

車でラジオを聴いているとその感覚が少しだけ戻る気がする。知らない曲が流れて、なんとなく気になり、でも運転中だからそのまま聴くしかない、不便な感じが、案外心地いいなって。

気になったら、あとで調べよう。だいたいそのまま忘れてしまうけど、それも含めて。

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