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御恩と奉公の終焉(3)ーー給料とボーナスと出世という麻薬

つづきです。

会社員の最大の強みは、毎月決まった日にほぼ決まった額の給料が振り込まれることだと思う。これは自営業者にはとても考えられないことだ。

どれだけ会社に不満があっても、どれだけ人間関係に疲れていても、その振込通知は強烈な安心感を与える。人間は安定に依存する生き物だ。毎月自動的に定額の金が入る生活に慣れてしまうと、そこから離れることは容易ではない。ある意味で「麻薬」だと思う。

会社はその人間の弱みをよーく理解している。

給料という麻薬。
出世という餌。
ボーナスという緩衝材。

こうして会社員は、少しずつ会社に依存して離れられなくなっていく。
安月給だと思っていても、簡単には会社を辞められない。なぜなら、日本型雇用には「ボーナス」という巧妙な装置まで組み込まれているからだ。

半年に一度、まとまった金がドンと振り込まれる。その瞬間だけ、会社員は日々の苦しさを忘れる。

「もう少し頑張るか」
「辞めるのは次の賞与を貰ってからにしよう」

そうやって判断は先送りされる。毎月均等に支払われるよりも、半年に一度まとめて与えられる方が、人間の脳には強く作用する。まるでソシャゲのログインボーナスか、依存症患者に与えられる報酬のように。

さらに厄介なのは、「出世」というゲームだ。会社は全員を豊かにはできない。しかし、競争は維持しなければならない。そこで用意されるのが、役職、肩書、評価制度、昇進期待といった「餌」である。

次は課長。次は部長。あともう少し頑張れば役員になれるかも、と夢を見させる。

そうやって人は、自ら進んで会社の家畜として最適化されていく。だが、冷静に考えれば、このゲームの頂点に立てる人間はごく一部だ。大多数は、永遠に「次の人参」を追い続ける側である。

しかも、日本社会は、給料だけでなく、人生そのものを会社へ接続するよう設計されている。

住宅ローン
教育費
社会保険
年金
世間体

すべてが、会社員という身分を前提として回っている。

だから会社を辞めることは、単に職を失うことではない。「社会との接続」を失う恐怖でもある。多くの会社員が、会社を憎みながらも会社にしがみつくのは、決して根性がないからではない。むしろ極めて合理的な反応なのだろう。

しかし問題は、その依存が強すぎることだ。

会社しか知らない。
会社以外で金を稼いだことがない。
会社の肩書が消えた瞬間、自分の価値がなくなる気がする。

そうやって、人は少しずつ会社という檻から出られなくなる。

もちろん、独立することだけが正義だとは思わない。フリーランスにも不安定さはあるし、自由には自己責任が伴う。個人より会社で活躍できる人もたくさんいる。だが、会社だけに人生を依存することもまた、大きなリスクなのだろう。

いま、わたしたちは、その苦しい葛藤の時代にいるのかもしれない。鎌倉末期の御家人たちのように。

つづく