見出し画像

「ケチのつけようがない事業計画」が負けた話



大学の授業でメルカリの事例を扱った回があって、その内容がずっと頭に残っている。

正直に言うと、メルカリの成功譚そのものにはあまり驚かなかった。5年で上場、時価総額7,100億円、IPOでの調達額600億円。数字としては知っていたし、「すごい会社ですね」で終わる話でもある。

刺さったのは、負けた側の話だった。


1. 完璧なプランが、雑なプランに負けた

メルカリが創業したのは2013年。その翌年の2014年時点で、日本国内には同じようなフリマアプリのプレイヤーが13社ほど立ち上がっていたそうだ。市場は乱立して飽和していた。

それが4年後には3社しか残っていない。77%が市場から消えた。

その中に、フリルという会社があった。授業で紹介されたフリルの戦略はこうだ。

  • ターゲットは若い女性に限定する

  • 会社にお金がないので、広告は打たない。読者モデルの口コミ・ブログ経由で広げる

  • 手数料は最初から10%取る。収益を確保しながら堅実にやる

これを聞いたとき、自分は「え、普通に良くない?」と思った。

ターゲットが明確で、身の丈に合ったマーケティングで、ちゃんと収益モデルがある。もし自分がこのプランを事業計画書として出されたら、ケチのつけどころが見つからない。むしろ「よく考えられていますね」と言うと思う。

一方のメルカリはどうだったか。

  • ターゲットは絞らない。包括的なサービスにする

  • 手数料は初期は無料。お金を取ったら人が入ってこないから

  • 外部から資金調達して、テレビCMを大量に打つ

事業計画としては、正直こっちの方が粗い。「ターゲットは?」「全員です」「収益は?」「当面ゼロです」。普通なら詰められる。

でも勝ったのはメルカリだった。

ここで自分が反省したのは、「良い事業計画」と「勝つ事業計画」は別物だということに、それまで気づいていなかったことだ。自分はずっと、指摘されないプランを作ろうとしていた。粗を潰して、聞かれたことに全部答えられる状態にすることが、良いプランを作ることだと思っていた。

でも、市場の構造によっては、「堅実にやる」こと自体が敗因になる


2. なぜ堅実さが敗因になるのか

授業では、その理由をプラットフォーム型ビジネスの構造から説明していた。

プラットフォームというのは、AさんとBさんを繋いで、取引が成立したときに手数料をもらうビジネスだ。メルカリなら出品者と購入者。手数料は取引1回あたり10%程度しかない。

つまり、売上を大きくするには取引の絶対数を爆発的に増やすしかない。

そしてここが厄介なところで、出品者が増えないと買う人は増えないし、買う人が増えないと出品者も増えない。ニワトリと卵になる。両方を同時に、しかも一気に増やさないといけない。

さらに、こういう市場にはネットワーク効果が働く。利用者が多い場所ほどサービスの価値が上がるので、みんな大きい方に集まる。結果として勝者総取りになる。日本国内に13社立ち上がっても、残るのは1社か2社、という構造。

この構造の中で「堅実に10%取りながら少しずつ育てる」を選ぶと何が起きるか。少しずつ育てている間に、爆発的に育った誰かに市場ごと持っていかれる。堅実さが、そのまま遅さになる。

そして立ち上げ期には死の谷がある。プラットフォームを作る段階では支出だけが発生して収入はゼロ。初期は手数料も無料にするから、その後もしばらく収入はほぼゼロ。この期間を資金で殴りきれないと、構造上どうやっても勝てない。

「小さく始めて堅実に育てる」という、他のビジネスなら美徳になる進め方が、この市場では通用しない。**戦い方は自分の性格ではなく、市場の構造が決める。**これが一番大きな気づきだった。


3. 山田さんが教育アプリを捨てた理由

もうひとつ印象に残ったのが、そもそもの事業選択の話だ。

メルカリ創業者の山田さんは、スマホが普及し始めたタイミングで5〜6個のアイデアを持っていたらしい。その中には教育アプリもあった。最終的にフリマアプリを選んだ。

授業で「なぜだと思いますか」と聞かれて、教室からは「フリマの方が対象年齢が広いから」「面倒でやっていないだけの潜在顧客がいるから」という答えが出た。どちらもその通りで、実際に潜在市場の大きさが判断材料だったそうだ。

ただ、自分が唸ったのはもうひとつの理由の方だった。

教育アプリは、お金を払う人と使う人が違う。

使うのは子ども、払うのは親。だから売るために2方向にアプローチしないといけないし、市場規模が親の所得に依存する。さらに日本の場合、子どもの数は減っていく。

言われてみれば当たり前なのに、自分はこの視点を持っていなかった。事業を考えるとき、「誰が使うか」はいつも考える。でも「誰が財布を出すか」「その二つは同じ人か」を最初に確認する習慣はなかった。

この2つがズレている市場は、構造的に重い。ズレていること自体が悪いわけではないけれど、少なくともそれは難易度の設定であって、後から気合いで解決できるものではない。アイデアを比較する段階で見ておくべきことだった。


4. 人が集まった理由は、アイデアではなかった

創業チームの作り方の話も面白かった。

山田さんは戦略的に人を集めていて、事業経験のある知人、弁護士、投資経験のある人を社外取締役に、といった具合に、必要な機能から逆算して声をかけている。財務面では、証券会社でネット企業のIPOを担当し、CFO経験もある人物を最初から迎え入れていた。あとで大型調達をする前提で、先に人を置いていたわけだ。

ここまでは「できすぎた事例」として聞いていた。過去に会社を売却した実績がある人だから集められたのであって、真似できる話ではない。

でも、共同創業者2人の反応が対照的だったという話には引っかかるものがあった。

1人は、もともと個人間取引に興味があって「この市場は立ち上がるんじゃないか」と乗った。中身の詳細はわからないけれど、いけると思った、と。

もう1人は違った。**フリマ自体にはピンと来ていなかった。**それでも参加した理由は、「このメンバーがやるなら、アイデアがダメでも何とかなるだろう」。

つまり、事業内容に説得されて来たわけではない。人に賭けている。

自分はこれまで、人を巻き込むことを「アイデアの説明がうまくいくかどうか」の問題だと思っていた。企画が魅力的なら人は来る、来ないのは説明が下手だからだ、と。

でも実際に人が動く理由は、「この人たちなら何かやるだろう」という期待感の方だったりする。そしてその期待感は、プレゼンの巧拙ではなく、それまでに何をやってきたかの蓄積から生まれる。

これは、耳が痛い話だ。今すぐ何とかできるものではないから。ただ、逆に言えば今やっていることが数年後の巻き込み力になるということでもあって、そう考えると今の地味な作業の意味づけが少し変わる。


5. 借入か出資か、は好みの問題ではない

授業の前半では、日銀の金利政策の話をしていた。物価が上がりすぎているから日銀は金利を上げたい。金利が上がると企業は銀行から借りにくくなる。設備投資が抑制されて、経済活動が冷えて、結果的に物価が下がる。そういうリンクの話だ。

後半のメルカリの資金調達の話と、ここが繋がって聞こえた。

金利が5%から10%になったら、経営者は「銀行から借りるのはやめておこうかな」と考える。じゃあ株式で調達するか、となる。返済義務がないし、金利も付かない。ビジネスプランで「株式で資金調達します」と書く人が非常に多い、というのは実感としてもわかる。

でも、と授業では続く。

出資で調達するということは、経営権の一部を手放すということだ。

会社の株を100株持っているとして、51株を他人に持たれたら、意思決定権はその人に移る。自分の会社なのに、「本当にそのビジネスやるの?」と言われる状況が生まれる。返済しなくていいお金には、そういう値札が付いている。

だから、余裕があるなら借入の方がいい。利息さえ払って返していけば、口は出されない。実際、経営が安定している会社ほど借入を選ぶ。株式での調達を目指すのは、どちらかというと銀行から借りられない側だ、という話も出た。

この整理は自分にとってかなり重要だった。というのも、**「調達方法は事業の形が決める」**という結論になるからだ。

  • 大規模な資金投下がないと勝てない構造のビジネス(=プラットフォーム型など)なら、外部調達は必須。死の谷を自己資金で越えられないから

  • コツコツ収益を上げて自分のペースで大きくしていくビジネスなら、外部調達はそもそも要らない

メルカリはシードで5,000万円、その1ヶ月後にシリーズAで3億円、その後14億円、23億円と調達している。1年で37億円。それを使ってテレビCMを打ち、認知を一気に取りにいった。あの市場でやるなら、それしか勝ち筋がなかった。

逆に言えば、そうでない事業をやるなら、資金調達は目的ではない。ここを取り違えると、要らない苦労を背負い込むことになる。

ちなみに、そのメルカリでさえ14億円の調達は難航したらしい。「勝者総取りのプラットフォームは本当にうまくいくのか」と信用されず、なかなか集まらなかった。1社のVCが出資を決めたことが呼び水になって、そこから一気に集まった。

うまくいった事例として語られる話にも、詰まっていた時期がちゃんとある。そこが妙に励みになった。


おわりに

この授業で扱われた事例は、日本でも稀な成功例で、そのまま真似できるものではない。授業でも何度も「できすぎた事例なので」と念押しされていた。

それでも持ち帰れたことを整理すると、こうなる。

  • 良い事業計画と、勝つ事業計画は違う。市場の構造が戦い方を決める

  • アイデアを比べる段階で、使う人と払う人が同じかどうかを見る

  • 人はアイデアではなく、期待感に集まる。それは今日までの蓄積で決まる

  • 資金調達は手段であって目的ではない。事業の形が調達方法を決める

特に1つ目が効いた。自分は「隙のない計画」を作ることに時間を使いすぎていた気がする。隙をなくす作業と、勝ちにいく作業は、同じではなかった。

まずは自分がやろうとしていることが、そもそもどういう構造の市場なのかを書き出すところからやり直してみようと思う。

いいなと思ったら応援しよう!