シェーグレン症候群、名前変わるかも【内科論文この一本 no.6】
「内科論文この一本」のマガジンでは最近投稿された論文の中で、内科医なら必読なものを紹介していきます!
今回はシェーグレン症候群。目や唾液腺の乾燥と抗SS-A抗体を主体として、さまざまな臓器障害を呈しうる膠原病です。
実はこの「シェーグレン症候群」という呼び方は国際的には変更されたことをご存知でしょうか?
2026年7月現在、本邦の指定難病の呼び方は変わっていませんが、今後は国際標準に合わせていくものと思われます。
すでに、日本シェーグレン症候群学会や、日本リウマチ学会は、それぞれ、シェーグレン病という用語を使用することにしています(2025年から)。
どのように変わったのか、なぜ変わったのか、ここでは名前が変更される契機となった2023年の論文を見ていきましょう!
2023 International Rome consensus for the nomenclature of Sjögren disease
Ramos-Casals M, Baer AN, et al. Nat Rev Rheumatol. 2025;21:426–437.
背景
「シェーグレン症候群」という呼び方は、実はかなり長い歴史があります。
1933年に、スウェーデンの眼科医Henrik Sjögrenが初めて包括的に乾燥症状を伴う疾患についてまとめ、1936年にVon Grószがこの功績を称えて「シェーグレン症候群(Sjögren症候群)」と名付けました。
その後1979年に、本論文の共著者でもあるMoutsopoulosらが、他の膠原病(全身性エリテマトーデス・関節リウマチなど)を伴うものを「secondary(二次性)」、伴わないものを「primary(一次性)」という区別を提唱し、以降はこの分類が使用されてきました。
これは乾燥症状を呈する患者を「単独で発症している群」と「RAに合併している群」に分けて、両者の臨床的・血清学的・遺伝的特徴を比較すると、差を認めたという論文に基づき、当時は背景疾患の合併の有無で病態が本質的に異なると考えられていたという背景があります。
ところが近年、この定義や区別に問題が生じてきます。
「症候群(syndrome)」という用語が不適切なのではないか
「症候群」という用語は「疾患の集合」を指し、様々な疾患を集合させた曖昧な疾患という印象があるとされました。実際、2019年から米国のSjögren's Foundation(患者会)はこの言葉の使用を中止しました。
シェーグレン症候群は、特徴的な自己抗体・腺組織の病理像・特有の全身臓器障害パターンを持つ、確立した自己免疫疾患であり、「症候群」という呼称は不適切と考えられました。
primary/secondaryの区別は妥当なのか?
他の膠原病(SLEやRAなど)が別の膠原病と合併しても、いちいち「二次性SLE」と呼称することはありませんが、シェーグレンだけこの区別をする意義はないのではないかという議論がありました。
secondaryとは、ある疾患から派生したような印象があり、それはシェーグレン症候群の病因からは不適切な表現とも考えられました。
そこで、米国と欧州でそれぞれ動いていた命名法プロジェクトが合流し、2022年にローマで開催された国際シンポジウム(ISSS)を舞台に、国際タスクフォースが立ち上がりました。そこで「シェーグレン症候群」という名前について議論することになります。
名称の決定方法について
単なる「偉い先生たちの鶴の一声」ではなく、以下の3つのアプローチの組み合わせで決定されました。
① 文献計量分析(bibliometric analysis)
言語学の専門家を動員し、「実際の文献でどの呼び方がどれくらい使われているか」を調べました。PubMed、Web上のニュース・百科事典などを解析しました。
② システマティックレビュー(SLR)
今までに行われてきたシェーグレン症候群の一次性・二次性の区別が必要かどうかを判断するために、シェーグレンが他の膠原病に合併すると、疾患の表現型はどう変わるのかを、55の研究・1,931例で検証しました。
③ デルファイ法(Delphi process)
①名前を変更するかどうか、②一次性・二次性の区別を残すかどうかについて、専門家パネルの合意形成に使われる古典的手法であるデルファイ法を用いて、今回は専門家79名+患者1,431名(34か国・日本含む)が参加しました。
ここが最大のポイントで、患者さんも同様に含んだ点が特徴です。名称は患者さんにとっても切実な問題であるからです。ちなみに製薬企業の関与は全工程で一切許可されませんでした。
① 文献計量分析(bibliometric analysis)
各文献上での割合
PubMed・・・「Sjögren syndrome」とその表記ゆれで全体の約75%
86,909件の医学抄録のn-gram解析 ・・・「Sjögren syndrome」が97.8%、「Sjögren disease」は1%
所有格の「Sjögren's」の使用は1993–1997年の82%から2018–2022年には70%へと減少。
「secondary Sjögren」という表現も、年々使われなくなってきているという傾向がありました。
② システマティックレビュー(SLR)
まず、シェーグレン症候群が合併する疾患として以下がありました
炎症性筋疾患(筋炎)34.3%
脊椎関節炎(SpA)18.0%
全身性強皮症(SSc)14.7%
全身性エリテマトーデス(SLE)14.7%
関節リウマチ(RA)9.8%
サルコイドーシス1.7%
また、いわゆる二次性Sjögren症候群では、合併する疾患によって、大きく表現型が異なることが分かりました。
男女比
いわゆる一次性シェーグレンは女性が93.4%
AAV・SSc・SpA・サルコイドーシス合併例では女性の割合が明らかに低い。
診断時年齢
AAV合併では52歳→62歳と高齢化
SLE合併では45歳未満と若年化。
腺症状の頻度・免疫学的プロファイル(抗SS-A/SS-B、低補体、RF)も、単独例とはかなり異なっていました。
即ち「二次性」シェーグレン症候群と「一次性」シェーグレン症候群を、同一の疾患として扱うと、研究上問題が生じると考えられます。
③ デルファイ法(Delphi process)
名前について(Round 1:個々の単語)
「Sjögren」という名称を残すこと
タスクフォースの88%が賛成。患者も5点満点で平均4.35と高評価でした。
「syndrome」を残すこと
賛成はわずか31%。患者に至っては平均1.87と低評価でした。
「syndrome」を「disease」に変えること
53%が賛成、患者も平均4.23でした。
名前について(Round 2:5つの候補から選ぶ)
第2ラウンドでは5つの候補案を比較しました。
Sjögren disease(略語SjD) → 専門家の63%が支持、患者は77%が支持
S.J.Ö.G.R.E.N.(頭字語案) → 28%
Sjögren syndrome(現状維持) → 22%
Sjögren autoimmune epithelitis → 12%
Sjögren autoimmune exocrinopathy → 5%
専門家+患者を合わせると70%が「Sjögren disease」を支持しました。
primary / secondary について
「primary」を残すか → 残す44% vs 残さない41%と意見が割れました。
「secondary」を残すか → 73%が「残さない」に賛成。代替語としては75%が「associated(関連性)」を支持しました。
「他の膠原病では primary/secondary と区別しないのに、シェーグレンだけ区別する理由はない」という点には、専門家76%・患者79%が同意。
ただし「研究や臨床の場面では区別する意味がある」という声も根強く、専門家82%・患者55%がその重要性を認めていました。
患者側からは「secondary(二次性)やassociatedと呼ばれると、自分のシェーグレンが「おまけ扱い」されているように感じる」という意見も出たそうです。これは個人的には日々臨床をやっていても、なかなか気づくことがない視点でした。
結論
最終的にまとまった推奨がこちらです。
「Sjögren syndrome」→「Sjögren disease」に変更する
略語は「SjD」を使う
SS・SDなども候補に挙がりましたが、他の用語との被りが非常に多いため、SjDとされました。
他の膠原病を合併する場合、「secondary」ではなく「associated」を使う
日常診療・臨床診断では、primary/associated を区別せず単に「Sjögren disease」と呼ぶ。ただし他疾患合併の存在は臨床評価・意思決定において意味を持ちうる
研究(scientific study)では、primary と associated を区別する(均質な集団を定義するため)
所有格か否か(Sjögren's か Sjögren か)、綴り(o, oe, ö)は個人・雑誌の裁量に任せる
本論文を読んで
普段何気なく使用している疾患の用語ですが、定義を見直すことで、改めてその疾患を学び直すことに繋がりますね。
膠原病という、疾患の定義が特に難しい領域で、患者と専門家が共に名称再定義したというプロセスそのものに大きな意義があると感じます。
本邦の指定難病ではまだ「シェーグレン症候群」の呼称が使用されていますが、国際誌では既に「Sjögren disease(SjD)」への移行が進んでいます。学会発表や論文投稿の際、そして海外文献を読むときには、この呼称の変化を知っておくことは重要です。
ちなみに、成人スチル病も、成人発症Still病とsJIAを統合して、スチル病へと名前が変更される論文が出ており、それは今後扱う予定です。
2026/07/15 一部記述を修正しました

