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ブリューゲルの絵に見る諺の世界

ブリューゲル研究の第一人者である森洋子さんの『ブリューゲルの世界』(新潮社 2017年)を興味深く読んだ。16世紀のフランドルの画家ピーテル・ブリューゲルの作品41点を取り上げ、その画業と生涯を解説している。

私はブリューゲルの作品が子どもの頃から好きだった。特にひとつの画面に多くの人物を配置した絵が好きで、超細密画技法で描かれた人々の日常をいつまでも飽きることなく眺めていた。

「ネーデルランドの諺」と題された作品もそのひとつだ。農村を舞台にしたこの絵には当時のネーデルランド(オランダ)に伝わる諺や格言が描かれている。村には広場や畑、川、海岸、農家、納屋、城塞、絞首台など様々なものが描かれ、その中に農民はじめ貴族、騎士、商人、修道士、職人、主婦などが100人以上が登場する。

森洋子著『ブリューゲルの世界』から引用((以下同じ) 

絵に描かれた諺の例

森さんは絵の中の85の諺について解説している。たとえば、代表的な例としてよく挙げられるのが、画面中央の女性が夫に青いマントを着せている場面であり、「夫に青いマントを着せる」という諺を表している。青が「裏切り」や「欺瞞」を象徴する色であることから、妻が夫を裏切るという意味だそうだ。

「夫に青いマントを着せる」

その場面から少し左に目を移すと、頭を壁にぶつけている男が描かれている。これは「頭を壁にぶつける」という諺を表し、不可解なことを遂行しようとしながら成功しないことを意味するのだという。

「頭を壁にぶつける」


さらに、画面右下で両手を広げて2つのパンに手を伸ばしている男の絵は「パンからパンに届くすべを知らない」という諺で、今日のパン買えても、明日の暮らしはわからないという意味だそうだ。

「パンからパンに届くすべを知らない」

ブリューゲルの絵の諺と江戸時代の諺

同書で森さんはブリューゲルが描いた諺と、江戸時代の絵に描かれた諺の類似性も指摘している。たとえば、画面左下の主婦に殴打されて抵抗できない悪魔を描いた場面は、恐妻を風刺する諺「悪魔をクッションの上でしばる女」を表しているが、これを江戸時代に歌川芳梅によって描かれた大きな妻が夫に馬乗りになって折檻している「蚤の夫婦」や、河鍋暁斎(以前は狂斎)が描いた「亭主を尻に敷く」などと対比させている。ルネサンス期のネーデルランドの諺と江戸時代の日本の諺を対比させるというのはきわめて斬新で興味深い。

「悪魔をクッションの上でしばる女」
「蚤の夫婦」

森さんはこの3月に中央公論美術出版から『ブリューゲルの”劇場”』という新たな本を上梓しておられる。今度はどのような視点で読み解かれているのか興味がある。近いうちに読んでみたい。


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