【短編小説】 カイピリーニャの海
サンダルで、海に続く坂道を駆け下りた。
「急げ〜」
ユミが笑う。
ホルターネックのワンピース。
白い素肌を、連日の陽射しが赤く染めている。
生ざらしの素肌に、小さな汗の粒が光っていた。
太陽は眩しくて、空は痛いくらいの青だ。
◆
脱げそうなサンダルが、覚束無い。
「急ぐぞ〜」
ケンジが笑う。
この街で買ったアロハシャツ。
陽気なヤシの柄が、すこし浮いている。
アロハの下から覗く上腕は白く、
肘下の赤黒い日焼けとは、
鮮やかなコントラスト。
薄いうぶ毛が、光に反射している。
太陽は眩し過ぎて、
空はもう、痛いくらいの白だった。
◆
リオ・デ・ジャネイロ。
コパカバーナのビーチ。
世界でいちばん陽気なビーチで、
世界でいちばん笑い合う。
いま、この瞬間が何色に見えるかな。
◆
頼んだカイピリーニャを手に、
僕たちはビーチで肌を焼く。
口に含むと、ライムの香りと蒸留酒の味わいが広がる。
スッキリした酩酊。
くらくらと溶けていく。
最高に、ご機嫌じゃないか。
◆
カイピリーニャは、あたしの頭を覚醒させる。
ライムの香り。
隣あって寝そべって、
ケンジの笑い顔を見る。
あ、あんなところにホクロあったっけ?
まるで初めて会った人みたい。
あたしはまじまじと、ケンジを見つめる。
酔いが覚めていく。
最高に、ご機嫌になれたら。
◆
出発前。
洗面台の下、棚の奥。
見覚えのない化粧水が、静かに光る。
波のような、透明な液体がチャプン。
◆
ザザン、ザザン……。
風に煽られ、寄せては返す、リオの海。
太陽は痛いくらい眩しいけれど、
見える色は同じ色?
「最高に、ご機嫌だな」
「最高に、ご機嫌だね」
甘くてスッキリしたライム酒の、
グラスの氷が、静かに溶ける。
僕たち、あたしたち。
寄せては返す波音が、
ボサノヴァと共に、海に消えていく。
了

◆シロクマ文芸部
◆お題「サンダルで」
