酸欠で人はなぜ一瞬で倒れるのか──肺から脳までの時間差と「実は人は酸素で呼吸していない」という事実
今日の昼は20℃にまで達しました。朝が寒かったので余計に温かく感じられて、ちょっと嬉しく思いました。
さて、……。
はじめに
密閉空間で起きる酸欠事故。たまに新聞に載ったりするが、酸欠事故では、人がほとんど苦しまずに倒れることがある。肺から脳へ酸素が届くには血流の時間差があるはずなのに、なぜ人は一瞬で意識を失うのだろうか。
この疑問をたどっていくと、人体の呼吸についての意外な事実に行き着く。実は人は、思っているほど「酸素で呼吸している」わけではないのである。
人がすぐ気を失うのはなぜなのか。肺と脳の関係から考えてみたい。
① 脳は酸素を「貯めておけない」臓器である
まず前提として知っておくべきこと。それは、脳が酸素不足に極端に弱い臓器であるという事実。
脳の重さは体重の約2%にすぎない。しかし酸素消費量は身体全体の約20%に達する。つまり脳は、常に大量の酸素を必要とする装置である。
さらに重要なのは、脳は酸素を貯蔵できないこと。筋肉などは多少の酸素不足でも耐えられる。しかし脳は違う。供給が止まると、すぐにエネルギー不足になる。脳に直結している神経も、短時間で活動が止まる。
このため酸素供給が止まると、人は数秒で意識を失うことがある。
② 酸素は血液の「在庫」で運ばれている
ここで疑問が生まれる。肺から脳まで酸素が届くためには、血液の流れが必要。それならば多少の時間差があるはずである。
実際、その通りで、血液が体内を一周するには約1分ほどかかる。肺から脳までも数秒の時間が掛かる。
では、人はなぜ酸欠空気ですぐ倒れるのか。
理由は単純。血液の中の酸素そのものが急速に減るからである。血液は酸素をヘモグロビンという分子に結びつけて運んでいる。正常な空気ではこのヘモグロビンが酸素で満たされている。
しかし、酸素が少ない空気を吸うと状況は変わる。肺で血液に補充される酸素がほとんどなくなる。すると血液の酸素濃度は急速に低下する。
つまり脳に届く血液そのものが。すでに酸素不足の状態になる。
③身体が酸欠を知るセンサー
ここで、意外な事実が一つある。私たちの身体には、血液の状態を監視するセンサーがあるが、酸素を基準にはしていないということ。
主なセンサーは次の二つ。
(1) 頸動脈小体(けいどうみゃくしょうたい)
首の動脈にあるセンサー。
(2) 延髄の呼吸中枢
脳幹にある呼吸コントロール装置。
これらが常に血液をチェックしている。但しこれらのセンサーは、実は「酸素」より「二酸化炭素」を見ている。言い換えると、酸素濃度を見ていない。
私も含めて多くの人は、全力疾走した後の息苦しさなどから「酸素が減ると苦しくなる」と思っている。しかし体の反応は少し違う。
「苦しい」ので呼吸を増やしたいと感じる主な原因は、二酸化炭素が増えること。
理由は単純。これらのセンサーは
二酸化炭素が増える
↓
血液が酸性になる
↓
これは危険
↓
呼吸を増やす
という仕組みで構成されているから。
つまり体は、CO₂センサーで呼吸を調整しているのである。
④ 体は「強制シャットダウン」を起こす
さらにもう一つ重要な点がある。人が気を失うのは単なる「故障」ではない。ある意味では安全装置でもある。
脳が酸素不足になると
視界が狭くなる
判断力が落ちる
めまいが起きる
そして最終的に意識を失う。これは、体がエネルギー消費を抑えるための反応。意識があると脳は多くの酸素を使う。体を動かせばさらに消費は増える。そこで体は「強制停止」を起こす。
意識を落とし活動を止めることで、残った酸素を生命維持に回すのである。
⑤ 酸欠事故が怖い理由
酸欠事故が恐ろしいのは、苦しさを感じない場合があること。酸欠の原因は二酸化炭素ではなく酸素不足であることは間違いない。
でも、たとえば
窒素が多い空気
酸素が薄い空気
の場合、二酸化炭素は増えない。
つまり、呼吸センサーが働きにくい。その結果
苦しくない
気づかない
突然倒れる
ということが起きる。
工場のタンクで酸欠事故が起きる理由はこれ。先に述べたセンサーが二酸化炭素を基準としているためである。
窒素が多いだけで二酸化炭素が少ない状態では、体内のセンサーが反応せず、気づかないうちに
判断力低下
ふらつき
失神
という反応がおこり、倒れてしまう。密閉空間やタンクで事故が起きるのは、このためである。
まとめ
肺から脳に酸素が届くには血流の時間がある。それでも人がすぐ気を失うのには理由がある。血液の酸素そのものが急速に減り、酸素に弱い脳が先に機能を止めるのである。
人間の体は実に精密。そして意識というものは、思ったよりも脆いのである。
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