「私、昔はすごかったのよ」――ちえちゃんの威嚇 【友人夫婦編・第6話】
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ちえちゃんは、ショートカットがよく似合う、ボーイッシュでサバサバとした女性でした。
スカートを穿いた姿なんて一度も見たことがないほど活動的で、とにかく面倒見が良い。
集まりの時には、いつも美味しい手料理をたくさん振る舞ってくれる、そんな頼れるお姉さんでした。
対する旦那さんは、口数が少なく、いつも物静かな人。
そんなちえちゃんの「強烈な本性」を私が初めて知ったのは、まだ私がスナックでアルバイトをしていた頃のことです。
ある夜、私はお店の常連だったちえちゃんの旦那さんを、成り行きで家まで車で送ることになりました。
ところが、ちえちゃんはその様子をしっかりと目撃していたのです。
翌日、ちえちゃんは1人でふらりとお客さんのいない時間のお店にやってきました。そして、カウンターの中に立っている私の目の前に、無言で数枚の写真を「バサッ」と投げつけてきたのです。
覗き込んでみると、そこに写っていたのは、ちえちゃんが若い頃にかなり「やんちゃ」をしていた時代の姿でした。
「私、昔はすごかったのよ」
不敵な笑みを浮かべるちえちゃんを前に、当時の私はただただ「???」とポカーンとするしかありませんでした。
今にして思えば、あれは「私の旦那に手を出したら、どうなるか分かってるよね?」という、彼女なりのユーモアを交えた、最高に強烈な先制マウンティング(威嚇)だったのです。
後になってその意図に気づいた私は、思わずクスッと笑ってしまいました。
そんな2人の馴れ初めは、当時、飲食店で働いていたちえちゃんに旦那さんが一目惚れしたことから始まったそうです。
旦那さんはお店に毎日通いつめ、猛烈なアタックの末に彼女を口説き落としたのだとか。かつてはそれほど、ちえちゃんに首ったけの旦那さんだったのです。
年の離れた私たち夫婦のことも、ちえちゃんはよく気にかけてくれていました。
「あんたたちの結婚、おままごとみたいですぐ別れると思ってたけど、頑張ってるじゃん。ひろこちゃんは、見えてる以上に芯が通ってるのね」
ぶっきらぼうだけど温かい、ちえちゃんらしい褒め言葉が嬉しかったのを覚えています。
ちえちゃんには、2人の男の子がいました。
私がちょうど2人目の子どもを出産したばかりの頃、ちえちゃんがふと、私に胸の内をこぼしたことがありました。
少し寂しそうな顔をしたあと、ちえちゃんは、とんでもない計画を口にしました。
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「だから私ね、コンドームに穴をあけるつもり。絶対に妊娠してやるわ!」
私は驚いて言葉を失いました。でも、ちえちゃんの言葉は本気でした。
「それでね、ひろこちゃん。前に着てたマタニティドレス、私にちょうだい」
「ええっ!? 私が着ていたお古で構わないんですか?」
「ええ、それがいいの。ひろこちゃんのにあやかりたいのよ」
「それなら……喜んで!」
いつもズボン姿でサバサバしているちえちゃんが、そこまでして「もう一度、旦那さんに自分をちゃんと見てほしい」と願っている。その執念の裏にある女としての健気さがいじらしくて、私はドレスを快く手渡しました。
その後、本当に有言実行で、見事に念願の女の子を産み落としたちえちゃんは、やはりただ者ではない凄まじい強者でした。
――ですが、そんな風に強い執念で繋ぎ止めた夫婦の絆にも、試練の時は訪れます。
あんなに望んで生まれた娘が中学生になった頃、旦那さんに、なんと「3年間にわたり、密かにお付き合いをしていた女性」がいることが発覚したのです。
いつも強気なお姉さんが、自分の裏切りの前で、声を上げずに涙を堪えている。
その静かな痛みの姿に、旦那さんは心底の罪悪感を覚え、自らの過ちを激しく悔いて改心し、「もう一度やり直させてくれ」と約束してくれたのだそうです。
それからさらに月日は流れ、2年前、旦那さんは心臓を悪くされました。現在のちえちゃんは、体調を崩した旦那さんの体を誰よりも気遣いながら、今も夫婦仲良く、2人で穏やかな日々を暮らしています。
雀卓を囲んでいた個性豊かな4組の夫婦たち。その結末をすべて見届けて、私は思いました。
「愛は、永遠ではないんだな」と。
どんなに猛烈に愛されて結婚しても、どんなに執念で引き留めても、人の心はいつか移り変わり、つまづく日もやってくる。
たくさんの夫婦を見ていると、そう思わずにはいられないのです。
愛は永遠ではない。けれど、また何かをきっかけにして、一からスタートすれば、そこからしばらくは愛が続いていく。そして、また生きていく途中で何かにつまづいたら、その都度、2人でやり直せばいい。
壊れて消えていった夫婦もいれば、他人の財産を奪い取った女もいる。
けれど、ちえちゃんのように、傷つきながらも新しく愛をはじめ直して、今も隣で笑い合っている夫婦もいる。
これだから、男と女の人生は、切なくて、強烈で、面白い。
雀卓の煙の中に消えていった、あの頃の夫婦たちのまぶしい光景を思い返しながら、私は今日も、自分の人生の愛おしい毎日を、自分の手で新しくはじめ直している。
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サポート本当にありがとう!結婚36年、夫に働くのを止められ自分の物も買えなかった私が、夜中に18歳ワンコの介護をしながら紡いだ言葉で初めて自力で稼げました。頂いたお祝いは、大切な家族とワンコの介護費に充てさせて頂きます。私と同じように戦うあなたを応援しています!ひろこ