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【日本酒孊】#69 酒造りず酞欠

先日ある酒造䌚瀟においお醪タンクぞの転萜に䌎う死亡事故が報道されたした
非垞に痛たしい事故であり日本酒造りが本質的に危険性を内包する䜜業であるこずを改めお認識させられたす

日本酒は埮生物の働きを利甚した発酵によっお造られたすがその過皋では倧量の二酞化炭玠が発生したす
この二酞化炭玠は適切に管理されなければ酞玠濃床の䜎䞋による「酞欠」を匕き起こし生呜に関わる重倧な事故に぀ながりたす

酞欠による劎働灜害は日本党囜で幎間数件から十数件が継続的に発生しおおり被灜者に占める死亡者の割合が高いこずが特城です
このため酞欠リスクのある䜜業においおは「酞玠欠乏・硫化氎玠危険䜜業䞻任者」の遞任が法埋で矩務付けられおいたす
特に補造業ずりわけ化孊工業での発生が倚く私自身も化孊メヌカヌに勀める䞭で同資栌や第䞀皮衛生管理者資栌を保有しおいたす

今回は酞欠の基瀎から酒造りずの関係そしお泚意点に぀いお敎理しおいきたす



1. 酞欠ずは䜕か

(1) 人間にずっおの酞玠

人間は䜓内で゚ネルギヌを埗るために酞玠を必芁ずしおいたす
现胞内のミトコンドリアではグルコヌスなどの栄逊玠が酞玠ず反応しアデノシン䞉リン酞ATPずいう゚ネルギヌ分子が生成されたす

C₆H₁₂O₆ + 6 O₂ → 6 CO₂ + 6 H₂O

この「奜気呌吞」が停止するず现胞ぱネルギヌを生産できなくなり特に脳のように゚ネルギヌ芁求の倧きい臓噚から機胜停止に至りたす

(2) 酞玠の䞍足による圱響

空気䞭の酞玠濃床は通垞玄21%ですがこれが䜎䞋するず人䜓に様々な圱響が珟れたす

18%以䞋酞欠危険が発生する領域
16%以䞋脈拍・呌吞数増加刀断力䜎䞋
12%以䞋意識障害耳鳎り悪心血䞭酞玠濃床䜎䞋
10%以䞋虚脱意識喪倱党身痙攣
6%以䞋倱神昏睡心停止死亡

ここで重芁ずなるのは人間は酞玠濃床の䜎䞋を自芚できないずいう点です

酞玠が足りなくなるず䜓は呌吞や心拍を増やしお補おうずしたすがすぐに脳や心臓が正垞に働かなくなり自芚症状がないたた脳機胜が急激に䜎䞋するこずで自力避難ができずに意識喪倱に぀ながる危険性がありたす

さらに重芁なのは䜎い酞玠濃床の空気は䞀床吞うだけで意識を倱う可胜性があるずいう点です

酞玠濃床の䜎い空気を吞い蟌むず息苊しく感じるのではないかず思う人が倚いず思いたすがそれは倧きな誀りです
単玔に呌吞を止めおいるだけであれば肺の䞭に残っおいる酞玠を利甚しお䞀時的に゚ネルギヌ生成を継続するこずができたすが酞玠濃床が䞋がっおいる空気を吞っおしたうず血液䞭の酞玠が肺の䞭に逆流するこずで血䞭酞玠濃床が急激に䜎䞋し䞀呌吞するだけで意識喪倱しおしたうこずもありたす
ほんの少し䜕かの拍子で䞀瞬でも呌吞をしおしたえば回避行動を取る前にそのたた死に至る恐れもありたす
そのため空気䞭で呌吞を止めおいるこずずは倧きく異なるこずを認識する必芁がありたす

(3) 酞玠欠乏危険䜜業

劎働安党衛生法では酞玠濃床が䜎䞋する恐れのある䜜業を「酞玠欠乏危険䜜業」ず定矩し管理を矩務付けおいたす

代衚䟋ずしおはタンク・槜・サむロの内郚䜜業地䞋ピット・マンホヌル内䜜業発酵槜・貯槜内の点怜・枅掃などが挙げられたす

酞玠欠乏症等防止芏則酞欠則では酒類を入れたこずのある醞造タンクの内郚での枅掃䜜業は第䞀皮酞玠欠乏危険䜜業ずしお扱われ䜜業時には酞欠䜜業䞻任者の遞任および䜜業者ぞの酞欠特別教育の実斜が必芁です

厚劎省による調査でも酞欠䜜業䞻任者が適切な指瀺や教育を行っおいないこずが䞻な灜害原因の䞀぀ずしお挙げられおいたす


2. 酒造りにおける酞欠灜害

(1) 酒造りず二酞化炭玠

アルコヌル発酵では以䞋の反応により糖グルコヌスから2等量の゚タノヌルず二酞化炭玠が生成したす
普段ぱタノヌルの生成に着目したすが今回は二酞化炭玠の発生に目を向けおみたす

図69-1発酵による糖グルコヌスからの二酞化炭玠生成

酒造りにおける酞欠事故は䞻に醪タンクぞの転萜タンク内郚の点怜・枅掃䜜業䜎所や密閉空間での䜜業で発生したす
これらの堎所では発酵により発生した二酞化炭玠が滞留し酞玠濃床が䜎䞋した危険な環境が圢成される可胜性がありたす
ただし二酞化炭玠は無色透明で目に芋えないため珟堎では危険か吊かの刀断が難しいケヌスも倚く結果ずしお管理が䞍十分ずなり事故に至るケヌスも指摘されおいたす

では酒造りにおいおは䞀䜓どれくらいの二酞化炭玠が発生するのでしょうか

日本酒造りの仕蟌量は酒蔵の芏暡やタンクサむズ酒質の傟向や醞造目的などによっお様々ですが原料米を1500 kg仕蟌むこずを䟋に考えおみたす

原料米から゚タノヌルぞの転化率を「酒化率しゅかり぀」ず呌び350 ~ 380 L/ton-原料米が䞀般的ず蚀われおいたす
そのため仕蟌1ロットにおける゚タノヌル生成量は
酒化率 350 L/ton × 原料米仕蟌量 1.5 ton/Lot. × ゚タノヌル密床 0.79 kg/L = 415 kg/Lot.
物質量415 kg/Lot. ÷ 分子量 46.07 = 9.0 kmol/Lot.
ずなりたす

前述の反応匏より゚タノヌルず二酞化炭玠は等モル生成するこずから仕蟌1ロットにおける二酞化炭玠生成量も同じく9.0 kmol/Lot.です
理想気䜓ず仮定しお発酵宀の気枩が10℃ずするずガスずしおの二酞化炭玠発生量は玄210 m³210,000 Lにもなりたす

タンク1本から発生する二酞化炭玠は小さな芏暡の発酵宀であれば空間党おを占めるほどの非垞に倧きな䜓積ずなり酞玠濃床が数%䜎䞋するだけで人䜓に圱響が生じるこずを螏たえるず発酵が劂䜕に倧量のガスを発生させ空間スケヌルで環境を倉え埗る珟象であるかがわかりたす

(2) 二酞化炭玠の危険性

二酞化炭玠は無色・無臭で空気より重いずいう性質を持぀ため䜎所やタンク内郚に滞留しやすいずいう特城がありたす
目に芋えないために危険かどうかを感芚で刀断するこずが難しい点が最倧のリスクです

䜎濃床の二酞化炭玠であれば吞い蟌んだ際に錻の䞭の氎分ず結合しお炭酞を生成するこずにより錻の奥がツンずする感芚を芚えるだけで枈むかもしれたせん
しかし高濃床になるず二酞化炭玠そのものが人䜓に有害な圱響を及がしたす

䞻な危険は二酞化炭玠䞭毒ず呌ばれる症状で頭痛や眩暈意識障害に繋がりたす
高濃床の二酞化炭玠は呌吞䞭枢を刺激しお「もっず呌吞しろ」ずいう状態を䜜り出し限界を超えるず脳や心臓の働きを厩しはじめたす
濃床1%を超えるず䞍快感を生じ始め10%を超えるず最悪の堎合死に至る危険性もありたす
぀たり二酞化炭玠の発生による酞欠環境の圢成は酞玠䞍足ず二酞化炭玠そのものの䜜甚が重なり危険性が䞀気に増加したす


3. 二酞化炭玠以倖による酞欠

酞欠は必ずしも二酞化炭玠の蓄積だけで起こるわけではなく䜕らかの理由で酞玠が消費されれば同様に酞欠環境が圢成されたす

䟋えば
・鋌補タンクにおける錆の発生鉄の酞化による酞玠の消費
・穀物や野菜朚材等の呌吞䜜甚による酞玠の消費
・カビなどの埮生物の生呜掻動による酞玠の消費
ずいった化孊的・生物孊的な酞玠の消費により酞欠環境が圢成されるこずがありたす

特に埮生物は非垞に掻発に酞玠を消費し生䜓重量圓たりの酞玠消費量は人間の数倍から数千倍に䞊るこずもありたす

そのため発酵が止たっおいおも安党ずは限らないずいう点が重芁です
醪仕蟌䞭だけでなく発酵終了埌のタンク掗浄前の蚭備長期間攟眮された空間では酞欠環境が圢成されおいる恐れがありたす

化孊メヌカヌや機械メヌカヌでは事業所内に遊䌑のタンク類を野晒しで保管しおいるこずも倚いですがそういった機噚の内郚では錆や埮生物による酞欠状態が圢成されおいる可胜性が高く䞍甚意に近づいたり酞玠濃床を枬定するこずなく内郚を芗いたりするこずのないよう泚意が必芁です

すなわち「動いおいない安党」ずいう刀断は非垞に危険です


4. 酞欠灜害発生時の察応

酞欠灜害で最も重芁なこずは無防備に救助に入らないこずです

タンク内に人が倒れおいるのを芋぀けた堎合咄嗟に入っお助けようず思う気持ちはよくわかりたすが酞欠環境では短時間で行動障害が生じるため逃げ出すこずも儘ならず意識を倱うこずにより救助者にも連鎖的に被害が拡倧するこずが倚くありたす

前述の通り酞欠環境では「息を止めれば倧䞈倫」は通じないためそういったリスクがある環境であるこずずその危険性を認識した䞊での行動が必芁です

酒蔵芋孊などで醪タンクに近づく際などは酒造り期間であるか吊かに関わらずタンクや背の高い桶ずいった閉鎖あるいは半閉鎖空間の内郚を安易に芗き蟌んだり立入犁止区域に近づいたりするこずのないようにしたしょう

たた日垞生掻においおもドラむアむスの䜿甚や冷蔵庫・ドラム匏掗濯機の䞭に子どもが入っおしたうなどによっお酞欠状態ずなった事故事䟋もあり身近な危険ずしお遭遇する可胜性が高い珟象であるこずは知っおおくず良いかもしれたせん


5. おわりに

日本酒造りは埮生物の働きを利甚した繊现なプロセスである䞀方発酵ずいう化孊反応を扱う以䞊垞に危険ず隣り合わせにありたす

特に酞欠は危険な状態が目に芋えにくく気づいたずきには手遅れになるずいう点で非垞に恐ろしいリスクです
ポケットからペンをうっかり萜ずしおしたったタンクの瞁のゎミを取ろうずした 「ちょっず手を䌞ばせば」ずいう䞀瞬の刀断が呜取りになりたす

私たちが日垞的に楜しんでいる日本酒はこうしたリスクを適切に管理する珟堎によっお支えられおいたす
その背景には危険ず隣り合わせの環境で働く人々の安党意識ず技術があり時には呜の危険ず向き合いながら支えられおいるずいう珟実がありたす

日本酒を楜しむ際にはその味わいだけでなくこうした背景にも少し思いを巡らせおみおもよいのかもしれたせん

いいなず思ったら応揎しよう