いつか、あの『リスト』に続くために・99
「まー、それぞれに得手不得手ってありますからねー。」
と、ご機嫌が良いのか猫撫で声な黒木。
『自分は歌える』
だからといって..他人には無理強いで、人前に引きずり出して歌わせる事を強制したりはしない、黒木。上下の区別なくそのヒトの気質に合わせて、対応する。
今も昔もそれは、変わらず。
とにかく、黒木がカラオケ披露のイベントに乗り気なようで、何よりだ。
お互いに願ったり叶ったりで良かったな。
「黒木さんっ、あざっす。」🤝✨
田中(颯)は、交渉成立につき黒木の手をとって嬉々と握手をする。
「なんの。かえって、ありがたいよ。」
「じゃあ...俺もその日は、黒木先生の生歌唱応援にいくよ。」
と、俺は言った。(現場の視察も兼ねてるし。)
佐久間 : 今、窓から慶司の姿を見かけた。..もう、この前のようなくだらない事は言わない。というわけで、久しぶりに直に会って少し話さない?俺は、今いつものコーヒー店にいる。メッセージでのやりとりだと、誤解は発生するわで、何かと歯痒くてな。..俺もちょい寄りだし長居はしないから。
田中慶 : わかりました。今から一旦、オフィスに引き上げるところだったので、そちらに向かいます。
そもそも、佐久間さんは恋愛話に拘泥するような人間ではないはずなので。
昼下がりの時間帯の30分程度ならば、融通を利かせる事にした。
俺は、ブラックコーヒーを注文して佐久間さんの向かい席についた。
「どう?ボチボチやってる?」
「おかげさまで。」
しかし対面して早速だが、俺は不安を覚えてしまった。
まさかとは、思うが..塚原先輩が「慶司を日暮里で見かけた」とか、佐久間さんに言ったりしてはいないだろうか?と。
でも、違った...とか。
「俺達企業側も、そろそろ新しいフェーズに入って行かなくちゃならなくなってな。」
「新しいフェーズとは?」
「笑い事じゃないんだが。..何というか。すっぴん人口が増えてきた。..実は、前災のパンデミックのおかげでメイクすること自体が減ったという声のも既にあってな。」
「マスクでしたからね、主な装備は。」
その為か、装粧系産業が明らかに沈滞している。
「何とか、穴埋めに励んできたのだが。ここにきて目詰まりという現実問題に直面しているわけ。..あとは、いわゆる若者達の恋愛・結婚離れの傾向とか。折からの不況も含みだが。...」
昨今の経済事情もあってか『美』に対する大衆・世間の考え方が変わってきている...。
「この前の新製品のは、ベテラン女優を起用して売上も、順調なんですよね?注目度数は、かなりのものでしたし。」
「ああ、そういった内部系の化粧品に関してはむしろ売上高が上昇しているし、問題はない。ただ、一般階層は、外粧系(ファンデーションやルージュ、マスカラ等)の製品への関心が明らかに薄くなってきているんだよな。」
外粧品目の売上高が、ここ5年以来ゆるやかに下降しているとの事。
「というわけで。こちらの方でも、販促案を改める時期にきたというわけで。」
「そうでしたか。..では、弊社の方で昨今の『美意識』の傾向に関するアンケート調査をさせていただきますね。」
「よろしくお願いします。」
あのパンデミック時期の前と後では、明らかに社会情勢が違っている。..異世界と言っても過言ではないくらいに。
それは、俺自身も痛感している。
『美意識』とはまた、別の話かもしれないが。
正直、俺世代のリーマン..(佐久間さんのようなごく一部を除いては)の一人暮らしでは経済的にも相当厳しいわけで..。
だから、今日びの新入社員達も、ルームシェアは、当たり前になってきているし。もはや同性同士が同じ住所でも誰も疑いを持ったりはしない。
つまり俺の身も、いろんな意味で十条さんに、公私共に守ってもらっている。..彼が俺を受け入れてくれて、彼もまた俺を好いてくれたから、俺は生命を保てる(これは、大袈裟ではない。)
林さんの方も、吉沢さんの紹介で実家が太い飯島さんと生計負担の少ない暮らしている。いや、下宿というのか、そういうのは。
あと、余程ミクミク屋敷が気に入ったのか。
迷わずに住所も移してしまっているし。
生活の安心感のためか、入院する以前よりもずっと、元気でハツラツとしている。
「ところで、最近また塚原と連絡がつかないんだけど。..慶司は、なんか近況とか知らない?」
「...え?...マジっすか?」
「LINEもさ、既読はしているようなんだけど。特に返信がなくてな。..また、おかしな事に巻き込まれていなけりゃ良いけど。」
「..そうだったんすね。」と、とりあえずは神妙に答えておいた。
『塚原さんを日暮里で見かけた』とか『塚原さんが住まい物件を探していた』などとは、俺の口から言うわけにはいかなかった。
「なんかわかったら、教えてくれないか?じゃ、またな。」
「了解っす。お疲れ様です。」
佐久間さんは、会社に戻った。
俺は、去年の雀が、凄いカスタマイズ注文した【ダークチョコモカクリームフラッペ】の件を思い出した。..あの時のあの子は、寒空の下で頑張って摂取していたっけw
さて、本年度の防災展示会場におけるグッズの種目別の売上高のデータのグラフを整えてから、次年度への比較構成の資料として、ファイルに保存した。
一旦小休憩を挟むために、俺(十条)はリフレッシュルームに寄った。
吉沢と田中..あと春日部君と林君が談合をしているようだった。
そこから離れた窓際の席...彼等に背中を向けてぽつんとすわってお人形(ドルフィー)の青緑色のツインテールな髪の毛をお人形用の小さなブラシで丁寧にとかしている飯島君の姿もある。..厳密に言うと、飯島君がすわっているそこは俺の..席..いや、そういったキマリはないけど..w
俺は、彼に声をかけた。
「こんにちは。飯島君もこちらでご休憩ですか?」
「......」
返事はない、しかし手の動きは続けている。
「初音ミクさん、かわいい方ですね。」^^
すると...飯島君が、応える。
「今日は、定時で上がってアルタにあるボー○スに行ってこの子の衣服を買いに行きます。紅葉狩り用のサテン生地の和服が入荷されたそうなんです。ミクの美しい髪と紅葉の一面闇のコントラスト、今から撮影が楽しみです。さて、着物は何色が良いのでしょう。ちなみにこの子は、撮影用の子です。」
こちらに気がついた為か?吉沢が、来た。
「十条さん。お騒がせして、すみません。今週末、林君のお引越し作業があってその段取りを話合っているところなんですよ。もう、話し合いは終わりましたので。」
「あ、そうなのか。..確か、林君が本格的に住むんだな。」
「俺等もそのお手伝いに、直(ナオ)ちゃんとリンちゃんのお家に行きます。」🤌✨
瓶底メガネで白衣姿のこの御仁は、飯島 直角(なおずみ)という名前らしい。
「そういえば。ナオちゃん、この前は飲み誘ったのに来なかったのな。」と、吉沢。
「飲まなくても、肉魚を食わなくても食べられるメニューは沢山あるんだ。何でも、独自の偏見持って突っ走るのは、どうかと思うよ?たまには...」
「小生は、吉沢氏に大勢の中は苦手と既に伝えてあるはずだ。飲みの場、そういう場だとどうしても肉や魚は口に入るじゃないのかね。いや、君達が酒場に出かけるのは、好きにしたらいい。大概の人間は所詮社会性とは、切り離せて生きていけるわけもないのだからな。」
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