財務省に問う。障害福祉の費用が膨らんだのは、いったい“誰”のせいか?
財務省が動いた。
4月28日に開かれた財政制度等審議会。
そこで財務省は、障害福祉サービスの総費用額が2024年度に4兆2000億円に達し、10年で約2倍に膨らんだとして、費用の伸びを抑制する必要があるとの認識を示した。
福祉新聞がこれを報じています。
なるほど、たしかに増えている。
でも、増やしたのは誰だ?
二つの規制緩和
障害福祉分野に民間企業が大量参入した背景には、二つの大きな流れがあります。
ひとつは、介護保険制度の経験です。
2000年の介護保険施行で、国は民間への規制緩和を試みました。
ただしこのときは慎重でした。
利用者の母体が巨大で、失敗の影響も大きい。
それもあってか、特別養護老人ホームの開設者は社会福祉法人または公的機関に限定されました。
株式会社には、門を開けなかった。
もうひとつは、障害者権利条約への対応です。
条約は2008年に発効しましたが、日本が批准できたのは2014年。
発効から6年の遅れです。
その間、国際社会から指摘され続けたのが、施設への長期入所と精神科病院への長期入院の多さでした。
地域で暮らすという権利条約の理念に、日本の現実はほど遠かった。
批准を実現するには、地域移行の受け皿を急いで整備しなければなりませんでした。
グループホームを増やすことが、政策の柱になりました。
この二つの圧力が重なったとき、国は障害福祉の参入規制をほぼゼロにした。
特別養護老人ホームは、社会福祉法人しか開設できない。
一方、障害者支援施設は株式会社でも開設できる。
グループホームに至っては、開設者にも管理者にも、資格も、経験も、研修受講の義務も問わない。
介護保険のグループホーム管理者には認知症介護3年以上の経験と管理者研修の修了が必要だが、障害のグループホームにはそれすらない。
介護保険制度導入の経験があるから大丈夫!
障害福祉はもっと小さい市場だから!
と踏んだのかどうかは知らない。
ただ、制度設計として、意図的に基準を下げたのは事実だ。
目標は達成された
規制緩和の効果は、数字として出ました。
2019年11月、グループホームの利用者数が施設入所者数を逆転しました。
受け皿の「量」という意味では、国の目標は達成されたといっていいでしょう。
総量規制を議論しなければならないほど、事業所は増えました。
不動産業者、リフォーム会社、福祉とは縁もゆかりもない業種の参入が相次ぎました。
建物を持つ、改修する、そのノウハウを転用すれば、グループホームはビジネスになる。
参入を阻むものが何もなかったのだから、当然の帰結です。
責める気もない。
門を開けたのは国だ。
しかし毎月のように、どこかの事業所の不祥事が報道されます。
『量』は増えた。
『質』は、どうなったのか?
競争が機能しない市場
競争原理そのものを否定するつもりはありません。
多くの事業者が参入し、さまざまな支援を組み立て、利用者が集まらないところが淘汰される。
質の高い組織が生き残っていく。
理屈としては、そうなるはずでした。
ただし、それが機能するには条件があります。
顧客が不満を声にできること。
サービスへの不満や不安を感じたとき、それを言葉にして、事業者に伝え、あるいは別の事業者に移れること。
障害福祉の顧客は、声なき声の障害者です。
不満を言葉にすることが難しい方がいます。
支援者に依存せざるを得ない状況にある方がいます。
選び直すことが、そもそもできない方がいます。
通常の市場で機能する淘汰の仕組みが、ここでは働きにくい。
だから、審判が必要でした。
行政による監査・監督です。
かつて、監査は事業所の規模に応じて複数日かけて行われることもありました。
書類をチェックし、現場を歩いた。
職員に話を聞き、利用者の顔を見た。
いまは事業者が増えすぎて、実地監査はほとんど行われない。
あったとしても、時間は短い。
これは監査課の職員の問題ではありません。
人員が足りないのです。
規制緩和で事業所を爆発的に増やしておきながら、監督する側の体制を整えなかった。
その結果です。
競争原理を機能させるための審判が、機能していない。
規制緩和だけが先行し、監督が追いつかなかった。
その結果が、いまの現実です。
“請求書”の宛先。
財務省は、就労継続支援B型の収支差率、放課後等デイサービスの急増、グループホームの参入基準の甘さを問題視し、報酬体系の見直しや配置基準の厳格化を求めています。
令和9年度の本改定に向けて、さらに踏み込んでくるでしょう。
方向性として間違っていない部分もあります。
ただ、“請求書”の宛先がおかしい。
報酬を削られ、基準を厳しくされ、しわ寄せを受けるのは、
現場で働く支援者と、
サービスを利用する障害者だ。
規制緩和で門を開いたのは国だ。
受け皿の量が足りないから急いだのも国だ。
事業所を爆発的に増やしておきながら、監督する体制を整えなかったのも国だ。
費用が膨らんだのは、そういう制度設計をしてきた結果だ。
「10年で2倍になった」と財務省は言う。
そうだろう。
あなたたちがそうしたのだから。

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