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📖【シヌズン3垝郜線 第䞃話癜壁の倖ぞ ― 四人が旅の圢になる倜】枯町ギルドの父嚘蚘〜お父さんず倩才受付嬢の異䞖界冒険譚〜

《フィヌア旅日蚘、倖瞁出立前芚え曞き》

宿ぞ戻るころには、
陜はただ高かった。

けれど、足取りは軜くなかった。
皇垝に頌たれた、ずいう蚀葉の重さが、
ただ肩のどこかに残っおいた。

垝郜の光は、
枯町アヌラの午埌ずは違う。
長く䌞びるでもなく、
濃く焌けるでもない。
癜い壁に均䞀に萜ちお、
䞖界の茪郭だけをきちんず残す。

垝郜の宿もたた、敎っおいた。

床板は軋たず、
氎差しの䜍眮は毎回同じで、
窓の桟には埃ひず぀ない。
気を抜けば、
ここが旅の途䞭であるこずを忘れおしたいそうになる。

だが窓の倖に、
あの圱城が掛かっおいる。

それだけで、
この郜がただ敎っただけの郜ではないこずを思い出すには十分だった。

郚屋に戻るず、オットヌはすぐ怅子に座らなかった。
荷を壁際ぞ寄せ、
机の䞊をひず目で枬り、
必芁なものずそうでないものを分け始める。

革玐。
垃。
油差し。
小さな杭。
工房でも旅でも䜿うものだけが、迷いなく机に残された。

旅支床ずいうより、
珟堎の前の敎え方だった。

「ルヌカス」
「はい」
「今から二刻。
 その足で拟えるものを拟っおこい」


ルヌカスは、もう半分立ち䞊がっおいた。

「倖瞁たでの道。
 兵の出入り。
 封鎖があるか。
 氎堎。
 銬が通れる堎所ず、通れない堎所。
 あず、屋台」


最埌の䞀語に、ルヌカスが真顔のたた目を䞊げる。

「屋台もですか」

「腹を支える堎所は、道ず同じだ」

「  はい」


その返事に、ヒスむが笑う。

「倧事だよ。
 空腹の人間は、だいたい颚が荒いから」

「おたえは䜕でそう、そこだけ分かっおるんだ」

「森でも同じだよ。
 お腹の空いた生き物は、音が尖る」


ルヌカスは、呆れたような顔をしたたた、
しかしもう腰の袋を確かめおいた。

オットヌは続ける。

「぀いでに、垝郜の兵が“どこたで知っおるか”も芋おこい。
 党郚知っおるや぀の顔ず、
 䜕も知らずに立たされおるや぀の顔は違う」


ルヌカスが䞀瞬だけ、
劙に静かな顔になる。

「  分かりたした」

その返事は、少しだけ䜎かった。

フィヌアはそれを聞いたが、
やはり䜕も蚀わなかった。

「行っおきたす」

次の瞬間には、い぀もの声に戻っおいる。
ルヌカスは軜く手を䞊げ、
郚屋を飛び出しおいった。

扉が閉たる。

郚屋に残ったのは、
オットヌ、フィヌア、ヒスむの䞉人だった。

いや――
正確には、
䞉人ず、窓の倖に掛かった圱の重さだった。

オットヌは机の䞊に玙を広げた。
垝郜でもらった簡易地図。
癜い街路、塔、倖瞁門、旧氎路、兵舎、倖苑。
敎った線ばかりが匕かれおいお、
綻びの入り蟌む䜙地など最初からないみたいな地図だった。

「ヒスむ」
「うん」
「おたえの目で芋お、
 あの圱に近づいおたず嫌な堎所はどこだ」


ヒスむは机の向こうぞ回り蟌む。
背䌞びをしなくおも芋える䜍眮に、
い぀の間にかきちんず立っおいた。

现い指先が、地図の巊䞊――
西倖瞁寄りをなぞる。

「ここ」
「早いな」
「颚が死んでるから」


オットヌは頷く。

「旧氎路跡か  」
「地面の䞋に、昔の流れが残っおる。
 でも今は蓋されおる。
 蓋された流れの䞊っお、倉なのがたたりやすい」


フィヌアはその蚀葉を聞いお、
銖食りの石に觊れた。

確かにそこを芋ただけで、
胞の奥の歌が少しだけ沈む。
音が返らない、ずいうより、
返る前に吞われる感じがした。

「じゃあ逆に、行ける堎所は」

ヒスむは少し考え、
今床は東寄りを指した。

「こっちの倖れ。
 颚が抜ける。
 完党に安党じゃないけど、
 ただ人の呌吞が残っおる」


オットヌは地図に印を぀ける。

「  入りは東。
 芳枬は西ぞ回る前に䞀床止める、か」


「うん。
 いきなり圱の真䞋に行くず、
 たぶんフィヌアの歌が持っおいかれる」


その蚀葉に、フィヌアは顔を䞊げた。
ヒスむは冗談を蚀っおいない顔だった。

「持っおいかれる」

「党郚じゃないよ。
 でも、あれね。
 “歌っおるもの”を芋぀けるず、
 たぶん嬉しくなっちゃう」


嬉しくなる。
その衚珟がかえっお怖かった。

「呌び返されるっおこずか」

オットヌが蚀う。

「そう。
 しかも、悪意っぜくないのが、いちばん面倒」


オットヌは錻で短く息を鳎らした。

「よくないな」

「よくないよ」


フィヌアは窓の倖を芋た。
圱城はただ遠い。
だが、遠いたた匕いおくる。

あれは確かに、
歌うものを芋぀けたら、自分の沈黙ぞ匕き蟌みたがる気がした。

「だから」

ヒスむが、フィヌアの方を向く。

「最初は歌いすぎないで」

その蚀い方は軜い。
けれど、願いでもあり、
玄束の確認でもあるように聞こえた。

フィヌアは頷く。

「  はい」

オットヌはそのやり取りを聞いおいた。
それから怅子ぞ腰を䞋ろし、
やっず少しだけ肩を萜ずした。

「今日は、ここたでだ」

「ただ昌ですよ」


フィヌアが蚀うず、
オットヌは嚘を芋る。

「昌だからだよ。
 倜たでに敎える。
 倜は、考える時間に䜿う」


垝郜ぞ来おから、
父はずっず歩き続けおいたように思う。

皇后ずの察面、
皇垝の姉ずの呌び出し、
街角の綻び、
ヒスむずの出䌚い、
そしお今日の謁芋。
ずっず、嚘の歌の前ず埌ろを支えおいた。

「  お父さん」

「なんだ」

「無理しおたせんか」


オットヌは少しだけ目を䞞くした。
それから、笑いもしないで蚀う。

「しおるよ」

あたりにあっさりしおいたので、
フィヌアは逆に蚀葉を倱った。

オットヌは地図から目を離さない。

「旅っおのは、だいたい無理をするもんだ。
 問題は、無理をしおるこずに気づいおるかどうかだよ」

「気づいおるんですか」

「気づいおる。
 だから今日は、ここで止める」


フィヌアは少し黙った。
その隣で、ヒスむが窓蟺に腰を乗せ、
倖の颚の薄さを確かめるみたいに目を现めおいる。

「  いい父芪だね」

唐突に、ヒスむが蚀った。

オットヌが顔を䞊げる。

「いきなりなんだ」

「だっお本圓だし。
 留めないで、止める人だ」


その䞀蚀に、郚屋の空気が少しだけ静かになる。
留めないで、止める。

フィヌアは、その違いをよく知っおいた。
塔の䞊では、留められかけた。

でも父は違う。
歌うなずは蚀わない。
ただ、䜿い切るなず蚀う。
行くなずは蚀わない。
ただ、今日は息を敎えろず蚀う。

オットヌは、少し困ったように眉を寄せた。

「耒めおも䜕も出んぞ」

「別に欲しくお蚀っおないよ」

「そうかい」


ヒスむは肩をすくめる。
その仕草があたりにも軜かったので、
フィヌアは小さく息を挏らした。

倕方になる前に、
ルヌカスが戻っおきた。
扉を開けるなり、
䞡手がふさがっおいる。

「屋台、二軒、圓たりです」

「たずそこか」


オットヌが呆れたように蚀う。

「いや、違うんです。
 違うんですけど、そこ倧事なんで最初に蚀いたした」


ルヌカスは包みを机に眮き、
次に玙を広げた。

「東倖瞁ぞ抜ける道は䞉本。
 でも兵が厚いのは䞀぀だけです。
 残り二本は普段䜿いの荷道で、
 倜になるず逆に芋匵りが薄くなる」


オットヌの目が倉わる。

「続けろ」

「旧氎路の西偎は、今朝から立入制限が増えおたす。
 けど、兵そのものが状況を分かっおる感じじゃない。
 “近づけるな”だけ来おお、
 䜕を近づけたくないのかは共有されおないです」

「䞊だけが知っおる、か」

「たぶん。
 あず」


ルヌカスが䞀拍眮く。

「内廷付きの連䞭ずは別に、
 陛䞋盎属っぜい連絡圹が倖で動いおたす」


オットヌが眉を䞊げる。

「芋分けが぀くのか」

ルヌカスは、したったずいう顔を䞀瞬だけした。
だが、今回はすぐにはごたかさなかった。

「  歩き方が違うんです」

短い答えだった。
それで十分だった。
オットヌはそれ以䞊远わず、
ただ頷くだけに留めた。

ヒスむが包みの匂いを嗅いでいる。

「これ、いい匂い」

「颚の通る屋台、たぶんこの蟺です」


ルヌカスが蚀うず、
ヒスむは満足そうに頷いた。

「うん。圓たり」

「基準が雑すぎるだろ」

「でも合っおる」


蚀い返せずに、ルヌカスは包みを開いた。

焌きたおの平たいパン。
銙草のきいた肉の挟み焌き。
垝郜にしおは少しだけ油の匂いが匷い。

「  たしかに」

オットヌが䞀口かじっお蚀う。

「悪くない」

フィヌアも少しだけ食べた。
敎いすぎた味ではなかった。
ちゃんず、噛んだぶんだけ返っおくる。

「ルヌカス」

オットヌが食べながら蚀う。

「はい」

「明日も足だ。
 おたえは先に走っお、戻れ」

「分かっおたす」


返事に迷いがない。

ヒスむは窓を芋たたた、
ふず呟いた。

「倜のほうが、あの圱はよく芋えそうだね」

その蚀葉に、郚屋が少しだけ静たる。
誰もすぐには答えなかった。

窓の倖では、
垝郜の癜い壁に倕方の色が薄く萜ち始めおいた。
圱城は、昌の䞭よりも、
かえっお茪郭を濃くしおいるように芋える。

癜い郜は眠ろうずしおいた。
けれど、眠るにはただ高すぎる圱が、
空の䞊に残っおいた。

フィヌアは立ち䞊がった。
窓蟺ぞ行き、
銖食りの石にそっず觊れる。

歌わない。
今日はただ、歌わない。
でも、䜕もしおいないわけではない。
芋おいる。

息を敎えおいる。
呌ばれおも、すぐには応えないで立っおいる。
それだけで、
昚日たでずは違う気がした。

圱に向かう旅は、ただ始たっおいない。
けれど、四人はもう、
それぞれの足で同じ方向を芋始めおいる。

オットヌは地図を芋る。
ルヌカスは道を芋る。
ヒスむは颚を芋る。
フィヌアは、ただ歌にならないものを芋る。

垝郜の倜は、静かに降りおきた。
敎えられた郜の呌吞の䞊に、
説明の぀かない圱だけが、
ゆっくりず濃くなっおいく。

フィヌアは思った。
旅は、出発した時に始たるのではない。
戻れない向きを、
四人で静かに芋぀めた時に始たるのだ、ず。


あずがき執筆者フィヌア・アりラ先生メモ
第䞃話は、戊う回ではなく、
四人が「旅の圢」ぞ入る回でした。
オットヌは珟堎を組み、
ルヌカスは足ずしお情報を拟い、
ヒスむは颚ず境界を読み、
フィヌアは歌をただ䜿わずに息を敎える。
この「ただ䜿わない」ずいう䞀段が、
圱城封印ぞ向かう前にはずおも倧事だず思っおいたす。
次は第八話。
癜壁の倖ぞ出お、
圱城そのものの瞁に近づいおいきたす。

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