【読了】水たまりで息をする
「風呂には、入らないことにした」
ある日突然お風呂に入るのをやめた夫と、
夫のことを否定したいわけでも責めたいわけでもないけどどうしたらいいかわからない、
寄り添いながら過ごす妻の話。
淡々と進んでいく物語。
ホラーでも何でもないのにぞっとした。
3ヶ月、5ヶ月とどんどんお風呂に入らない期間が延びていく夫。
垢が溜まっていくその描写がリアルすぎて、
読みながら自分の体がかゆくなってくる。
リアルすぎてお風呂に入りたいと気持ち悪くなるほどに。
水道水が嫌だ。
ミネラルウォーターで洗うのも少し嫌だ。
雨水を溜めて体を洗う。
雨の日に外に出る。
田舎に移住して綺麗な川に入って体を洗う。
石鹸は使わない。
徐々に原始的になっていく夫が、
読み進めていっても奇妙さが増すばかりだった。
でも決定的な原因がわからない。
妻の衣津実はお風呂に入ってほしいと思いながらも強制はしない。
夫の尊厳を傷つけないように、
言いたいことを言い切らずに、
そっと寄り添う。
自分だったらできるだろうかと考えた。
深い愛だと思った。
自分の隣でどんどん自分の知らない夫に変わっていってもそっと寄り添う。
受け入れるのは難しくても、受け止める。
衣津実は、夫が人生の全てとは思わない。
けれど、夫がいてくれたらそれでいい、とは思っている。その二つのことは、似ているようで違う。夫にとって自分もそうであったら良かった。
夫婦だから、2人だから、離婚届さえ出せばすぐ他人になれるところを寄り添うことを選んだ。
相手を責めない代わりに自分がおかしいのかとさえ思えてくるところは苦しかったけれど、
優しい夫婦の優しい愛の話だった。
少数派が必ずしもおかしいわけでもないし、
多数派だから正しいわけでもない。
でも、自分の隣にいてくれる人が受け止めてくれるだけで幸せなんだと思った。
