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誕生日の時報

8月某日18:00
次女の保育園のお迎えに行くと、名前の知らない子供が私の元へ近づいてきた。唐突に、「今日、お誕生日?」と聞かれた。

「うん、誕生日だよ。」

私の、誕生日だった。どうやら次女がそのことを、保育園で盛大に宣伝してくれたらしい。

「何歳になったの?」その子は、大人が子供にするように尋ねた。次女が、ダッダッダッと走ってきた。

「だ〜か〜ら〜、11歳だってばっ!!」

当然でしょ!という勢いで、私の偽りの個人情報(出元:私)が次女により拡散されていく。そして子供たちは各々の家に帰り、「今日は、〇〇ちゃんのママの11歳のお誕生日だったんだよ!」と、また拡散されていくのだろう。

あとは野となれ、あるいは、谷にでも崖にでもなってください。


8月某日18:30
夫と次女が、ケーキを調達しに出かけた。

最近甘いものを食べ過ぎていたので、ケーキは別に要らないと言ったのだ。しかし、お祝いなのにケーキがないのは、子供心に納得がいかない。ろうそくをフーッとするために、部屋を暗くできないのも寂しい。さらには、「要らないと言っていたのに、なければないで怒る。」という、普段の私と夫のやり取りから何かを学んでいるようだった。

子供が大好きなチョコレートケーキでも買って、子供が喜ぶならそれで良いかと思い直した。私は端っこだけ、ちょっとだけ頂こう。

夕食の支度に取り掛かる。豪華ではないけれど、子供達が好きなチキンにした。


8月某日19:00
夫が開けたシャンパンのコルクが、シュポっと、どっちつかずの音を立てた。

オーブンからチキンを取り出すと、熱が顔に当たる。グラスにシャンパンが注がれて、一足先に夫と二人で乾杯した。

「もう出会って、20年になるね」と、しみじみ言った。

「ううん、まだ18年だよ」と、夫が修正した。

泡が温まって消えないうちに、半分くらいゴクゴク飲んだ。しゃっくりが一度、出た。


8月某日19:30
簡単に作ったはずのチキンが、ずいぶん美味しかった。手の混まない料理が、いつの間にか上達したなぁと思った。


8月某日20:00
長女と次女がキッチンにこもって、ケーキの準備をしている。その間テーブルに残された私と夫は、友人や仕事の話になる。次女がなぜか、「全部、聞こえてるからね〜!」とキッチンから忠告してきた。秘密の話など、したつもりはないのだけれど。

「ライターって、どこ?」長女が夫にヒソヒソと聞きにきた。しかし夫も、ある場所がわからない。要は私しか、わからない。どこどこだと教えると、長女が忍び足でサササと取りに行った。だからさっきから、誰が誰に対して隠密行動を取っているんだろうか。

「ハッピバ〜スデ〜トゥ〜ユ〜♩」

長女と次女が歌いながら、ケーキを運んできた。

それを見て私はハッとして、少しの間、動けなくなってしまった。

娘たちが大好きなチョコレートケーキが運ばれてくるものと、信じていたのだ。そこにあったのは、私が一番好きな、レモンタルトだった。

夫が撮影するビデオの前で、「え、えっ!」とうろたえて、急に恥ずかしくなってしまった。そしてケーキにはろうそくが、1本立っていた。もっともっと恥ずかしくなったけれど、フゥと弱々しく吹いても、簡単に消すことができた。

メレンゲにフワリと包まれて、レモンの酸味がフワリと溶けた。何口食べても、軽々と溶けていった。


8月某日24時、誕生日、おわり。




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