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なぜ土器に縄文を付けるのか 神像ではなかった土器に張り付く人体文 結びで土偶を読む⑪ 

 図は左が有名な井戸尻考古館の「神像筒形土器」、右はさいたま市立博物館の人体文付深鉢形土器。
 ここでは土器に網目を付ける理由と人体文を貼り付けた土器などに共通する意味について、また最後に「結び」について説明したい。

1.何故縄文土器に縄目の文様を付けるのか?


 この質問をAIに尋ねると、以下のような回答であった。

縄文土器に縄目の文様がついている理由については、主に以下の3つの説が有力です。
1.滑り止め(実用性)
粘土が濡れているうちに縄を押し付けることで表面に凹凸ができ、持ち運びの際に滑りにくくしたという説です。また、表面積が増えることで熱効率が良くなり、煮炊きがしやすかったとも考えられています。
2.粘土の補強(製作過程)
土器を形作る際、粘土の層を密着させたり、中の空気を抜いたりするために縄で叩いたり転がしたりした作業の跡が、そのまま文様になったという見方です。
3.魔除けや信仰(精神性)
縄の「結び目」や「連なり」に特別な力が宿ると信じられ、魔除けや、中に入れる食べ物の豊穣を願う宗教的な意味があったとする説です。
当時は、単なる道具としての便利さだけでなく、「飾ること」自体に重要な意味があったと考えられています。

 以上のようだ。3点ほどご提示いただいたが、一番は木の枝で筋を付けてもよく、また二番目も太い枝で押し当ててもよいわけで両者とも縄目にする理由に説得力はない。
 そうすると3番目が有力となるが、これも宗教的な意味があるとするのはわかるが、もう少し具体的にならないであろうか。
 
『縄文土器ガイドブック』には、縄による文様の解説に次のようにある。
 考古学者山内清男やまのうちすがおによって、縄を土器面に回転することで文様をくりだすという手法が解明されたのだが、「(縄を)土器の装飾文様に利用したことには、縄文人が縄に対して並々ならぬこだわりと、縄についての深い知恵と技術をもっていたことを垣間見せてくれます(井口2012)」

 縄を回転させる手法については別の機会でふれたいが、ここでは、「並々ならぬこだわり」というのが重要な問題となる。土器は、調理の為だけではなくて祭祀にとって重要な器物であった。そこに縄目の文様を付けた意味には、宗教的な理由があったと考えるのが普通だろう。それは、土偶の問題で明らかにしてきた、精霊、霊力といったものをつなぎ止め、結ぶためのカタチを土偶の場合と同じように、土器にも施したということになるのだ。
 
 すなわち、縄文土器とは縄で結縛する目的で、土器面に繰り返し押し付けたり回転させたりして、実際に縄で縛ったかのように表現したのである。そしてその表現方法には様々なバリエーションが生み出されていった。さらに縄目だけではなく、結縛を意味する幾何学文様や土偶にも見られるような貝や牙を持つ動物の意匠も取り入れられるようになる。縄文人のすさまじいほどの熱い思いが、過剰装飾ともいわれるような造形を次々と生み出すのだ。このような中で、特徴的な事例をいくつか見ていきたい。

鹿児島三角山1遺跡隆帯文土器 
出典『縄文土器ガイドブック』

 縄文時代草創期の土器であり、解説に「粘土紐を桶のタガのようにまわした太い隆帯が特徴」(井口2012)とある。「桶のタガ」というのが面白い。まさに土器を周囲から縛っているのではないか。


長野県立歴史館蔵

 蛇のつもりかもしれない隆帯文が土器を結んでいるようにも見える。
 

塩尻市立平出博物館蔵

 口縁部が少し中に曲げられたような土器だが、ひも状のものがその口縁部を覆いつくすように貼り付けられている。土器の中に入り込む精霊をつなぎとめるためと考えて良いのではないか。胴部の文様も緻密でありとにかく手間をかけた作品だ。


富山県立山町立埋蔵文化財センター蔵

 まるで注連縄を把手の様に付けた土器だ。縦に区分された胴部には綾杉文が描かれている。後に銅鐸などにも描かれることになる。

 

氷見市立博物館蔵複製

 まさに過剰装飾の極致ともいうような造形に、縄文人の強い熱量を感じる。とにかく、器の中に入るものを逃してはならないという強い気持ちによるものだろう。

2.貝は土器文様にも使われる


 神をもつかんで離さないと考えられた貝について説明してきたが、この貝の効果を期待して、土器文様にも多様に使われてきた。
 

貝殻の縁で器面をなぞる。
出典『縄文土器ガイドブック』

 縄目だけではなく、貝によってつなぎとめる器も造り上げた。
 土器面に貝殻の先端を押し当てて文様を付けた土器もあった。
 

三本線に貝の先で押した扇形のへこみ文様 
奈良県吉野歴史資料館蔵

 カワニナなどの巻貝の先端を直接押し付けるようにしたもので、デザインとしてはよいとは思えないが、あくまで貝の効能を期待しての行為と考えなければならない。
 中には貝の形を模してそのまま飾りにする土器もあった。

口縁部にタカラガイ 
出典『松本市大村塚田遺跡調査報告書』

 世界中で古代人はこのタカラガイを重要視、珍重してきた。土器に装飾することで、最強の祭祀の器物としたにちがいない。
 有孔鍔付土器の用途については、太鼓説や酒などの醸造説があるが、それではタカラガイを周囲に貼り付ける理由は説明できない。私はあくまで祭祀用と考えたい。
 次は貝殻を貼り付けた土器。貝殻を付けたからといって美しい外観になるわけではない。貝のチカラを得ようとした土器と考えたい。

群馬県糸井宮遺跡
出典『縄文美術館』

 以上の様に、「並々ならぬこだわり」で造形が多種多様に行われてきたのである。

3.なぜ土器に人体文などを貼り付けるのか


神像筒形土器 写真は『日本の美術代497号』
イラスト図は茅野市尖石縄文考古館HPより

 重厚感のある彫刻的な表現をとる文様で、藤内遺跡での文様装飾の頂点となる土器といった説明がある。過剰装飾の土器とも言われるが、この人のようにも見える何か得体のしれない造形にはつい引き込まれてしまう。なぜここまで手間をかけた造形を行ったのか。それは「神像」というだけでは理解できない。
 縄文人の切実な願いに応えてもらえる霊力、精霊にこの土器に降りて来てもらい、つなぎとめるために、この張り付いた人体像が太い両手で抱えて守るようなポーズにしたのではなかろうか。

 似たようなタイプのものが数例ある。


山梨県鋳物師屋遺跡

 前に取り上げたものだが、頭部と胴体の分離で降りてくる精霊を表現した人体像が、精霊の入る器をやさしく抱えているのである。

さいたま市立博物館蔵

 こちらは、一本の線で人体文の輪郭が描かれたなかなかおしゃれなものだ。縄文人のセンスはいけてる。

 次はこちらを向いて抱きかかえてはいない人体文。

山梨県鋳物師屋遺跡 出典『日本の美術10』

 これも有名な人体文様の付いた有孔鍔付土器。女性シャーマンが降りてきた精霊と対話をしているのであろうか。または見守っているのであろうか。ひょっとすると、精霊を呼び込む役割ももっているのかもしれない。人体文の左右に付く幾何文様は、蛇で表現されているようだが、これも土器の精霊を逃さないバリアのように思える。
 次は謎の怪人?

出典:東京都埋蔵文化財センターHP

 バンザイポーズもよく見かけるものだが、はたしてこれはヒトなのか、怪人なのか正体は不明。そしてこれもバンザイをしているわけではなく、土器の中のものを守護しようとしていると考えたい。

千葉県船橋市飛ノ台史跡公園博物館蔵

 これは、蛙なのかどうか不可解な生き物?だ。これも土器に宿す霊力といったチカラを守るように構えているのだろうか。
 次は有名だが、カタチの意味が不明な火焔土器。

新潟県長岡市馬高縄文館蔵

 土器面から大きくはみ出すような装飾が圧巻の火焔土器だが、その形状の意味はわかっていない。私見では、これまで見てきたような人体文と同じような役割を持つものではないだろうか。土器に入り込んだ霊力を囲い込むように保持しようとしているカタチではないかと考えたい。ただ、そのカタチの正体は縄文人に相談しないとわからない。 

 他にも張り付いたものは多いが、きりがないのでまた改めて取り上げることにしたい。

4.結び玉について

 縄文時代は不可解で説明のつきにくいものが多いが、これもその一つだ。

赤漆塗りの糸玉新潟県青田遺跡 
出典東北歴史博物館HP 

 ウルシで固めてあるので裁縫用などの実用品ではない。これも祈りの場で使われたのではないか。
 木下尚子氏は以下のように説明されている。
 「巻き付けて結ぶ行為が玉と表裏をなすものであったことを、見事に語っている。結び玉を作る行為は、命を身体に結び留めるための呪的行為と考えてよいだろう」(木下2000)
 「玉」とは勾玉などのことであり、勾玉の機能と同じように「結び」と生命の維持が密接につながっているのである。
 日本書紀の神皇産霊尊(カムミムスヒノミコト)の注釈に次のようにある。ムスは、植物の自然に産生する意。ヒは、霊力とする。この神は天孫降臨の最高司令官として、アマテラスよりも重視する見解もある。
 このムスヒがあらゆる植物を成長させるチカラを意味しているのであり、これこそもっとも縄文人が重要視したチカラなのである。このムスヒを取り込むために祭器を用意し、降りてきたムスヒのチカラにいついてもらうために、土器や土偶、その他の祭器に、様々な工夫を施してきたのである。
 
 このムスヒが結びでもあり、結縛、拘束の意味にも関係するものとして使っていきたい。このシリーズのタイトルを「結びで土偶を読む」とした由縁である。ただ、そうすると結びが逃げないように結ぶ、といた、少々落ち着きの悪い言い方になってしまうのだが、ご容赦願いたい。
 縄文人や後の古代人も求めたムスヒ、結びのチカラ、精霊などに関する信仰などを今後も検討していきたい。
 なおこの結び玉は、他に小樽市忍路土場遺跡や福島県三島町荒屋敷遺跡などから出土している。また弥生時代の前期の徳島県南蔵本遺跡でも糸玉が見つかっている。

参考文献
井口直司『縄文土器ガイドブック』新泉社2012
土肥孝『日本の美術10縄文土器中期』至文堂2007
木下尚子『装身具と権力・男女』(古代史の論点2)小学館2000
坂本太郎他『日本書紀(一)』岩波書店1994
小川忠博『縄文美術館』平凡社2013
松本市教育委員会 1992 『松本市文化財調査報告96:松本市大村塚田遺跡』

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