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Vol.58 : AI時代の「スキルとセンス」について考えてみた

生成AIが実務に入ってきて、
「人間は何をする人なのか」
が問い直されています。

きっかけは、山口周さんと楠木建さんの
『「知的生産」のセンス』
でした。
そのなかに出てくる
「スキルのデフレ/センスのインフレ」
というフレーズが頭に残り、
そこから自分なりに考えを広げてみた――
というのがこの記事です。

本の中身に立ち入りすぎず、
あくまで自分の整理として書きます。

結論を先に言うと、AIが得意な仕事と
そうでない仕事の境界線が、ちょうど
スキルとセンスの間に走っています。

AIが「スキル」を飲み込んでいく

まず前提の確認です。
生成AIが爆発的に価値を持ったのは、
これまで人間が担っていた
再現可能な作業を、桁違いの速さと量で
こなせるようになったからです。

文章を書く、コードを組む、
資料を要約する。学べば身につき、
教えられ、量産できるもの――
つまりスキルの多くが、
AIで代替可能になりました。

すると、スキルは供給が一気に増え、
価値が下がっていく。一方で、AIには
簡単に真似できないセンスの価値が、
相対的に上がっていく。
「スキルのデフレ/センスのインフレ」
と言われるのは、この非対称のことです。

        価値
         ▲
   センス │      ╱  ← 上がる(AIが代替しにくい)
         │    ╱
─────────┼──────────────▶ AIの進化
         │    ╲
   スキル │      ╲  ← 下がる(AIが再現・量産できる)
         ▼

同じ現象の表裏ではなく、
AIの登場によって別々のものが
逆向きに動き始めた、
と捉えるのが正確です。

では、センスとは何をする力なのか

ここが本題です。
「センス」は感覚的でつかみどころのない
言葉に聞こえますが、AIとの対比で見ると、
輪郭がはっきりします。センスとは、
正解のない問いに、自分なりの判断を
持ち込んで答えを組み立てていく力です。
具体的には、三つの動作からできています。

1. 何を問うかを決める(問いの設定)
AIは、問いを与えれば猛烈な速さで
答えます。でも「そもそも何を問うべきか」
は決めてくれない。良い問いを立てられるか
どうか――ここに最初のセンスが出ます。

2. どの軸で切るかを選ぶ(切り口の選定)
同じ対象でも、どの軸で捉えるかで
見え方が一変します。たとえば婚活アプリで
相手を「年齢・年収」で分解すると、
人が”物件”に見えてしまう。
分解する作業自体はAIでもできますが、
その軸が適切かを判断するのはセンスの
仕事です。切り口を誤れば、正しく分解しても
答えは的外れになります。

3. バラバラを一つの意味に束ねる(統合)
AIは情報を要素に分解し、パターンを
抽出するのが得意です。逆に、バラバラな
要素をどう組み合わせれば意味が
立ち上がるかを決めるのは苦手。
文脈を読み、優先順位をつけ、一貫した
一つの絵にまとめる――この統合こそ、
センスの中心にあります。

この三つに共通するのは、
どれも正解が一つに定まらないということ。
だからこそ教科書化できず、AIに渡せず、
人ごとに差が出て、価値が上がっていく
わけです。

いちばん効いてくるのは「具体と抽象の行き来」

そしてこの先、さらに大切になるのが
具体と抽象を往復する力だと考えています。

少し前まで、抽象化――要約したりパターンを
抜き出したりすること――は、むしろ
AIの苦手分野でした。だから
「抽象で考えられること」は人間の強みだと
思われていた。ところが最近のAIは、
この抽象化がかなり得意になってきています。
苦手だったはずの領域が、急速に埋まって
きたわけです。

つまり、境界線は固定ではなく動いている。
「抽象で考えられるから安心」とは、
もう言えなくなりつつあります。
抽象で止まれば評論家、
具体で止まれば作業者。
どちらか一方に立っているだけでは、
AIに追い越されていく。

そのなかで価値が出るのは、
二つを行き来し続ける運動のほうです。
AIが出した抽象論を現場の一手に
落とし込み、現場で起きた具体をまた
別の場面に効く教訓へ引き上げる。
この上り下りを止めないことで、
掴んだ本質を別の現場に転用できます。

そしてこれも、スキルとセンスの
関係がそのまま当てはまります。
往復するという動作自体はスキルで、
鍛えれば身につくし、AIにもできる。

でも、どこを起点に、どこへ架けるのか――
その一組を選ぶのがセンスです。

実は、この記事でここまで話してきたことは、
同じ一つの構造の繰り返しでした。

              スキル          センス
            (実行・AI可)   (選定・人間)
──────────────────────────────────────
分解する    分解の実行    ×  どの軸で分解するか
往復する    往復の実行    ×  どこを起点にどこへ架けるか
──────────────────────────────────────
            = AIに渡せる    = 手元に残す

分解も往復も、動作の実行はスキル、
その方向を選ぶのがセンス。同じ刃が、
場所を変えて二度光っているだけなんです。

AIは往復すること自体はできます。
でも、繋ぐ先を選ぶところ――今はまだ、
そこが人間の仕事です。

境界線は動き続けているので、
この先どうなるかは分かりません。
だからこそ、往復を止めないことが
効いてくるのだと思います。

構造にすると、こうなります。

        統合(束ねる・センス・AI苦手)
          ↑
抽象 ←―――――――→ 具体   ※往復=縦糸
          ↓
        分解(バラす・スキル・AI得意)

AIが動ける範囲は、すでにこの図の
かなり広い部分まで広がっています。
そのうえで、どこを起点に、どこへつなぎ、
何を一つの意味として束ねるのか。
その選択に、いまは人間の仕事が残っています。

振り返り

整理してみて、AI時代の実務への示唆は
明快でした。

スキルを磨いても、いずれAIに追いつかれる
領域は増えていく。だからスキルを手放す
のではなく、その上に、問いを立て・
切り口を選び・束ねるという”センスの層”を
どう乗せるかが問われている。

分解と抽象化はAIに任せ、判断と統合に
人間の時間を寄せていく。

「作業をこなす人」から
「何を、どの基準で決めるかを握る人」へ。

AIに仕事を奪われるのではなく、
AIに渡す仕事と手元に残す仕事を仕分ける。
その仕分けそのものが、これからの
センスなのだと思います。

「作業じゃなくて仕事をしろ」がリアルになった

昔から「作業じゃなくて仕事をしろ」と
言われてきました。正直、精神論に
聞こえていた人も多いはずです。

言っている本人も、「仕事」の中身をうまく
説明しきれていなかった気がします。

でもAIが作業を引き受けるようになった今、
この言葉は急にリアルになりました。
作業はAIがやる。人間に残されたのは、
仕事のほうだけ。

これまでは、作業しかしていなくても
給料をもらえたから、どこか他人事に
できました。いまは違う。

作業側がAIに置き換わっていくなかで、
「作業しかできない人」が本当に居場所を
失うという、待ったなしの状況に
なっています。

あの定番の説教は、いつのまにか、
実害をともなう警告に変わっていたのだと
思います。

引き続き、一緒に
考えていただけると幸いです🐰


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