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東大卒の私が、10年働いて「頭の良さ」の物差しが変わった話

銀行員時代、仕事をしながら何度も考えていたことがあります。

「頭が良い人」とは、結局どういう人なのだろうか。

 東大に入った頃の私は、「頭の良さ」は受験で測れるものだと思っていました。言ってしまえば、理解力、記憶力、処理力が高いこと。しかし銀行で10年間働き、法人営業、官庁出向、本部企画、採用担当を経験する中で、その考えは大きく変わりました。

 仕事で評価される「頭の良さ」は、受験で求められる能力とは必ずしもイコールではないことを、自分自身や周囲を振り返って痛感したからです。

 例えば、若手の頃は目立たなかったのに、ある段階から一気に評価される人。逆に、若手の頃は優秀に見えたのに、ある段階から伸び悩む人。人を見て動かすのが人。複雑に絡み合った問題を整理するのがうまい人ー

そうした人たちを見ているうちに、単純に「理解が早い」「知識が多い」「処理が速い」だけでは説明できないものがあると感じるようになり、この問いに対し少しずつ自分なりに整理してきました。そして今のところ、「頭の良さ」は以下の三つの要素で考えるとしっくりきています。

 ① 深さ ② 広さ ③ 速さ

 もちろん、これが絶対の正解だと言いたいわけではありません。ただ、10年間働く中で見てきた人達、自分自身の経験も踏まえると、この三つで考えるとかなり整理しやすい気がしています。


深さ――本質や構造を見る力

 一つ目は、深さです。

 深さとは、物事を必要以上に難しく考えることではありません。目の前で起きていることの奥にある、本質や構造を見る力です。ただ、この「深さ」は、どんな仕事でも常に最優先で求められるわけではありません。


 例えば法人営業の仕事や基本的な事務処理タスクにおいては、深く考える力そのものよりも、まずは目の前の仕事をきちんと前に進める力が重要でした。

 もちろん、考える力が不要という意味ではありません。ただ、現場のプレイヤーとして成果を出す段階では、深く考えることよりも、信頼されること、正確に処理すること、物事を前に進めることの方が、成果に直結する場面が多かったように思います。

 一方で、大多数の意見の異なる利害関係者に対し、一定の決定を下すことが求められるポジションである経営部門や、管理職以上の役割になると、求められるものが変わってきます。なぜなら、個々の表面上の出来事だけを見て進めていても全体的な納得感が得られず、最終的な合意形成を図るというミッションが果たせないからです。

 この段階に入ると、思考の深さがかなり重要になります。多くの人がある程度以上の出世で壁に当たる理由の一つは、ここにあると思っています。

 更にもう一つ、深さが鍵となるのは、人を見る時であり、これは現場スタッフや若手の段階でも、かなり優位性となり得ます。その人が本当は何を大切にし、何を不安に思っているのか。これまでどんな意思決定をしてきたのか。言葉と経験に一貫性があるのか。こうした人への洞察の深さは、営業でも、採用でも、マネジメントでも、かなり仕事の成果に効いてくる要素だと思います。


広さ――別の経験をつなげて考える力

 二つ目は、広さです。

 これは、単に物知りであるという意味ではありません。もちろん知識が多いことは、思考のための土台として非常に重要です。ただ、私がここで言いたい広さは、もう少し違います。

ある場所で得た経験や考え方を、別の場所でも使える形にできる力です。

 新卒後最初の業務である法人営業では、多数の取引先と向き合い、相手の事情を聞き、社内を調整し、案件を前に進める。とにかくスピード感とマルチタスクが求められる仕事でした。

 一方で、採用業務は一年以上の長いプロジェクトに専念して回すこと。本部企画や官庁出向では、蓄積されたデータ、既存制度、組織全体の動きを見て、確からしい判断をすることが求められます。

 一見すると全く違う仕事に見えますし、私自身、異動当初は転職したような気持ちで全く業務の進め方も分からず、本当に新しい環境に適応できるのかと言う不安もありました。

 ただ、しばらくすると、営業で見た取引先との関係性が、採用での学生との関係性に似ている。官庁で見た制度設計の難しさが、社内企画の難しさに似ている。採用で感じた人の見方が、マネジメントや営業にもつながっている。そのように感じられるようになっていきました。


 私は運良く先輩や同僚に恵まれましたが、一定範囲の仕事では優秀でも、環境が変わると急に力を出しにくくなる人も見てきました。逆に、部署や仕事が変わっても、過去の経験をうまく持ち込める方はやはり優秀に感じられ高い評価を得ていたように思います。

 両者の違いはなんでしょうか。個人的には、前者は経験やスキルをそのままの形でのみ保存している。後者は、経験を一度抽象化して、別の場面に移せる形で捉えている。そのように考えています。

 知識も同じです。知っていることが多いだけではなく、それを別のものとつなげられるか。ある話を聞いた時に、「それは別の領域でいうと、こういう話に近い」と言う風に考えられるか。

 私は、世間一般的な考え方よりも、この広さが仕事での評価、キャリアにつながる「頭の良さ」に大きく関係していると思います。


速さ――理解、判断、行動、改善する力

 三つ目は、速さです。

 ここでいう速さは、単なる処理速度だけではありません。もちろん、処理速度は重要であり、組織で働く上でかなり重宝されます。実際、若手やスタッフクラスでは、速さはものすごく重要です。

 完璧でなくても、たたき台を早く出す。
 指摘を受けたら、すぐ直す。

 これができる人は、やはり伸びやすい。ただ、私がここで言いたい速さは、それだけではありません。理解、判断、行動、改善するまでの一連の速さです。

 何かを見て、理解する。
 →必要な情報を集める。
 →仮説を立てる。
 →実際に動いてみる。
 →うまくいかなければ修正する。

 このサイクルをどれだけ速く回せるか。これも、頭の良さの一部だと思っています。社会に出て痛感したのは、良いことを考えるだけでは現実は動かないということです。

 正しい分析をし、きれいな方針を立てる。それ自体は大切です。ただ、現実に落とし込まなければ仕事としては完結しません。

 誰に説明し、どの順番で進めるのか。
 どういう資料や根拠が必要なのか。
 どこまでなら今動かせるのか。

 こうしたことを考え、動かし、修正していく必要があり、このサイクルが速い人もやはり優秀です。また、速さは若手の武器であると同時に、経験を積んだ後においても、有事の際には非常に重要な能力だと思っています。


 ただし、一つ注意点として、速ければいいわけでもありません。深さがないまま速く動くと、間違った方向に全力で走ることがあります。広さがないまま速く動くと、非効率な前例踏襲や、部門間対立を引き起こしてしまうことがあります。特に経営層がこれらの轍を踏めば、事態は最悪です。

 速さは強力な武器ですが、単独では危うさもある。だからこそ、深さや広さと組み合わせる必要があると考えています。


◾️思考体力という有限リソースの配分

 ここまで書いてきて、一つ補足があります。深さ、広さ、速さ。この三つは独立した能力というより、土台となる思考体力の配分によって、頭の良さの種類は決まると考えています。

 更に面白いのは、深さ・広さ・速さは、ある程度トレードオフになることです。


 限られた時間の中で一つのテーマを深く考えれば、当然スピードは落ちます。逆に、処理速度を最大化する環境では、一つひとつを深く考える余裕は少なくなります。広く様々な分野へ思考を広げれば、その分だけ一つの専門分野を掘り下げる時間は減ります。

 つまり、頭の良さとは「何でも同時に高めること」ではなく、限られた思考資源を目的に応じてどう配分するかという問題でもある。

 一方で、その前提となる思考体力そのものは鍛えられると感じています。私の経験では、高い認知負荷の環境で長期間考え続けた経験を持つ人ほど、この思考体力が高いと感じる場面が多くありました。

 それは難関大学へ向けた受験勉強かもしれませんし、研究職、専門職として考え続ける日々かもしれません。また、外資系企業のような高負荷な仕事環境かもしれません。

 もちろん肩書きそのものではなく、「考え続ける経験」を積み重ねたことに意味があるのだと思います。つまり、頭の良さは才能だけで決まるものではなく、鍛えられる部分も非常に大きいと考えています。


◾️最後に

 結論として、頭の良さは一つの能力ではなく、「限られた思考リソースを目的に応じて配分し、その出力をどれだけ大きくできるか」なのだと私は捉えています。

 若手やスタッフクラスでは速さが重要になる。管理職や経営に近づくほど、深さや広さの比重が増していく。つまり、求められる頭の使い方は、役割によって変化します。

 学生時代は、一つの物差しで頭の良さが測られていました。しかし社会では違います。今の自分に何が求められているのかによって、使うべき頭の使い方も変わっていきます。

 だから私は、「頭が良い人」は一種類ではないと思っていますし、この整理も現時点での考えに過ぎません。数年後には、また違う答えにたどり着いているかもしれません。それでも、考え続けること自体が、長い目線で仕事で役立ち、自分自身の糧となる「頭の良さ」の土台になるのではないかと思っています。

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