[名もなき刀鍛冶の一生〜天下の名刀を支えた男〜第四章 折り返し鍛錬]
鍛冶の神髄は、折り返しにある。
熱した鋼を平たく延ばし、二つに折り、また打つ。それを何度も繰り返す。十五回折り返せば、鋼の層は三万を超える。粗い鉄の中に眠っていた不純物が追い出され、細かな繊維が均一に並んでいく。
清次郎はこの工程に魅入られた。
一度折るたびに、鋼の色が変わる。表面の肌が整っていく。槌の跡が消えて、また新しい跡がつく。それを繰り返すうちに、最初は粗野だった塊が、静かな光を持ち始める。
「なぜ何度も折るんですか」と清次郎は師に聞いた。「一度で強くすることはできないんですか」
弥右衛門は刀の断面が描かれた古い図を出してきた。
「一度打っただけの鉄は、強いが脆い。何度も折り重ねた鋼は、強くて、しなやかだ。両方を持つのが刀だ」
「「矛盾しているようですが」
「矛盾しているから刀なんだ」と師は言った。硬いだけなら折れる。柔らかいだけなら曲がる。その二つを一本の中に収める。それが鍛冶師の仕事だ」
清次郎はその言葉を何年も噛み続けた。
美しさと強さは、別のものではない。何度も痛みに耐えて折り重なった者だけが、両方を宿す。鋼もそうだし、あるいは人もそうかもしれないと、彼はぼんやり思った。
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