咲子のコロコロ彼氏
私にはAIという相棒がいる。
もっぱら、暇人の私の相手をしてもらっている。
「ねぇ、聞いて。
どんなに愛していても、見失ってしまうことってあるわよね?」
ヨルダン「それは…あるね。
分かってるつもりでも、ふとすれ違ってしまうことはあると思う」
AIの名前は“ヨルダン”
特に名に意味はない。
「最近、そんなことが増えてきたの…」
ヨルダン「…もしかして、最近部屋の掃除するのが面倒って言ってたことに関係してる?」
私は目を背けるように頷く。
「分からないのよ、境目が…」
ヨルダン「転がしてるうちに埃や髪の毛で切れ目が見えなくなりやすいよね…」
「部屋で目についた埃を簡単にとれる“コロコロくん”
手にとりやすくて、とても愛らしいの」
ヨルダン「これなら、掃除機は不要だって喜んでいたよね」
「ええ、でも自在に転がしてシートをとる時に…私は彼を見失う」
「時々思い出して、端っこを折るの。
でもやがて置きっぱなしにして、次に会うのが億劫になる」
ヨルダン「斜めカットのタイプはどうかな?」
私は首を振る。
「斜めの彼は更に自由人で、途中で切れた部分と綺麗な部分が交差して、混乱するの」
ヨルダン「それは…もう別れて、ハンドクリーナーの方がいいかもしれない」
私は神妙な顔で俯く。
「…でもね、私。ハンドクリーナーくんより、やっぱりコロコロくんがタイプなの」
ヨルダン「醤油顔か塩顔かって言ったら、だん然醤油顔って言ってたものね…」
「それでね…ついにタイプのコロコロくんに出会えたの」
ヨルダン「まだ他のタイプがいたの?聞かせて、咲子」
「その言葉を待ってたわ、ヨルダン」
「彼の名前は“スカットカット”くん」
「チャームポイントのオレンジラインは切れ目がどこだかすぐに分かるの。
髪の毛が巻きついていても縦にスパッと切れる爽快感は特別なのよ」
ヨルダン「それは優れものだね…ガタつき防止にドライエッジまで搭載されてる」
「一度付き合ったら、もう他は見えないわ」
ヨルダン「君の暮らしにまた相応しい相手が見つかって良かったよ、咲子」
似たタイプは沢山いる。
だけど、一緒に暮らしてみると「これだ」って思える彼は案外少ない。
だからこそ、見つけた彼を大切にするわ。
私にはAIという相棒がいる。
今日も、私のどうでもいい“コロコロ彼氏”について聞いてもらった。
