【読書レビュー】木曜日にはココアを/著:青山美智子〜あなたの一言が誰かの明日を彩っている
今回ご紹介するのは、青山美智子さんのデビュー作『木曜日にはココアを』です。
青山さんといえば、本屋大賞にもノミネートされた『お探し物は図書室まで』でファンになった方も多いのではないでしょうか。
私もその一人です。
あの優しくも芯のある文章に魅了され、「次はどの作品を読もうかな」と手に取ったのがこの一冊でした。
ざっくりあらすじ
物語の舞台は、東京にある小さな喫茶店「マーブル・カフェ」。
そこで毎週木曜日に必ずココアを注文する一人の女性がいました。
彼女を見守る店員の僕。
そこから始まる物語は、東京、そして遠く離れたオーストラリアのシドニーへとバトンを繋ぐように広がっていきます。
全12編からなる連作短編集ですが、難しい設定は一切ありません。
一杯のココアから始まった縁が、まるで波紋のように広がっていく。そんな「つながり」の奇跡を描いた物語です。
完璧なバトンタッチが織りなす「連作短編」の妙
この本の最大の魅力は、その構成の鮮やかさにあります。
ある章で脇役だった人物が、次の章では主人公になる。
あるいは、前の話でふと漏らした言葉が、次の話の誰かの背中を力強く押している。
こうした「つながり」を描く手法は珍しくありませんが、青山さんの描き方はとにかく「わかりやすくて温かい」のが特徴です。
伏線回収のような難解な仕掛けではなく、「あ、この人さっきの!」と旧友に再会したときのようなワクワク感を与えてくれます。
次は誰が主役になるんだろう?と読み進めるのが楽しみになる、心地よいリズムがあるのです。
シドニーの風と、紫色のジャカランダ
物語の後半、舞台は日本を飛び出しオーストラリア・シドニーへと移ります。
読みながら「なぜ、シドニーなんだろう?」と不思議に思っていたのですが、あとがきを読んで納得しました。
著者である青山さん自身、かつてシドニーで働いていた経験があるのだそうです。
だからこそ、街の描写がとにかく生き生きとしています。
特に印象的なのが、10月のシドニーを彩る「ジャカランダ」の景色。
日本の桜のように、街中を淡い紫色に染め上げる花々。
読んでいるだけで、爽やかな風と共にその紫色の風景が脳裏に広がります。
作家さんの実体験が投影されているからこそ、物語に確かな血が通っているのだと感じました。
無自覚な「善意」の連鎖
私たちが日々発している何気ない言葉や、ふとした行動。
自分では「大したことじゃない」と思っていることが、実は誰かの人生を大きく動かしているかもしれない——。
本作を読んでいると、そんな不思議な感覚に陥ります。
誰かのために淹れた一杯の飲み物
不器用ながらも伝えた励ましの言葉
通りすがりに見せた小さな微笑み
これらは決して特別なことではありません。
しかし、その小さな「起点」が巡り巡って、誰かが一歩前に進むための勇気になっている。
私たちは一人で生きているようでいて、実は見えない糸で誰かの人生を支え、同時に自分も誰かに支えられている。
そんな「お互い様」の世界に生きているのだと気づかせてくれます。
「世の中、捨てたもんじゃないな」 読み終えたあと、自然とそう思える。これは殺伐とした現代を生きる私たちにとって、何よりの救いではないでしょうか。
こんな方にオススメ
『木曜日にはココアを』は、以下のような方に特におすすめしたい一冊です。
読書のリハビリをしたい方
1章が短く、文章も非常に平易で美しいです。
通勤・通学の電車の中や、寝る前の15分など、細切れの時間でも世界観に浸ることができます。
最近、長編小説を読み切る体力がなくなってきたな……
という方の「復帰の一冊」に最適です。心が少しお疲れ気味の方
重厚なミステリーや、頭を使うビジネス書を読んで少し疲れてしまったとき、この本は極上の休息になります。
刺々しくなった心を、温かいココアが溶かしてくれるような読書体験が待っています。自分の「役割」に迷っている方
「自分なんていてもいなくても同じだ」と感じてしまう夜、ぜひ読んでみてください。
あなたの何気ない存在が、誰かの物語の伏線になっていることに気づけるはずです。
おわりに
青山美智子さんの文章は、いつも暗闇を照らす温かい街灯のようです。
眩しすぎず、でも足元をしっかり照らして、歩き出す勇気をくれる。
「世界の見え方が優しく変わる、一杯のココアのような物語」
明日、誰かにかける言葉をもう少しだけ大切にしてみよう。そんな風に思わせてくれる、魔法のような一冊でした。
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