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独立運動とEU(2014)

独立運動とEU
Saven Satow
Sep. 20, 2014

「自分の持ち船を漕げ」。
ギリシャの諺

 独立の是非を問うスコットランドの住民投票が2014年9月18日に実施され、反対票が多数を占める結果が示される。けれども、スコットランドは大幅な自治権の拡大の約束を英国政府から手に入れる。スコットランドは連合王国と離婚はしないが、家庭内別居することになったというわけだ。

 英国以外にも欧州にはスペインやイタリア、ベルギーなど国内に独立運動を抱えている国がある。スコットランドを含めこうした動きは以前から続いてきたが、活発化したのは東西冷戦終結後の欧州統合の拡大以降である。こうした独立運動はEUを前提にして青写真を描いている。

 二度の大戦の反省から欧州は域内での戦争を防止するため、エネルギーの共同管理を皮切りに統合を進める。この理想は東西冷戦終結後に現実味を帯びる。少なくともEU域内での国家間戦争はない。そのため、軍隊は目的を国防から再定義することが求められるようになる。隣国と戦争する可能性もなく、仮想敵も存在しない。国防のための軍隊は必要ない。

 そこで欧州各国は軍隊の目的を国際貢献に見出す。けれども、この概念の内容が明確になっているわけではない。政治的野心や国際的名声のために、他国の武力行使に加わることを安易に選んでしまう。9・11以降の米国の軍事行動に参加した結果、テロの標的になって、治安が悪化したデンマークがその一例である。

 戦争のない欧州を目指した統合が皮肉にも国家内の分離運動を促してしまう。戦争をするには兵士の数が多いほどよい。しかし、戦争がないのなら、人口が少ないコンパクトな規模の国でも心配ない。また、領土が大きければ敵の軍事行動にも時間や労力が要る。けれども、占領される危険性もないから、領土も小さくてかまわない。戦争の可能性がなくなった結果、今の国家サイズを維持する必要性が小さくなっている。

 欧州統合は戦争の防止が主目的であったが、それは多方面での相互浸透ももたらす。戦争に備えるならば、国家は安全保障に翻訳して制度を整備しなければならない。しかし、それがないのなら、多元主義的に国家間関係を考える必要に迫られる。そのため、欧州の統合は多方面に及ぶ。

 EUによる統合の多角化は独立した際のスイッチングコストを軽減させる。ユーロが好例である。通貨同盟に加わる各国の金融政策は原則的に欧州中央銀行によって一元的に実施されている。独立しても、新たな通貨制度をつくる必要がないので、金融システムの構造はさほど変わらない。

 独立運動が実現するかどうかはその地域の持つスイッチングコストに影響される。この費用は経済活動の考察の際に使われる概念である。使用している製品やサービスを別の代替財に乗り換える際にかかる総コストであり、それは経済的のみならず、身体的・精神的ものもも含まれる。新製品の性能が高く、価格が魅力的であっても、導入の手間や時間、習熟に要する労力、さらに以前に費やしたそれ、将来的な不確実性への不安などから現状維持を選ぶことがあり得る。この計算は年齢や性別、個々の事情によっても異なる。スイッチングコストはそろばん勘定だけでは量れない。

 統合の歴史が長ければ、さまざまな面で蓄積も多く、新たな制度設計や慣れの労力の大きさも予想され、将来の不確実性も不安になる。スイッチングコストが高くなり、現状維持派が多数になるだろう。スコットランドの場合、連合王国の歴史が長く、英国がEUの通貨統合に加わっていなかったなどスイッチングコストがいささか高い印象を民意が抱いたとも考えられる。これを小さく訴えられれば、結果が違っていたかもしれない。

 それはさておき、国家・国民の統合の歴史が浅い、あるいは中央政府からの抑圧が厳しくて将来の労苦はそれよりましだろうなどの条件があれば、スイッチングコストが小さいと認知され、独立の支持が地域で多数派を占めやすい。途上国を見れば、よくわかる。欧州にもそういう地域もある。中央政府はスイッチングコストを大きくする対抗策を打ち出すに違いない。それは独立した側だけでなく、された側にも生じるからだ。スイッチングコストは国際政治を考える際に今後重要な概念となる。
〈了〉

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