PCはペンとマウスの二刀流/右手は絶対、左手は相対(座標)
✅デスクトップPCを使うとき、私はマウスを左手で操作する。
こう言うと、少し驚かれることがある。私は右利きなので、普通に考えればマウスも右手で持つと思われるのだろう。でも、かなり自然なことだ。なぜなら、右手にはペンタブレット用のペンを持つから。
右手にペン、左手にマウス。キーボードは両手。これが、私のデスクトップPC作業の基本姿勢になっている。
PCは、ひとつの入力道具では足りない
私のPCの使い方は、わりと雑多だ。
事務作業もする。デザインもする。クリエイティブな作業もする。DTPもする。DTMもする。ゲームもする。
文章を書くときもあれば、画像を扱うときもある。文章に目を通すこともあればレイアウトを確認することもある。音楽ソフトを使うこともあれば、ゲームで反射神経を使うこともある。
つまり、PCは単なる文書作成機ではない。作業の種類によって、必要な操作感がかなり違う。だから私は、PC操作をひとつの入力装置に任せたくない。
キーボードには速さがある。ペンタブには直感性がある。マウスには安定感がある。それぞれに得意なことがあるなら、全部使えばいい。
キーボード+ペンタブ+マウス派
私のPC操作は、基本的にキーボード、ペンタブ、マウスの三点セットで成り立っている。
キーボードは、文字入力とショートカットのため。ペンタブは、書く・なぞる・注釈する・細かく指すため。マウスは、クリック・スクロール・メニュー操作・ウィンドウ移動のため。
この三つは、同じPCを操作する道具でありながら、身体感覚が違う。そう考えると、入力装置を切り替えることは、単なる効率化ではない。作業ごとに身体の使い方を変えている、という感覚に近い。
キーボードは当然、両手で使う。右手も左手も使う。文字入力もショートカットも、両手が前提になっている。だから、PC作業はそもそも片手作業ではない。そう考えると、キーボードを使うとき以外は右手にペン・左手にマウスという構えも、それほど変な話ではない。
マウスで意外と重要なのはホイール
左手マウスの価値は、クリックだけではない。むしろ重要なのはホイールである。
スクロールする。拡大縮小する。ページを送る。タイムラインを動かす。画面の位置を微調整する。
こうした操作は、ペンを持った右手でやるより、左手のマウスホイールに任せたほうが気持ちいい。
右手はペンを持ったまま、左手の指先だけで画面を送る。これがかなり大きい。
マウスはカーソルを動かす道具でもあるが、ホイールは少し違う。カーソルそのものを動かすというより、画面、ページ、時間軸、倍率を動かすための操作である。
だから、ペンと競合しにくい。右手は対象を指す。左手は世界を送る。
そう考えると、左手マウスはかなりしっくりくる。
ペンは絶対座標、マウスは相対座標
最近、自分の中でかなり腑に落ちた整理がある。
ペンは絶対座標。マウスは相対座標。
ペンタブのペンは、基本的に画面上の位置を直接指定する道具である。タブレット上のこの場所にペンを置くと、画面上のこの場所にカーソルが来る。ペンタブメーカーのWacomの説明でも、ペンモードは絶対位置、マウスモードは相対位置として整理されている。
一方、マウスは、いまカーソルがある場所からどれくらい動かすかを指定する道具である。画面上の絶対位置を指すというより、現在地からの移動量を与える。
同じカーソルを動かしていても、脳内では別の役割として扱いやすい。だから、右手にペン、左手にマウスを持っていても、思ったほど競合しない。
これは、単なる慣れではなく、かなり合理的な役割分担なのではないかと思っている。
カーソルの競合は、脳が勝手に処理
ペンもマウスも、どちらもカーソルを動かす道具だ。だから、外から見ると競合しているように見えるかもしれない。
でも実際には、あまり混乱しない。慣れると、どちらを使うべきかを脳が勝手に振り分けてくれる。
この感覚は、学術的にも突飛ではないようだ。人間の両手作業については、利き手と非利き手が同じことをするのではなく、違う役割を持って協調するという考え方がある。Guiardの両手動作モデルでは、熟練した手作業の多くが、左右の手による非対称な役割分担として説明されている。
私のPC操作に当てはめるなら、右手のペンが細部を扱い、左手のマウスが文脈や移動を支える。これはかなりしっくりくる。
同じカーソルを扱っているようで、実際には別の座標系、別の役割、別の身体感覚を使っているのだと思う。
脳トレというより、手の使い方が増える
左手マウスは、脳トレになるのか。
右利きの人が左手でマウスを使えば、普段とは違う運動制御を使う。視線と手の動きを合わせ、細かいクリックや移動を練習することになる。また、右脳への刺激にもなる。
実際、非利き手でマウス操作を訓練した研究では、非利き手のマウス操作が上達し、さらに利き手側にも一部改善が見られたと報告されている。これは、片側の訓練が反対側にも影響する例として扱われている。
つまり、非利き手マウスは魔法の脳トレではないが、手と目と脳の使い方を増やす練習にはなる。私としては、非利き手も仲間に入れた全身を喜ばせる訓練になると思っている。
たぶん、速度も少し上がっている
作業速度も、いくぶんか上がっていると思う。劇的に速くなるというより、持ち替えが減る。ここが大きい。
右手でペンを持ったまま、左手でスクロールする。右手で注釈しながら、左手で画面を動かす。必要になれば、両手をキーボードに戻して入力する。
一つひとつは小さな差だ。でも、PC作業では、その小さな差が積み重なる。
人間とコンピュータの相互作用を扱うHCI研究でも、両手入力は古くから論じられてきた。
Toolglassのような研究では、片手が道具や文脈を動かし、もう片方の手が対象を操作するという発想が示されている。
両手入力には、手作業としての利点だけでなく、認知的な利点もありうると論じられている。
次は、左手に何を持たせるか
そして最近、気になっているのが、一般に左手デバイスやクリエイティブコントローラーと呼ばれる補助入力装置である。
以前はLoupedeckのような製品が、その代表例のひとつだった。ダイヤル、タッチボタン、ホイール、物理ボタンを備え、作業内容に応じて操作を割り当てられる。しかしLoupedeckは2025年3月に販売を終了し、その開発はロジクールのMX Creative Consoleへ引き継がれる形になった。旧ソフトウェアのサポートも2026年3月で終了している。これから導入する製品として考えるなら、別の選択肢を見る必要がある。
現在の左手デバイスには、いくつかの方向性がある。
TourBoxのように、形の異なるノブ、ダイヤル、スクロール、ボタンを指先の感覚で使い分けるものがある。Stream Deck+のように、機能名を表示できる液晶ボタンとダイヤル、タッチ部分を組み合わせるものもある。MX Creative Consoleは、表示付きのキーパッドと大きなダイヤルを分けて配置する。さらに2026年には、ジョイスティックや複数の回転操作部を備えたXPPenのPilot Proも登場した。単なるショートカットキーの箱ではなく、回す、送る、選ぶ、切り替えるという操作を左手に集める方向へ、製品が発達している。
これは、左手マウスの延長線上にある話だと思う。考えてみれば、私が左手マウスに求めているものも、クリックよりホイールに近い。
回す。送る。拡大する。縮小する。ページを移る。時間軸を動かす。道具や数値を切り替える。
ただし、左手デバイスはマウスと同じものではない。
マウスは、カーソルを現在地から別の場所へ動かす相対座標の装置である。メニューを選び、ウィンドウを動かし、対象をドラッグすることができる。一方、多くの左手デバイスが得意とするのは、あらかじめ割り当てた機能を呼び出したり、倍率や数値を連続的に変化させたりすることだ。
つまり、左手マウスを左手デバイスに取り替えれば、それだけで上位互換になるわけではない。
右手のペンは、画面上の対象を直接指す。左手のマウスは、現在地からの距離を動かす。そして左手デバイスは、倍率、時間、道具、画面の状態を変える。
ここまで分けて考えると、入力装置の役割は、絶対座標と相対座標の二種類だけではなくなる。左手デバイスは、座標を動かす装置というより、作業の文脈を動かす装置なのかもしれない。
私の場合、左手マウスを完全に手放す必要はなさそうだ。文章、校正、DTP、一般的なファイル操作では、左手マウスの汎用性が高い。一方、画像編集やDTMなど、同じ調整を繰り返す作業では、ダイヤルやホイールを備えた補助デバイスが役立つ可能性がある。アプリごとに設定を切り替えられることも、現在の製品では重要な特徴になっている。
そう考えると、次の課題は、左手マウスを何に交換するかではない。
作業に応じて左手の道具をどう切り替えるか。あるいは、マウスと補助デバイスを机の上にどう共存させるかである。
右手にはペン。左手にはマウス。その基本形は残る。
その隣に、画面の距離や時間や状態を動かすもうひとつの装置を置く。PC作業をさらに身体化するとすれば、次の一歩は、そのあたりにあるのだと思う。
デスクトップPC工夫の面白さは、まだそのあたりに残っている。
