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東大医学部アメフト部で、人はどう育つのか——「良き社会人になるために」

東大医学部アメフト部。

そこでは、ことあるごとに“ある言葉”が繰り返されている。それが、

「良き社会人になるために」

高校生の頃は、大学生が大人に見えるもの。

大学生の頃は、社会人が大人に見えるもの。

そして、社会人になりたての頃は、先輩社会人が大人だと思っていました。

私は今、不惑――40歳を過ぎたころ。

かつての私が思っていたほど、私は大人になれていない。

当たり前のように悩み、当たり前のように苦しみ、それでも、生きている。

そうして過ごす中で、ふと思うことがあります。

「あぁ、あの出来事は、このためにあったのだな」と。

学生時代の出来事ならば、20年の歳月を経て。

幼少時の出来事ならば、およそ40年の歳月を経て。

かつての出来事が再び、新たな意味合いをもって、私の前に立ち上がってくるのです。

『教育の本当の価値は、後から分かる』

私たち、東大医学部アメフト部SCORPIONS(スコーピオンズ)が追い求める、座学だけでは埋まらない『何か』。

そこに、人生という時間軸で捉えた『教育の本質』がある気がしています。


▪️人間になりたかった

晴れて東大理三に合格した時、私にはある決め事がありました。

「SCORPIONSにだけは、入らない」

幼稚園、小中高、大学、全て、2歳上の兄と同じ道を歩んできました。

医療一家の次男として生まれ、育つ。

ごく自然に、良くある話として、兄の後を追う選択を重ねてきました。

ですが、その内面は

「兄の二番煎じではなく、自分自身の人生を見出さねば」

との想いが。

分かりやすい表現型として、同じ部活だけは避けようと考えていたのです。

代わりに、何を基準に大学生活を過ごしたいかも、決まっていました。

想いは一つ——『人間になりたい』

受験勉強に打ち込むうちに、零れ落ちてしまったものがある。

だから、自分の“情動”が最も揺さぶられる場所に、身を置くことを決めていました。

それが、まさか兄の所属するSCORPIONSになるとは、露ほども思っていませんでした。

▪️失って初めて、その価値が分かる

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」

——人間とはそういうもの。御多分にもれず、私も。

入学時の決意など、どこ吹く風。

夏になるころには、ごくごく普通の、ごくごく平凡な、当たり前の青春を謳歌していました。

適当に授業に出て、適当に遊び、適当に部活に参加。

自分なりに、一生懸命でした。

ですが、本当に、自分なり、でした。

初めての夏合宿。初めての公式戦。そして、初めての引退式。

それら全てが終わった時、残ったのは、後悔の念と喪失感。

私は愚かで、人生で大切なことを、何もわかっていませんでした。

1年生のお前らには、正直、意味が分からないだろうけれども。
俺たちにとっては、そこが勝負やねん。修羅場やねん。
意味は、後から分かったらいい。マジで、頼むぞ!!

2004年秋 あるScorpions先輩のセリフ

▪️校訓のない東大、部訓のないアメフト部

季節は移ろい、先輩として過ごす日々が始まるころ。

東大の他学部に進学した、中高の同級生と再会します。

俺さ。外資系にいきたいんだよね。
だから、今から就活しなきゃいけないの。
エントリーシートとか、自己分析が必要で。
乾はさ、どうして医者になりたいの?
どうして、アメフト部を選んだの?

2005年春 ある中高同級生のセリフ 

文字通り、言葉に窮します。

——『あれだけ拘ったはずの“自分らしさ”を、全く言葉に出来ない。一体、何をしているんだろう』

そうして、自分自身のアイデンティティーを探し求めるように。

そうして、気付きます。

「東大生“らしさ”って、なんだ?」
「アメフト部“らしさ”って、なんだ?」
「そもそも、東大には、校訓がない*じゃないか!!」
「アメフト部にも、部訓がないじゃないか!!」

私にとって「良き社会人になるために」という言葉は、一つの指標として必要不可欠なものだったのです。

*2018年、東京大学は「志ある卓越。」を公式キャッチコピーに制定。

東京大学コミュニケーション戦略本部より

▪️物理的な旅、精神的な旅

様々な『問い』を抱える私にとって、SCORPIONSは特別な場所でした。
当時の読書体験で、印象深い一節があります。

世界一周旅行など、物理的な旅をする学生は増えた。
でも、その一方で、精神的な旅を経験していない人が増えたように思う。
本当に学生時代に必要なのはどちらか、明らかでしょう。

2007年春 とある「採用人事」に纏わる読書の記録

私にとってアメフトの魅力は、競技スポーツとしてよりも、「人間らしさ」を獲得する場所として、唯一無二のものとなっていきました。

アメフトでは、喜びも悲しみも、楽しさも寂しさも、誇らしさも惨めさも、多くの種類の感情を味わいました。

こうした原体験は、その後の人生の“伸びしろ”を大いに広げてくれました。

人生という時間軸で捉えてみると、『情動の振れ幅の大きさ』という一点において、なにもかもが素晴らしい。

読書や旅行だけでは決して得ることができないもの。
そして、読書や旅行との相乗効果によってこそ、真価を発揮するもの。

こればかりは、実際に、当の本人が経験することでしか、腹落ちしないものだと思うのです。

▪️自分で自分を信じる力

アメフトへの没頭——私の中に、理屈を超えた熱狂が宿っていました。

そのような境地に至った経緯、“過去”を説明することは出来ても、
自分の奥底にある渇望、“未来”を上手く言葉に出来ませんでした。

20年の歳月を経た今なら、わかる。

私が求めていたもの、それは——

『自分で自分を信じる力』

いついかなる逆境だとしても、己の尊厳を失わず、人の役に立つべく、奮い立つ。

もう一度、自分で自分を信じてみようと思う。
良き社会人であるために。
何度でも、何度でも。

▪️AI時代の答え合わせ

『教育の本当の価値は、後から分かる』

昭和に生まれ、平成に青春を過ごした私にとって、この考えは自然です。

ですが、今や時代は令和。価値観が変わりゆくのも当然です。

初めて「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉を知った時には、相当な衝撃を受けました。

限られた時間の中で、効率性を求めるのは合理的です。

AIが台頭するこれからの時代、その動きはますます加速していくことでしょう。

その一方で、人々の営み、人間の本性——変わらぬものも、確かにある。

人生において本当に大切なものを手にするためには——コスパやタイパが悪そうな選択肢こそが、もっとも近道である可能性もあるのです。

その当時は、それが教育であるという認識がなくとも。
振り返ってみると、結果的に、それが教育だったということがある。

そうであるなら、令和の時代のあるべき部活とは、どのようなものか。

このシリーズは、今を生きる現役生一人ひとりにインタビューすることで、『AI時代における教育の在り方』についての洞察を得ようとする試みです。

答え合わせはきっと、20年後。

次回以降、幹部学年を経験したSCORPIONS現役生の実像をお届けします。

続編に関心のある方は、ぜひフォローしていただけますと幸いです。

乾 雅人

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