2026年6月 新章スタート(中編)
なぜスクウェア・エニックスに入社しようと思ったのか?
スクウェア・エニックス入社前からスマートフォンタイトル第1作目を請け負う開発会社として関わっていました。代表作としては、クリスタルディフェンダーズ、国破れて山河あり、ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律 完全版になります。特にソングサマナーというタイトルは、クリックホイール版のiPod上でプレイできるゲームとしてかなり異色なプロジェクトであり、それについては詳しくここで述べることはできませんが、個人的にもかなり思い入れのあるタイトルです。私は、スマートフォン版で開発ディレクターという立場で関わりました。
クリスタル・ディフェンダーズ
国破れて山河あり
ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律 完全版
スマートフォンのタイトルは、ご存じの通りスクウェア・エニックスでは数多くリリースしていますが、元々私はApple製品(iPodシリーズ)が大好きでほぼ毎回iPodを購入していたガジェットオタクでした。当時仕事の縁もあり、スクウェア・エニックス スマートフォン第1弾タイトルであるクリスタルディフェンダーズの移植を担当させていただくことになりました。
その後、第2の国破れて山河あり、第3弾のソングサマナーに携わることになります。当時は有料落としきりのビジネスから始まり、国破れて山河ありでは、DLCコンテンツを導入。ソングサマナーでは、iPodらしく楽曲の情報から戦士を生み出すというゲームデザインだったため、ディレクションの傍らゲーム内でiPodのアプリのようなUIを独自に構築し、速度チューニングまでを私がプログラマーとして担当しました。
当時、iPod周りのAPIはかなり不安定且つ、メモリも限られていたこともあり、iPodの ミュージックプレイヤーレベルのクオリティに持っていくことはかなり難しかったですが、それでもアップルのWWDCなどに参加し、エンジニアに実物を見せてはチューニングやレビューなどをいただき、最終的に製品として出荷するところまで持っていくことができました。そこまで情熱をかけてやれたのも、私がアップルの製品に対して、愛情を注いでいたからかもしれません。通常であれば曲リストを取得し、曲を表示、選択といった簡素なUIで済んだかもしれませんが、可能な限り滑らかで動作するiPodのUIを再現したいと思い、日々チューニングに励んでいました。
前置きは長くなりましたが、こうしたスマートフォンの開発タイトルの経験を踏まえて、今後より加速するであろうこの市場への期待値と同時に開発タイトルが増え、品質が求められることに対し、技術サイドでディレクションする人間を社内にしっかり配備していく必要性があると感じ、スクウェア・エニックスへの入社を決意しました。
スマートフォンのタイトル開発は、案件数が増えやすく、開発を外部依存せざるを得なかったので、進行や品質面で社内側にもディレクションできる人員配備の必要性は、自分が態度でみせていくしかない!と思い、あらゆるスマホ開発案件の現場にプロデューサーと同行し、社内外で信頼を獲得していくことから始めました。プロデューサーは、技術に対して疎いことも多かったため、テクニカルディレクターとして同行し、開発会社とのコミュニケーションの間にはいることで開発の折り合いをつけていくということも仕事のひとつでした。
元々小さい会社のバイトで開発から入ったこの業界ですが、開発体制は整っているとはいえず、力業でなんとかすることが多かったことに疑問を感じ、マネジメントも早期から経験していたことがこうした行動力につながり、結果信頼いただけたのかもしれません。
プロジェクト テクニカルディレクターから全社支援型 テクニカルディレクターへ
現場とプロデューサーをつなぐモバイル開発における テクニカルディレクターという職種が社内でも浸透し、組織作りも行いました。それだけこの職種の重要性が会社に理解されたことは個人的にも達成感があり、多くの仲間も増え、スクウェア・エニックスの在籍中14年間の1/3の時間をその業務に費やしてたことになります。
今だから書きますが、スクウェア・エニックスへの入社後は、数年で退職する予定が自分の中でありました。入社前の10年間は、本当に様々な経験をしてきたこともあり、仕事とは自分のやるべきことをその職場でやりきり、次の現場へ…というのが染みついていたからかもしれません。
しかし実際は、スマートフォンタイトルの売上が会社の柱の1つになったこともあり、タイトル数は想像以上に増え、人も増え、自分を必要としていただける機会も権限も増えていくことにつながりました。
まだ、やるべきことがこの会社にはある。そう考えた時、特定のプロジェクトのテクニカルディレクターではなく、全社貢献型で支える立場に異動したいと思っていた際に、1stパーティなど含むプラットフォーマーとの折衝など全社的な業務を行う部署に異動するチャンスが巡ってきたため、すぐに異動を行い、私はモバイル側の方をまかせてもらいました。
大変ありがたいことに、テクニカルディレクターとして社内へ最新の情報をフィードバックするための視察や出張に加え、ほぼ毎年Google I/O / WWDCに参加し、技術面だけではなく、プラットフォーマーの社員との直接のディスカッションなど、大変貴重な経験をさせていただき、シニアマネージャー、部門長を経験してきました。
会いたかったーではなく、会いに行くテクニカルディレクター
海外への出張も多かったですが、英語が流暢なわけではありませんでした。もちろん同行する社員に助けてもらうことが多かったですが、元々英語は嫌いではなかったため、プレゼンする場合は、英語で資料を作り、セリフはある程度頭に入れて、喋るようにしました。途中詰まったとしてもたじろいではいけません。なんとか喋るということが大事だと思います。こういった経験は、度胸がつきますし、相手が重役であればあるほど重要です。
英語は不慣れでも毎年渡米し、顔を出すことで覚えてくださります。どれだけ有名な企業であっても、一度きりのSay Helloは、強烈な個性を出さない限りは、覚えていないことが多いためです。とにかく会いに行くこと。それが大事です。その機会を会社側が用意してくださるのですからこれ以上恵まれていることはないと思っていました。今でも感謝しかありません。
自分のスキルを活かし、大きな課題解決による貢献での認知、ポジショニング
ここから比較的エンジニアリングよりの話になりますが、ご容赦ください。私は元々ツールプログラマーとして仕事をしてきた経験も多く、大手企業に入り、全社支援型の仕事をすることで業務プロセス全体を把握することができる機会も多かったため、特にプロデューサーが多く、外部開発者を多く抱えるスクウェア・エニックスのモバイル開発における課題解決も重要な仕事でした。
インターナルなプロセスの改善もそうですが、当時モバイルにおいては、外部からソースコードを受領し、社内でビルド、出荷するというのが当たり前のように行われていました。
開発会社によってソースコードのビルドツールやビルドパイブライン、ビルド環境のOSなどが異なるため、これらの環境を都度用意し、マスター用ビルドなどを作ることはむちゃくちゃ大変な仕事でした。
こうしたモバイルゲームの開発環境は、そもそもビルドから出荷まで同じ会社で行われることが想定されており、特にiOSにおいてはこの問題が顕著に出ました。iOSでは、Xcodeと呼ばれるビルドツールでソースコードにプロビジョニングを指定し、ビルドし、バイナリを生成します。それをインストールするためのデバイスもプロビジョニングによって厳格に管理されています。
エンタープライズ用に用意された方法で解決出来る部分もありましたが、セキュリティ的なリスクもあり、なかなか全社的に号令を出すのは想像以上に難しい状況でした。
今でこそ、TestFlightが普及し、テストの配布方法などもオンライン上で手軽にできるようになっていますが、その環境が提供されるまでは、先に書いた通りアカウントごとに登録できる端末数も決まっていたので、実行バイナリを再ビルドせずに紐付くアカウントの情報を書き換える必要がありました。
(Androidは、そういった制約が基本的にないため、端末に好き放題インストールしやすい環境ではありました。故にリスクも伴いますし、端末管理も大変です)
しかし、アカウントの情報を書き換える=ソースコードからビルドし直すというのが定石だったため、これをなんとかすべく、iOSのバイナリ署名の仕組みを研究し、今でも有名なソフトウェアfastlaneが実装していたiOSの署名のコードやiOS Developerのドキュメントなどを探り、社内用の署名プログラムとプロデューサーでも利用できる内製サイトを作成することにしました。元々この署名処理は、あまり公式では触れられることは多くなく、AppleとしてもXcodeでビルドしてほしい状況でした。故にWWDCで渡米した際にエンジニアラボで直接エンジニアに質問し、詳しい人に自分がやっているプロセスが正しいのかどうか確認し、環境を構築しました。
それによって、ビルド不要且つ、プロデューサーやQAチームが開発から受領したバイナリを目的別に署名をし、インストール端末を切り替えることができるようになったため、ビルド時間が不要となり、大幅な業務効率化が実現できました。その頃には、開発部門だけでなく、出版部門もアプリをリリースしていたので、この仕組みを社内に説明し、セットアップすることで全社的に接点にもつながり、社内での認知も拡大することになりました。
おそらく技術力のある会社様から見るともっと良い方法がある。と思われてもおかしくありませんが、少人数でルールを決めるのはコミュニケーションコストがかなり低いので、比較的楽だったりします。しかし、大手企業ともなると、モバイルアプリを担当する部署やチームが多く、全社的なルールを作り、実行するまでにヒアリングや調整、必要機材の調達の依頼など…コミュニケーションや交渉が不可欠であり、やりきる胆力が求められますがその分見返りも大きくなります。
実績・貢献の証人の数だけ信頼につながる
自分の仕事の領域でやるべきことをやるのは会社員としては、当然ですが、それが会社にとってどれだけ影響を与え、どれだけの人が救われるかで、結果として、実績に対する認知と証人の数となり、次の仕事への信頼につながります。結果、仕事の幅も増え、社内で食いっぱぐれることはなくなっていくでしょう。会社員は、給与がもらえる安定に加え、こうしたクリエイティブな仕事においては、自分に対して一定のニーズがある状況を作っておくことは重要だと考えています。
新規事業、部署設立、そして…
⇒後編に続く
