【私学列伝 本郷中学校・高等学校】
本郷中学校・高等学校(東京都豊島区)が難関進学校へと変貌した経緯は、大きく4つの段階に分けて整理できます。
1. 創立期(1921〜1948年):実業家肌の総合校としてスタート
1921年5月、高松松平家12代当主・松平頼壽が「本郷中学校設立準備委員会」を発足させ、1923年4月に(旧制)本郷中学校を開校。当時は中等教育が急速に普及する一方で官公立の中学が少なく、地元からの進学が困難だったことに加え、教育界が知育偏重・画一的な教育に偏っていたことを憂い、松平が設立に踏み切ったという経緯があります。
1948年の学制改革で現在の「本郷中学校・高等学校」に改称。
2. 総合学園期(1950〜80年代):普通科+実業系学科、部活動の全盛期
進学校というより「文武両道」の総合校として発展した時期です。
1959年に工業課程機械科、1966年にデザイン科を併設し、普通科・理数科・機械科・デザイン科の4学科体制に。
クラブ活動が非常に盛んで、ラグビー部は1985年の全国大会で準優勝するなど、ラグビー・サッカー・漕艇の名門校として知られていました。
3. 進学校化への転換期(1985〜2002年):学科整理と中高一貫化の布石
ここが本郷の性格を大きく変えるターニングポイントです。
1985年、理数科を新設(大学進学志向の学科を初めて明確に設置)。
1988年、中学校の生徒募集を再開。これが後の中高一貫体制構築の布石となりました。
1992年に機械科を電子機械科に改称、1996年に電子機械科・デザイン科の募集を停止するなど、実業系学科を段階的に縮小。
そして2002年、第7代校長・高橋雄氏のもとで理数科の募集を停止し、高等学校に「特進コース」を新設。これが「普通科・進学校」への完全な舵切りとなりました。
4. 本格的な進学実績向上期(2002年〜現在):仕組みで学力を底上げ
この時期に導入された具体策が、近年の東大・京大などへの合格実績急伸の直接の要因とされています。
本数検(本郷数学基礎学力検定試験)の実施:毎年4月・9月・1月の学期はじめに中高一貫で行う独自の数学検定。上位級取得者を全校集会で表彰し、掲示するなど、生徒の自主的な学習意欲を刺激する仕組みとして機能しています。
自学自習を軸にした指導方針:補習を増やすのではなく、生徒自身の自主性を育てる方向にシフトしたことが、当時の報道でも取り上げられています。
カリキュラムの前倒し:中高一貫の強みを生かし、高1段階で高2までの学習内容を終え、高2以降は志望大学別の選択授業制に移行。
2004年に海外研修を開始するなど国際教育も強化。
特進コースは入試での選抜ではなく、入学後の学業成績・素行・本人の希望を踏まえて高校段階で選抜される仕組みになっている点も特徴的です。
近年はICT教育も強化し、生徒全員がChromebookを購入して使用し、予習・復習の効率化や文化祭での過去問解説動画作成など主体的な活用が進んでいます。
5. 完全中高一貫化(2016〜2021年)
2016年、第9代校長・佐久間昭浩氏、第4代理事長・松平頼昌氏が就任し新体制に。
2021年度入試より高校からの募集を完全停止し、完全中高一貫校へ移行。中入生・高入生の進度差という制約がなくなり、6年間を見据えた一貫指導がさらに徹底できるようになりました。
2002年の特進コース新設・理数科廃止は、単年度で結果が出る施策ではなく、「入学後の選抜制特進コース」+「本数検による動機付け」+「高1での先取り学習」という仕組みが数年〜十数年かけて定着し、2018年前後から東大合格者数が二桁に乗る年が増えてきたと解釈できます。
2018年の17名→2019年の5名という大きな落ち込みが示すように、進学実績は単線的に伸びたわけではなく、学年ごとの浪人・現役比率や卒業生数の変動の影響も受けています。テレ東の特集(2022年)で「ここ20年間で進学実績が急上昇」と評されているのは、この2002年前後を起点とした20年間のトレンドを指しています。
2021年の完全中高一貫化は、高入生との進度差調整という制約をなくし、6年間の一貫カリキュラムを最大限使えるようにする施策で、2022年以降の実績(東大13名→23名)の伸びと時期的に符合します。
大学合格実績(一部のみ)

1998〜2002年:偏差値43→58、実業系学科の整理(1996年)と特進コース新設(2002年)による土台作り。東大はまだ1〜2名だが、理科大は早くも29〜37名と理系での存在感を見せ始める。
2003〜2007年:偏差値56〜59で足踏みしつつ、早慶理科大が緩やかに二桁後半〜50名台へ。
2008〜2010年:私大爆発期。早慶理科大が軒並み倍増(52→111、52→110)。特進コース1期生の実績が本格的に花開く。
2011〜2013年:理科大だけ谷を経験しつつ、東大は5〜7名で安定。
2014〜2016年:早慶ピーク(早稲田176名)。この時期は偏差値自体は56〜58とやや低かったにもかかわらず実績は絶好調という、偏差値と実績のねじれが見られる。
2017〜2021年:完全中高一貫化(2021年)に向けた移行の踊り場。
2022〜2025年:偏差値・東大・早慶が揃って着実に回復・上昇。
2026年:偏差値61・東大(23)・早稲田(179)・慶應(135)・理科大(203、現役合格率全国1位)のすべてが過去最高を記録し、29年間の改革が結実。
私評
35年前の本郷は、近隣に巣鴨学園、海城、城北学園などがあり、進学校としてはいまひとつの実績だった。もっとも、同じく近隣にある郁文館、京華、京北、駒込という文京区の冴えない私立四天王よりは幾分かは評価は高かった程度で、同レベルとしては獨協、成城よりやや見劣りしていた。進研模試の偏差値では64程度の学校だった。
本郷の本気度は、伝統ある機械科・デザイン科を廃止した事が大きいだろう。また、交通の便の良さ(巣鴨駅から徒歩3-5分の至近さ、都内からでなく千葉・埼玉からも1時間以内で通学できる利便性など)もあり、成城(2000年に牛込柳町駅が出来るまでは最寄駅から徒歩15-20分)、獨協(最寄駅から徒歩10分、急な坂道あり)、巣鴨(最寄駅から徒歩10-15分)、城北学園(最寄駅から徒歩10-20分)よりも通学の良さも学校選びの判断材料となったと思う。
巣鴨駅寄りの校門近くにはピンサロやソープランド(2020年9月に廃業)などが営業している、かなりアングラな風俗街であるが、本郷の難関校化に合わせたかのように、名門ピンサロ店は徐々に廃業していった。ピンサロ御三家のひとつ、名物“スタンディングクンニ”で一世風靡したマドンナも2020年に閉店している。安全地帯という御三家のひとつも、一度閉店し、2011年に『恋するヴィーナス』の名前で復活するも2017年に閉店した。現存する御三家はビックワンのみである。今は5店舗ほどになっているとの事。
かつては新新御三家(本郷・世田谷学園・芝?)という受験産業によるネーミングもあったが、芝は安定した名門度と難易度、進学実績をキープしつつ、世田谷学園は当時より躍進したが、本郷には大きく差をつけられた。成城も本郷に遅れつつも難関校入りに虎視眈々、獨協は噂では共学化に向かうとの未確認情報もある。
2026年は、東京理科大学の合格者数が全国1位を叩き出す快挙を成し遂げた本郷だが、今は早慶上理全国5位(545名)だが、実は医学部にも強く、国公私立大医学部合格者数は31位の72名(巣鴨は21位で87名)という側面もある。
国公立大学合格者数は126名、ちなみに他の都内男子校は下記の通りである。
海城:175 駒場東邦:133 桐朋:134
巣鴨:108 芝:114
攻玉社:78 城北:85 世田谷学園:63
高輪:37 成城:51 獨協:12 足立学園24
早慶上理にも、医学部にも、国公立大にも、オールマイティに合格できるという位置づけは、正直言うと今後の成長性に不安がある。どれに対しても中途半端な学習指導になってしまう危険性もあるからだ。既に本郷は都内では準トップクラスの難関校となっていて、それを東大志向の学校にするか、理系・医学部系に強い学校にするか、早慶上理の生産牧場にするか、今後の実績が気になるし大いに期待したい。
