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『面(おもて)』第七話 舞の意味

翌週の土曜日も、私は神楽の稽古へ向かった。

もう足は、公民館までの道を覚えていた。

戸を開けると、太鼓の音が迎えてくれる。

笛が鳴る。

鉦が重なる。

その音を聞くだけで、胸の奥が静かに震えた。

私は面を持たずに歩く。

一歩。

また一歩。

叔父は何も言わない。

ただ見ている。

歩き方が少し変わった。

そう思えたのは、自分だけではなかった。

「昨日より、力が抜けたな。」

叔父が小さく笑った。

その一言が、うれしかった。

稽古が終わると、叔父は神楽道具を片づけながら言った。

「神楽は、見せるために舞うもんじゃない。」

私は手を止めた。

「神様へ奉納するものだ。

だから、うまく見せようと思った瞬間に、舞いは崩れる。」

私は黙って聞いていた。

東京では、目立つことばかり考えていた。

人より前へ。

人より速く。

負けたくない。

そんな毎日だった。

けれど神楽は違う。

競う相手はいない。

拍手を求めるものでもない。

静かに、一歩ずつ積み重ねる。

その積み重ねだけが、舞になる。

帰り道、父が車を走らせながら言った。

「おばあちゃんが生きてたら、喜んだろうな。」

私は窓の外を見た。

返事はできなかった。

街灯が流れていく。

祖母の笑顔が、ふっと浮かんだ。

あの小さな手。

祭りの日。

段ボールの権現様。

「上手だなぁ。」

あの一言が、今になって胸の奥で響いていた。

私は初めて思った。

神楽を受け継ぐということは、

舞を覚えることではない。

人の想いを受け継ぐことなのだ。

車は家へ着いた。

夜空には、無数の星が瞬いていた。

私はしばらく空を見上げていた。

その静けさが、ゆっくりと胸の奥へ染み込んでいく。

そして私は、その年の祭りで舞うことになるとは、まだ知らなかった。



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