「投票所を増やす」ために「開票を減らす」― 電子化で生まれた余力を投票機会の拡大へ ―
選挙を支えている大量の人と時間
選挙のたびに、多くの職員が開票作業に動員される。
投票箱を開け、投票用紙を一枚ずつ確認し、候補者ごとに分類し、疑問票を判定し、枚数を数え、何度も確認する。
選挙は民主主義に欠かせない一方で、その裏側には大量の人と時間が投入されている。
もし、この作業をデジタル化して省力化できたら、その「浮いた人」と「浮いた時間」を、別のところに使えないだろうか。
その一つが、投票機会の拡大である。
電子投票は開票のための人を減らせる
大阪府四條畷市では、2024年の市長選挙と市議補欠選挙で電子投票が導入された。
タブレット端末で候補者名を選択する方式で、開票作業は前回選挙の4時間25分から1時間に短縮された。担当職員も88人から27人へと減った。
注目したいのは、単に開票が速くなったことではない。
選挙を成立させるために必要だった人間の作業そのものが減ったのである。
人口減少によって自治体職員の確保が難しくなるこれからの社会では、これは大きな意味を持つ。
そして、ここで生まれた余力を、単なる経費削減で終わらせる必要はない。
減らした人を投票する側へ
例えば、開票作業に必要だった人員を減らせたのであれば、その一部を投票所の運営に回す。
そして、投票所を増やす。
駅、ショッピングセンター、商業施設、大学など、人が普段から集まる場所に投票所を設ける。
「投票するために投票所へ行く」のではなく、「普段の生活の途中で投票できる」ようにする。
仕事帰りに駅で投票する。
買い物のついでに投票する。
子どもの送迎の途中で投票する。
電子投票による省力化を、投票する機会を増やすための資源に変えるのである。
投票率を上げるのは意識だけではない
投票率が低いと、「政治への関心が低い」と言われる。
もちろん、それも理由の一つだろう。
しかし、「忙しい」「投票所が遠い」「行く時間がない」「投票するのが面倒」といった、小さな障壁もある。
だから、「もっと政治に関心を持ちましょう」と呼びかけるだけではなく、投票そのもののコストを下げるという方法がある。
投票所を増やす。
生活動線上に投票所を置く。
電子投票で記入の負担を減らす。
投票に必要な時間を短くする。
「投票してください」と人を動かすのではなく、「投票しやすい社会」をつくる。その結果として、投票率が上がる可能性もある。
効率化で生まれた余力をどこへ戻すのか
行政のデジタル化では、業務を効率化した結果、人員や経費を削減して終わりになりがちだ。
しかし、本当に考えるべきなのは、その先ではないだろうか。
選挙事務を効率化して生まれた人、時間、費用を、投票環境の改善に振り向ける。
投票所を増やす。
投票所の運営を充実させる。
より多くの人が投票できる環境をつくる。
つまり、「選挙にかかるコストを減らす」のではなく、「選挙に必要な資源の使い方を変える」のである。
これは選挙だけの話ではない。
行政DXの目的は、人を減らすことそのものではない。
人間が時間をかける必要のない仕事を仕組みに任せ、その分、人間にしかできない仕事や、より多くの人にサービスを届ける仕事へ、人とお金を振り向けることにある。
選挙を生活の中へ
現在の選挙は、「決められた場所へ行って投票する」ことが基本になっている。
しかし、人の生活圏は住所だけで決まるものではない。
駅を使い、職場へ通い、買い物をし、学校へ行く。
だったら、投票所も人の生活に合わせて変わっていいのではないか。
電子投票は、単に紙をタブレットに置き換える技術ではない。
開票という大量の人力作業を減らし、その余力を投票機会の拡大に使える可能性がある。
「開票を効率化すること」が、「投票しやすい社会」をつくることにつながる。
選挙のデジタル化で考えるべきなのは、どれだけ人件費を削減できるかだけではない。
「削減した人と時間を、どこに戻すのか。」
行政DXとは、仕事をなくすことではない。
人間の仕事を、本当に必要な場所へ移すことなのだ。
