なお、この星の上に
第十六章
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男たちの話していることが、健太郎の耳にも入ってきた。道すがら仕入れた情報を交換し合っているらしい。今日は山が静かだ、と誰かが言っていた。まるで山が死んでしまったようだ。耳を澄ましてみても、動いているものの気配がない。
「これは不吉やぞ。前にもこんなことがあった。中津川の五郎が流れ弾に当たったのも、やっぱりこんな日やった。みんな山が静かじゃと言い合いよった」
「あのときは熊と間違えられて撃たれたんやなかったかの」
「そんなことやったろう」
「なんが不吉なもんか」別の者が滅相もないという口ぶりで打ち消した。「風が通り過ぎて、お山の向こうへ走り去ったのよ。そういうときには山は静まるもんだ」
「そうかの」
「他になんかあるんか」
「口ではうまいこと言えん」
健太郎の父は仁多さんや岩男さんと少し離れた場所で煙草を吸っていた。
「山の事故で誰かが怪我をしたり死んだりすれば、お山は静かなと感じられるもんよ」仁多さんが男たちの話を引き取って言った。「それはお山が静かなんやのうて、わしらの気持ちのほうが静かになっとる」
思い当たるところがあるのか、三人はしばらく黙って煙草を吸っていた。
「わしらの犬がうまい具合に野犬を追うてくれるかの」岩男さんが気がかりを口にした。「なんぼ野犬いうても犬には違いない。犬同士で言ってみりゃ身内みたいなもんだろう」
「両方が一緒に出てきたとき、間違わんように野犬のほうを撃てるか、あんまり自信がないの」と健太郎の父が言った。
「散弾ではどっちに当たるかわからんな」そう言って岩男さんは自分が持っている銃に目をやった。
「かといってライフルですばしこい犬を撃つのも難しい」父がつなぐと、
「まあ、そのときはそのときよな」仁多さんが鷹揚に収めた。
猟師たちが揃い、出発の時間が近づいていた。リーダーの男が無線で連絡をとっている。集まった男たちもいまは口数が少なく、いくらか緊張している様子だった。その緊張が健太郎にも伝わってくる。にわかに軍隊が招集されたようだった。彼らは隊列を整えて出撃を待っている。戦がはじまるのだ。誰もが残忍で、それでいて少し怯えた目をしている。
いよいよ出発の時間になった。流れ弾に当たったりして危険なので、ここから先は狩りの関係者以外は立ち入れないことになっている。
「じゃあ行ってくる」
父は言葉を残して歩きはじめた。その後ろ姿を見送るかたちになった。十数人の男たちが鉄砲を肩に担いで歩いていく。まるで隊列をなした兵士たちのようだった。鉄帽をかぶり足にゲートルを巻けば、いまこの場に戦場が立ち現れるだろう。
